8月28日
8月28日、夏休みも後数日となった今日もオオバさんのところに向かっていたが、ある出来事が頭の中に残っていた。
「……やっぱり、父さんは浮気してるみたいだったな」
昨夜の事、相変わらず両親が喧嘩をしているのでまずは父さんからどうにか出来ないかと思って部屋を覗くと、父さんは服を着ずに携帯電話を片手にイヤホンをつけたままで自分を慰めており、その姿を見ただけでもだいぶショックは大きかった。
しかし、その際にイヤホンから少しだけ音漏れしていて、音声を聞く限りだとどうやら父さんと浮気相手の情事の録音だったようで、相手は若い人なのかとろんとした少し幼い感じの声が父さんの名前を何度も呼んでおり、父さんもその相手の名前を呼びながら気持ち良さそうにしていて、これはダメだと思いながら僕は声をかけずに部屋を後にしたのだった。
「……相手の名前はアナっていうみたいだけど、なんだかどこかで聞いた事あるような声だった気がするんだよな……」
ただ、似たような声の人なんてどこにでもいるし、その声だけで相手を特定する事は出来ないし、今の僕に出来る事はないのかもしれない。
今の状況に対して特に何も出来ない事が悔しかったが、とりあえずこの事については置いておき、オオバさんがいる廃墟へ向けて歩いていった。
歩く事十数分、いつものように廃墟に着き、縁側に座っていたオオバさんに近づくと、足音に気づいたオオバさんがこっちを向いて嬉しそうに笑った。
「いらっしゃい、青志君。そろそろ夏休みも終わった頃かしら?」
「こんにちは、オオバさん。ウチの夏休みは31日までなのであともう少しです」
「そう。今年の夏休みは良い夏休みになった?」
「はい。オオバさんとも出会えましたし、色々な経験が出来て少し大人に近づいた気がします。ただ、ウチの両親がまだ喧嘩中ですし、父さんが外に浮気相手を作ってるみたいで……」
「……あら、そうなの」
「相手は父さんよりも若い人みたいで、このままだとウチは離婚かなと……」
喧嘩の果てに離婚をする二人を想像していると、オオバさんは僕を優しく抱き締め、いつもは興奮材料になっていた柔らかな感触が今だけは安心する物になっていた。
「オオバさん……」
「……出会いがあれば別れもあるわ。このままで良いとは言わないけど、もしものための覚悟だけは決めておいて良いと思う。青志君が言葉を尽くしても状況が変わらない事だってあり得るから」
「……はい」
「私でよかったら青志君の好きにして良いから、今日も存分に甘えていきなさい」
「はい……ありがとうございます」
オオバさんの優しくもどこか悲しそうな声に胸の奥がキュッとなった後、僕はオオバさんと一緒に縁側に上がり、和室の中へと入って破れ障子を閉めた。
夏休みの初めや中盤頃と違ってオオバさんとの一時はとてもゆったりとした物に変わったけれど、ガツガツしなくなった事で心の底から満たされるような感じがしており、あそこまで暴れまわっていた僕の中の獣も今日はとてもおとなしかった。
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