その17 パリィ習得
彩音は学校と剣術の稽古が終わった後、早速バッティングセンターに来ていた。
最初は100km/hの急速でも悪戦苦闘していたが、流石は剣術少女。その優れた動体視力によって。すぐに慣れどんどんと急速を上げていく。
「やぁ!!」
1週間後には、170km/hの球を打てるようになっていた。
しかし、残念なことにバットコントロールがまだ上手く出来ないため、打球の方向が一定しない。
「ふぅー」
100km/hくらいなら問題なくホームラン出来るようになったのだが、170km/h以上になると流石に当てるだけで精一杯になってしまう。
「グリップが甘いのかな…。それとも、もっとコンパクトにバットを…… 」
彩音の独り言は止まらない。彼女は今、スイング改造計画を練って―
「違う! 違う! 私はここに目を慣らしに来ているだけだったよ!」
彩音はひとりぼけつっこみを行うと、スポ根少女になる前にバッティングセンターを後にする。
そして、自宅に帰ってくるとその夜、その成果を試すためにトラディシヨン・オンラインにログインする。
彩音は陽に叱られてから、刀によるパリィの練習をしながらソロ狩りを続けていた。
そして、今日から遂に遠距離パリィに挑む。
アカネは刀を構えてゴブリンのボルトに備えると、ゴブリンはクロスボウを構えて、彼女めがけてボルトを発射する。この1週間の努力の成果を見せる時が来たのだ。
(来た!)
風切り音をあげながら飛んでくるボルトは、170km/hの球速に目が慣れた彼女には遅く見えた。
(ゆっくりに見える。これならいける!!)
ボルトの軌道を見極めると、アカネは刀を斜めにして弾くように振り上げる。すると、ボルトは刀に当たり軌道を変えて明後日の方角へと飛んでいく。
「やった! 成功だー!」
感極まったアカネは、思わず喜びを声に出してしまう。
(よーし、もっと練習だー!!)
その後もアカネは、黙々とひとり練習を繰り返す。
そんなアカネの様子を陰ながら見守る者たちがいた……
「流石は、初音ちゃん…。僅か1ヶ月で対飛び道具パリィを体得するなんて……
すぅ… すぅ… ……ああっ いけない。危うく寝てしまうところだったわ」
木の陰から仮面を付けた初音が、睡魔と戦いながら妹を見守る。※もう寝てください
そして―
「暫く見ない間に… さらに出来るようになったな、初音君!」
どこかで聞いたようなセリフを吐く、木の陰から見守るTE○GAカラー侍ナオシゲ。
そんな二人は対面の木の陰に隠れており、不意にお互いの姿を確認する。
「なに? あの怪しいやつ!?」
「なんだ? あの怪しいやつは!?」
両者とも仮面で素顔が見えないので、怪しさ満載である。
「この変態め…! 私の可愛い彩音ちゃんをストーキングするなんて許せない!!」
初音は刀を抜くと、ナオシゲに駆け寄っていく。
「ちょっ! 待った!! 僕はストーカーじゃない! ただ見守っているだけだ!」
「変態はみんなそう言うのよ!!」
「いやあああああ!!!」
ナオシゲはその場から逃げ出すが、初音は追いかけていく。
8月16日―
ヲタク達の真夏の祭典コミケで無事販売を終え、エキサイトした陽は2ヶ月ぶりにログインする。
「おや、知らない内に水着クエが始まったんだね」
ハルルがインすると辺りには、夏のオンラインゲームあるある真夏の水着クエで、水着を入手して装備したプレイヤー達が至る所にいた。
「今日はアカネちゃんと水着クエでもするかな~」
ハルルが広場の噴水前で待っていると、アカネがログインしてくる。
「おまたせ~」
「アカネちゃん。今日は水着クエを受けに行こうよ」
ハルルが早速アカネにクエを受けようと提案すると、彼女は渋い表情で答えた。
「う~ん、私はいいかな~。だって、私はリアルの姿がアバターだから、水着は恥ずかしいし…」
「えぇ~! せっかくの夏だよ~? 水着クエ受けようよ~?」
ハルルは説得を試みが、アカネから手痛い反論を受ける。
「そもそもインドア派のハルルちゃんは、リアルでは海水浴やプールなんて行かないじゃない…。水着だって水泳の授業以外着ていないでしょう?」
「確かにそうだけれどもさぁ~」
アカネの反論に不満な顔と声で
アカネの反論に不満な顔と声で答えると、
「そうよ。水着なんてダメよ!」
二人の背後から、女性の声でアカネの意見に賛同する言葉が発せられる。その声の主は――
「お姉ちゃん!?」
はい。予想通り初音です。
自称妹を見守る姉は、可愛い妹の安全のために反対の理由を熱弁する。
「こんな飢えたオオカミたちの前で水着を着るなんて、鴨がネギを背負って自ら鍋にダイブするようなものよ! そのままアラスカのオーロラの下でカニ漁船よ!? お姉ちゃんは反対です!!」
「お姉ちゃんまで、カニ漁船とか言い出した!?」
アカネは水着の話よりもカニ漁船に喰い付いてしまう。
そんな熱弁を振るって気分が高揚している初音に、陽はそっと尋ねる。
「初音さん、本音は?」
「もちろん、彩音ちゃんの水着姿はお姉ちゃんだけのモノだからよ!!」
テンションがあがった初音は、思わず本音を漏らしてしまう。
「お姉ちゃん…… 」
そんな初音の発言を聞いたアカネとハルルは、「やっぱりかー」と呆れてしまう。
「こほんっ。とっ とにかくクエストがしたいなら、普通のモノを受けなさい? いいわね?」
「あっ はい…… 」
初音は笑顔でハルルに圧を掛け、彼女はその圧力にあっさりと屈する。
それは陽が初音の恐ろしさを嫌というほど知っているからで、そんな彼女に逆らうことは絶対にできないのだ。
「メインクエストなんてどうかしら? クリアできたら、なかなか良い報酬も貰えるわよ?」
このゲームには、物語の本筋であるメインクエストとそれ以外のサブクエストがあり、メインクエストは難易度が高いが、その代わりにクリア時の報酬は豪華だったりする。
「でも、メインクエストは4~6人が推奨ですよ?」
ハルルの質問に、初音は笑顔で答える。
「こういう時こそフレンドの出番でしょう? 私もフレンドに声を掛けるから、陽ちゃんもお願いしてみて」
「私も気軽にお願いできるフレンドは、一人だけですけどね…… 」
そう言って、ハルルはフレンドリストから、仲の良いフレンドに声を掛ける。
すると、相手からの返事はオッケーのようで10分後に一緒にプレイしてくれるらしい。
初音もフレンドリストから、一人のフレンドと会話を始める。
「 ―というわけで、メインクエをしたいから、手伝いに来てください。いいですよね?」
彼女は話し相手のフレンドにも圧力をかける。
「あっ そうそう。一人足りないから、フレンド一人連れてきてください。いいですね?」
そして、最後にもう一度圧を掛けた。
10分後―
まず姿を現したのは、何とナオシゲであった。
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