その15 パリィ
「では、盾によるパリィの説明からするよ。ナオシゲ攻撃してきてくれ」
「承知」
アルトはナオシゲの槍による突きを少盾、中盾、大盾と持ち替えて、次々と実践していく。
盾パリィは敵の攻撃が自分に当たる前に、その敵の武器を盾で内側から外側に敵の武器を弾く技だ。
武器を外に弾かれた敵は、一瞬ではあるが胴体ががら空きになり、その隙を逃さずに攻撃する事ができるカウンター技だが、当然その難易度は高いので失敗すれば使用者のほうがダメージを受ける事になる。
あと、敵の攻撃が盾で弾けない強力な一撃や使用武器が重量のある大斧などであれば、当然力負けして弾けずに盾ごと叩き潰されてしまう。
パリィのタイミング難易度は、小中大と難しくなっていくのだが、彼は難なくこなす。
「あとパリィは、片手で振れる武器でも出来るが難易度は更に上る。DEX(技量)補正の武器なら、難易度に補正が入ってやりやすいが、それでも難易度は高い。武器なら、受け流したほうがいいかもしれないな。まあ、受け流しも難易度は高いが…。ナオシゲ、手本を見せてやってくれ」
「OK.! …?! 承知!」
(あっ… 言い直した……)
どうやら、アルトの説明が長かったので、気が抜けて油断していた所に、急に話を振られたために、キャラを忘れた素で返事をしてしまったようで、彩音とアルトは苦笑いをする。
ナオシゲは十文字槍を背中に背負うと、左腰の鞘から打刀を抜いて構える。
アルトが「いくぞ!」と合図を送ってから、右手に持った直剣で袈裟斬りを行うと、ナオシゲはその振り下ろされた剣の刀身に、内側から中段に構えた刀を当てて見事に外側に弾いてみせた。
アカネはその見事な刀捌きに拍手する。
「ゲームと言っても、刀の捌き方は現実と変わらないんですね。これなら、私にも出来るかも…」
そして、アカネはそのように呟く。
だが、これはイキって言ったわけではなく、現実の剣術にもある動きであり、何ならもっと洗練された業となっている。
「じゃあ、やってみるかい?」
「はい!」
正直アルトは、アカネが成功するとは思っていなかった。剣パリィとはそれだけ高いプレイヤースキルが必要だからだ。
アルトが先程と同じように、「いくぞ!」と合図を送ってから、右手に持った直剣で袈裟斬りを行う。
すると、アカネは中段に構えた剣を少し上げながら、素早くアルトの右側に移動して、彼の振り下ろす剣の軌道の外側に逃げると、刀を彼の振り下ろした剣に当て下に弾くと刀を返して、そのまま流れるようにアルトの喉元まで刀を動かして刃を止める。
アカネはそのまま数秒ほど静止したあと、すぐに刀を引く。
「こんな感じでしょうか?」
アカネはそう言って、無邪気な笑みを見せる。
「おぉ…… 凄いな…… まさか、本当に成功させるなんて思ってなかったよ……。もしかして、君は現実で剣術を習っているのかい?」
アルトの感じたとおり、一連の動きには無駄がなく洗練されていた。しかも、アカネの動きは一切淀むことなくスムーズだった事から、素人目でもかなり練習している事が窺える。
「はい。幼い頃から天原天狗流という古流剣術を習っています。只今、絶賛入門者募集中です! 体験入門もやっています!! どうですか!?」
アカネは早速営業を始める。その表情は無邪気に笑う子供のような笑顔であったのだが、瞳の奥では獲物を狙う鷹のように鋭さが秘められているような気がしないでもない。
「いや… せっかくだけど、遠慮しておくよ。こう見えても、
「そうですか…… 」
営業が失敗したアカネは、まるでネズミを逃した子猫のようにシュンとして、落ち込んでしまうが、アヤニャンは新たな獲物を発見する。その目は獲物を狙う子猫のような鋭さであった。
「ナオシゲさん! ジャパニーズ剣術に興味ないですか!?」
今度はターゲットをナオシゲに変更したようだ。
しかし、ナオシゲの表情は非常に困惑しており、どう対応すれば良いのか分からずオドオドしていた。
そして、彼はアルトの方に目線を送る。それは助けを求めている。(助けて!)と言わんばかりだ。TE○GAカラーの甲冑を装備している割には、彼は女の子が苦手なようだ。
そこで、アルトは助け舟とばかりに次の説明に移る。
「そうそう。パリィは遠距離武器の矢弾や一部魔法も弾くことが出来るんだ」
このゲームの拳銃や弓、クロスボウから放たれた矢弾は、パリィ出来るように現実世界よりも弾速が遅く設定させている。とはいえ、100km/h以上なのでマニュアル操作では、それなりの反射速度と動体視力が必要になる。
このパリィによって、銃使い(ガンナー)一強というバランスにはなっていないと、公式は主張している。
その頃、その公式のGMであり妹を見守る姉、初音は―
「だっ ダメよ、彩音ちゃん!! 彩音ちゃんとお姉ちゃんは、実の姉妹…… しかも同性同士…… でっ でも… 彩音ちゃんがそう言うならお姉ちゃんは… お姉ちゃんは!!」
未だ寝落ち中で、いい夢を見ていた。
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