第2話 悲しみ

 エルベルトが遠征に行ってから二ヶ月が経ったある日、エルベルトの同僚のマリクが慌てた様子で店にきた。




「リリアンナさん、いますか!!」




「はい、なんでしょう?」




「エルベルトが!!」




「エルが……?」




「実際に見てもらいたいので、着いてきてください。詳しい事情はあっちで話します。」




「いや、ちょっ、待っ」


 リリアンナは手を引かれながらも他の店員の方を見てアイコンタクトをとる。




(ごめん抜ける)




(了解、早く旦那のとこに行ってやりなさい)




 そんな声にださない視線だけのやりとりをする。




 そしてマリクに引っ張られるように病院に連れて行かれる。


 そうして、ある一室に入ると、ベッドの上に頭に包帯が巻かれている以外、何処にも異常が見られないエルベルトの姿が見えた。


 眠ってるだけだとリリアンナは思い、どうしたのか聞こうとすると、医者がやけに張り詰めた顔でリリアンナを見ている。




「?」




 リリアンナは訳が分からず首を傾げると、医者が張り詰めた顔のまま、ゆっくりと話し出す。




「リリアンナさん、信じられないと思いますが……」




「はい」




「エルベルトさんは、酷く衰弱しており、今は眠っていますが、そのまま一生目を覚まさないかもしれません」




「は?」




 それを聞いたリリアンナは、頭が働かず意味を理解できずに固まってしまう。




「エルが、目を、さまさな……?衰弱……?」




 ようやく回りだした頭でも、現実を避けるかのように、リリアンナの口からはそんな言葉しか出てこない。




「エルベルトは、他の仲間を助けるために無理をしてしまい……魔法の使いすぎで魔力が付きかけて更には脳にも負荷がかかっている状態で、フラフラとしているときに無理矢理にでも支えに入れば良かったんですが、しばらく支えもなしに歩いていたら、雨で泥濘んでいた地面に足を取られそのまま転んで頭をうち、この状態に……すみませんでした!!」




 リリアンナはマリクのその言葉に現実を突きつけられた気がし、軽くよろけてしまう。


 マリクが慌てて支えに入ろうとするが、それを制しながら言葉を紡ぐ。




「大丈夫……です……ちょっと……エルと二人きりにさせてくれませんか?」




 リリアンナがそう言うと、医者は無言で頷き、マリクを伴って部屋から出ていく。


 それを眺めてから、エルベルトの眠っているベッドの横にある椅子に座る。




「ふっうぅっ……」




 嗚咽を無理矢理殺したためそんなため息が出る。


 そうしてしばらくしていると、エルベルトがぽそっと喋りだす。




「ごめん……ね?ちょっと無理……しちゃった……みたいだ……」




「……バカ」




「まぁ……悔いは……ないよ……?だって……こうして……リリィがそばにいてくれたし……皆も……助けれた……しね?」




「……バカッ」




「あぁ……俺は……なんて……幸せ者……だろうな?」




 そういってエルベルトは手をリリアンナの手に重ねる。


 繋がったところから感じる体温が。


 普段の力程ではないが、優しく握る手は、エルベルトがまだ生きているとリリアンナを安心させる。




「リリアンナ……私の……最愛の妻……この世で……誰よりも……愛しているよ」




 エルベルトはそう言い、リリアンナの手を口元に持っていき、口付けをする。


 それをした瞬間、エルベルトから完全に力が抜け、体温も冷たく変化していた。




 それでリリアンナはもう限界であった。




「ウウッ。エル……なんでよ……」




 嗚咽は噛み殺すことができず、漏れ出ていく。


 リリアンナは日が傾き始め、オレンジ色に染める時間まで泣いた。

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