第20話 絶壁の廃墟



「まずは親子が住んでた屋敷だな」

「生前の屋敷かぁ。今は誰か住んでるの?」

「廃墟になってるらしい」

「うっ……」


 廃墟。オバケの住処。やな響きだな。


 ぽよちゃんつれて、猫車にて移動。場所はこの前行った三本橋岬の途中の海ぞいにある絶壁だ。そこに昔は立派なお屋敷だったんだろうなぁって廃墟があった。


「うわぁ、兄ちゃん。出そう」

「何が? アメちゃんなら、もう出てるぞ?」

「兄ちゃん、なぐるよ?」

「ハハハ」


 何が『ハハハ』なんだか。

 しょうがないんで、無頓着に廃墟へ猛進する猛のあとについていく。

 猛、なんで、ためらわないんだ? コイツの神経はザイールか? 僕だってオバケ以外には強メンタルなんだけどな。


 半分くずれて、屋根もぬけおちてる。石の壁や柱だけが残る建物跡に入ると、ひんやりした空気がただよっていた。


「な、なんか寒い。やっぱり出るんだ!」

「海風が窓の穴から吹きぬけるせいだろ」

「ああ、あそこの陰になんかいる!」

「ノラ猫だよ。あっ、ぽよぽよかもしれない。耳が長い」

「ぽよぽよの霊なら、ぽよちゃんが説得してくれるかな……」

「キュイ?」


 そんなことを話しながら、僕らは廃墟をくまなく歩きまわった。誰も住んでないし、オバケもいない。いるのは、ぽよぽよばっかりだ。ここらの草原、ぽよぽよが多いからなぁ。


「に、兄ちゃん! ぽよぽよの霊にかこまれた!」

「霊じゃないよ。生きてる」

「めちゃめちゃいっぱいいる!」

「おまえがしゃべりまくるからだよ。見ろよ。廃墟がアメちゃんだらけだ」

「ぼ、僕のアメちゃんはオバケにはやらないぞ!」



 アメちゃんをあげませんか?



 あれ? テロップに聞かれた。


「えっ?」



 ぽよぽよたちはアメちゃんを欲しがってる。

 アメちゃんをあげますか? あげませんか?


「えっと、生きてるならあげるよ」



 ぽよぽよAが仲間になった!

 ぽよぽよBが仲間になった!

 ぽよぽよCが仲間になった!

 ぽよぽよDが仲間になった!

 ぽよぽよEが仲間になった!

 ぽよぽよFが仲間になった!

 ぽよぽよGが仲間になった!

 ぽよぽよHが仲間になった!

 ぽよぽよIが仲間になった!

 ぽよぽよJが仲間になった!

 ぽよぽよKが仲間になった!

 ぽよぽよLが仲間になった!

 ぽよぽよMが仲間になった!

 ぽよぽよNが仲間になった!

 ぽよぽよOが仲間になった!

 ぽよぽよPが——



「ウワァーッ! ぽよぽよだらけ!」

「かーくん。どうすんだ? このぽよぽよたち。うちで飼うのか?」

「だって、あげますか? って聞かれて、あげないのってかわいそうな気がするじゃん!」

「じゃあ、ぽよちゃんが隊長な」

「ピュイ〜!」

「うーん。ぽよぽよの初期値は低いんだよ。可愛いからいいんだけど。モフモフしほうだいだね」


 ムダにぽよぽよを増やすだけだった。

 ただ、以前は誰かの寝室だったのかなって場所に、古い絵画が残ってた。たぶん、その家の主人と奥さんを描いた肖像画だ。


「この奥さん、クリスタさんだね」

「そうだな」

「なんか、透けてない?」

「透けてるな」


 変だな。クリスタさんってのか?


 とにかく、アーティの痕跡は見つけられなかった。もしかして、まだオバケじゃないのかな?


「じゃ、仲間も増えたし帰ろうか。兄ちゃん」

「そうだな」


 なんの手がかりもなく帰宅することになった。こんなだから、猛の探偵事務所は流行らないんじゃ……いやいや、兄ちゃんにはまだ奥の手がある!


 僕らは猫車にぽよぽよ軍団を乗せて、うちにむかった。

 モフモフ。モフモフモフ。モフモフモフモフモフモフ……あっ、我を忘れてた!


「かーくん。モフモフしてないで、外、見てみろ。なんかたいへんなことになってるぞ」

「へっ?」

「屋敷のようすが変だ」


 猛に言われて、僕はあわてて外をのぞく。

 なるほど。たいへんなことになってた。

 僕んちのまわりがモンスターだらけなんだけど……?

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