4話 はんぶんこ
「来たよー…」
「おや、元気がないようだけれどどうかしたのい?」
あの日から郁利は昼休みの鐘が鳴るのと同時に毎日生徒会室へ足を運んでいた。
生徒会長自身も彼が来れば、心なしか嬉しそうに微笑みながら話を始める。
郁利が来るのを楽しみにしていたのだろう。
「さっき体育の授業でね、先生の手伝いをしてて。着替えてから購買に行ったら全部売り切れだったの。」
「ほう。売り切れになることもあるんだねぇ。」
「うん、だからお昼御飯買えなかったんだ…」
郁利は落ち込んだ表情で彗と話しながらソファーに腰掛ける。
食べざかりの高校生にお昼抜きはさぞ堪えられないだろう。
「もし良ければ、私のお弁当を半分こしようか。」
「え!いいの?でも先輩の分が少なくなっちゃうし…」
そんな彼の姿を見て可哀想だと思ったのか、彗は自身の弁当を取り出すと分け合うことを提案してくれたのだ。
郁利は初め喜ぶも、すぐ申し訳無さそうな表情をして断ろうとしたとき、大きな音で腹の虫が鳴った。
「やはりお腹が空いているんだろう?私は少なくても平気だから。」
「んまっ!」
その腹の音を聞いて彗は、弁当の中にある玉子焼きを1つお箸でつかみ郁利の口元に運んだ。
彼は思わず口を開けて食べると、たちまち幸せそうな表情へ変わる。
郁利の喜ぶ様子を見ていた彗は他のおかずも箸で持ち上げ相手の口元へ運んでいく。
美味しいと言ってもらえたのが、嬉しかったのだろう。
彼にひと通り食事をさせ終えると、自身も残りの弁当を食べ始めた。
だが、ふとこちらを見る視線が気になり手を止める。
「どうかしたかい?」
「な、何でもないよ!」
彗はなにかついてるのかと不思議そうな表情をして、その人物へ問う。
質問に対し、郁利は間接キスしたことにドキッとしたなんて言えないと思い、慌てて誤魔化した。
同性愛者だと分かれば、嫌われるかもしれない。
彼はそれが怖かったのだ。
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