逃避の8月31日
8月31日、僕は早朝にも関わらずオオバさんがいる廃墟に来ていた。だけど、いつものように手ぶらで来たわけでもオオバさんとの情事のために来たわけでもない。
今日はオオバさんとの関係について決めた事があるから、大きなリュックに着替えや財布などをいれてここを訪れたのだ。
そうして決意を固めた状態で縁側の側に立っていると、縁側にオオバさんが姿を現し、僕の姿にオオバさんはとても驚いた様子を見せた。
「あら……おはよう、青志君」
「おはようございます、オオバさん」
「こんな時間にどうしたの? なんだか大荷物だけど……どこかへ行くところ?」
「はい。でも、行くのは僕だけじゃないです。オオバさん、僕と一緒に遠くへ行きませんか?」
「え……?」
珍しくオオバさんが驚いた様子を見せる。そう、僕が選んだのは“駆け落ち”だ。若宮さんの件もあるし、まだ学校もあるからこの考えはあまりにも子供っぽいと思う。だけど、このオオバさんへの想いはやはり諦められないし、僕はオオバさんとの関係をただの肉体関係から恋人へと変えたいのだ。
「僕、オオバさんの事が好きです。これまでも好きとか愛してるとか言いましたけど、僕は本当にオオバさんの事を愛していて、色々な物を放り出してでもオオバさんとの恋に生きたいんです」
「青志君……その気持ちは嬉しいわ。けれど、貴方にはまだ学校も家族も……」
「……両親はもう良いんです。母さんもいつもイライラしていて、父さんも浮気相手に夢中になっていて、息子である僕に対して無関心になってきてます。
それに、学校だってこのままあそこにいても何か得られる物があるとは思えません。だから、オオバさんと一緒に遠くへ行って、オオバさんの事を側で支えたい。それが僕の選択なんです」
「……そんなのダメよ。貴方にはまだ色々な可能性があるし、それに……私には貴方からその気持ちを向けられるだけの価値なんて……」
「価値はあります。オオバさんも何か過去を抱えてるのはわかってます。だけど、僕はその過去すら受け入れてオオバさんと一緒に生きていきたい。これまでつまらなかった人生に光を与えてくれたのが、オオバさんなんです」
子供っぽい考えだとしてもその愛を大切にしながら生きたい。その想いを抱えながら言うと、オオバさんは少し迷った様子を見せた後、諦めた様子で息をついた。
「……どうやら諦める気はなさそうね。でも、私もそろそろ疲れてきてたし、これまで甘えさせてきた分、今度は私が甘えさせてもらいましょうか」
「オオバさん……!」
「けど、そのためには言わないといけない事もある。青志君、辛い事を言う事にはなるけど、その覚悟はある?」
「はい、もちろんです」
「……それなら良いわ。さてと、それじゃあ私も準備しないとね。そういえば、家には何か置き手紙でも残してきたの?」
「はい。行方不明の叔母さんを探すために母方の実家に日帰りで行ってくるって書いてきました」
「……そう。それならあながち嘘じゃないかもね」
「え……?」
オオバさんの言葉に疑問を感じたが、オオバさんはクスリと笑ってから人差し指を口の前に置いた。
「それは後で教えてあげる。さあ、待ってる間、上がってて」
「はい」
返事をした後、僕はいつものように縁側に上がって和室に入り、オオバさんが準備を始める中で これから始まる逃避の人生をどう生きていくかについて考え始めた。
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