33. 折り鶴は羽ばたく。
あらすじを説明すると、皆が当惑した表情で顔を見合わせた。
「いくらなんでもおふざけが過ぎねえか」
「うーん、児童文学の域を出ないような気はするよね」
彼らの言葉ひとつひとつに不安を煽られながらも、わたしはこのキーワードが確かなのではないかと感じていた。
「でも、わたしはラーメンを通じて“月の側”に来たんだよ。麺は小麦粉から出来てる。なにかしらの繋がりがあると思うんだ」
するとじわじわと皆も可能性を感じ始めたらしい。先ほどの言葉はどこへやら、
「試してみる価値はあるな」
と前向きなことを言っている。
「儀式の詳細は分からない。お福の聞いたことが本当なら、どうせ儀式について書かれた本はもう燃やされているはずだ。扇子と言葉を使っていろいろやってみるしかないのかも」
「ねえ待って。つい浮かれてたけど、わたしはどうせ向こうに帰ることは出来ないんじゃないの? バランスが崩れちゃうでしょ」
紫水は腕を組んで目を瞑る。わたしが向こうに帰る場合のバランスを考えているのだろう。
目をゆっくりと開いた彼はにっこり微笑んだ。
「大丈夫、こちらには僕も黒曜もいるからね。ただ約束して欲しいのは、一日が経ったら帰ってくること」
一日でも帰れるなら十分だと思った。もう二度と“陽の側”には行けないという絶望を味わったわたしは、いつの間にか求めるものが少なくなっていた。
頷いたわたしの頭に、彼は手を伸ばしかけた。けれどもまた触れる直前で引っ込めて、
「それ以上は保つか分からないんだ。ごめんね」
と今度は悲しそうな笑みを浮かべた。
必要な物は揃っている。あとはどう使うかが焦点だ。
わたしとお福が折り紙をして遊んでいる間、紫水と黒曜は知恵を絞っていた。二人はカウンターに並んで座り、カウンターに指を滑らせて話し合っている。透明な筆跡を互いに真剣な表情で見ているのが、なんだかおかしい。
「風を吹かせた状態で鍵を使う、って言葉の通り、扇子で風を送ったまま言葉を叫べば良いんじゃない?」
「そんな単純なわけないだろ。紫水は俺なんかより賢いんだから、その優秀な頭をしっかり使ってくれよ」
「またそういうこと言う……」
二人の会話を聞いていたお福が、折り紙を鶴の形に折りながら言う。
「紫水くんと、誰かわかんないお兄ちゃん、すっごい仲良しだね」
わたしは笑って、彼女に耳打ちした。
「それ、二人に言っちゃだめだよ。『違う!』って怒り始めちゃうから」
と。お福は不思議そうな顔をした。
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