異世界ポイ活 ~複利は勇者より偉大なり~

矢口羊

第1話 複利は人類最大の発明である

 今思えば僕はとても幸運であり不運だった。


 社会人になって1年目の夏、同じ部署の先輩が早期退職するという話を耳にした。少ししか関りはなかったけど、親切で頼もしい先輩だったので退職の理由がとても気になった。

 先輩の退職日が近づいてきたある時、社内の自販機前でばったりと出会った。プライバシーに踏み込む不躾な質問かもしれないと思いながらも、好奇心に負けた僕は先輩に退職理由を聞いていた。


「FIREするんだよ!資産運用がうまく行ってさ、自由に生きてもやっていける目途が立ったんだ!君も少しづつでいいからなるべく早く資産運用始めるといいよ。時間が味方してくれるから、若いうちからやると有利だからね!まぁ無理にとは言わないけどねw」


 目から鱗だった。社会人になるまでの人生で、僕にとって資産運用は少し遠い世界の話だった。

 嬉しそうに、楽しそうに話す先輩が羨ましてく、時間を見つけては投資方法や考え方を先輩に聞きに行っていた。先輩は退職するその日まで、快くその手法を教えてくれたのだ。


 それから早20年、当時の先輩の年齢は越えてしまったけど僕もFIREが出来るくらいの資産を作ることができた。


 長かったような短かったような。苦しかったような楽しかったような。なんとも言えない投資生活だ。これから少しずつ好きな事にもお金を割いていこうかなと思って居た直後。


 僕の人生は幕を閉じた。


 それは信号無視の乗用車だった。目の前を歩く男の子を咄嗟に歩道へ押し飛ばし、僕は宙に飛んでいた。硬いアスファルトを感じながら薄れゆく意識の中で、両親、友人、先輩への感謝と謝罪、まだ死にたくないという思いが浮かんだ。そして意識が途切れるその瞬間


「もっと配当も貰って人生楽しんでおくんだった」


 という強い思いが生まれ、そのまま闇に飲まれたのだった。





 どれくらいの時間が経ったのだろう。


 温かく心地よい闇の中。

 眠たいような、起きたいような。

 朦朧とする意識。


 突然の強い光と共に聞こえてくるハッキリとした声


「スキル:複利運用を取得。運用を開始します。」


 ・・・神様ありがとう!!!(居るかわからないけど)

 僕の意識が覚醒した。

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