8月12日
普段使わない路線バスに乗り、ほんの10分ほどで作業所についた。住宅街からちょっと離れた場所に、体育館ほどの建物が3棟並んでいる。指定された建物はやはり体育館のように天井が高く、がらんどうとしていた。床がコンクリートむき出しで、端に衝立で囲っているだけの事務所がある。すでに20人ほどが待っている状態だった。
衝立の内側から作業着のおじさんが10時ちょうどに出てきて頭をぺこりと下げた。
「ここの責任者の右城です」
と紹介すると、せかせかと点呼を取り、返事をした人から壁際に並んでいる作業道具を取りに行かせた。ゴム手袋、プラスチックのたらい、低い椅子、そして小さなバケツ。バケツには白い粉が入っている。見た感じは塩のようだ。
道具をそろえたら別の作業着のおじさんに指示され、私たちは縦横4,5人ずつくらい等間隔に整列して椅子に座った。全員着席したのを確認し、右城さんが説明を始めた。
「これから布を配ります。それとホースでたらいに水を入れていきます。どちらも受け取った人から、バケツの塩で汚れをこすっていってください。あまり綺麗にならないとは思いますが、洗濯機にいれる前段階の作業です。これをしないと洗濯機で洗っても汚れか完全に取れません。ある程度こすったら手を上げてください。作業着の者が洗い終わった布の回収と次の布を渡しに行きます」
そこから太めのホースで水をもらって布を受け取るまで5分ほど待たされた。効率が悪い気がする。バケツに手を入れると、ゴム手袋越しでも粗塩だと判った。配られて布は、新聞を広げたくらいの木綿だ。所々に赤黒い汚れがある。布を水につけ、塩を掛け、ゴシゴシとこすってみた。汚れは落ちないがちょっと薄くなった気もする。どれくらいこすれば良いのか判らない。周りを見渡すと、やっぱり皆、布を広げたり、たらいの中を覗き込んで考え込むような顔をしている。
とりあえず全体を塩でこすってから手を上げてみたら、さっと作業着の人が来て確認もせずに回収していった。そして別の人が布を持ってくる。
たまに「ここ水足して!」という作業着の人の声も聞こえてきたが、作業中は誰もしゃべらない。しゃべってはいけない雰囲気があった。
昼休憩になってもそれぞれ弁当や惣菜を黙々と食べていた。私も家から持ってきた特大おにぎりをむさぼりながら、周りを見渡す。高校生くらいの子もいれば、中年くらいのおじさんおばさんもいる。皆一様に暗い表情をしていた。
3時ごろに作業が終了になった。
疲れた。あんまり手応えのない、洗濯と言って良いのか何なのかわからない作業を何時間も続けるのは苦行のようだ。
よろよろとバス停に向かっているとナツから電話がかかった。
『おつかれ~、どうだった?』
仕事内容をかいつまんで話したら、ナツの方もまったく同じのようだった。
「疲れたよ~」
『私も~。水面に顔が映ってて目が合っちゃったし』
「自分の顔じゃないの?」
『自分の顔なら気まずくないじゃん』
一体何に対して気まずいんだろう。とにかく明日も頑張ろうとお互い励まし合って電話を切った。
でも、これで10万か・・・・・・。バスに乗って改めてそう考えると思わずにんまり笑ってしまった。意味の分からない仕事だけど、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ達成感を覚えた。
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