Ⅸ‐3

 呼び出されて久方ぶりにお会いした佳奈子お嬢様のお召し物は白のダボっとしたシャツに黒のジーンズに帽子っていう相変わらずシンプルだけど似合う着こなしでカッコ良かった。うん、浴衣姿もいいけれども、こっちもこっちでとてもいい。俺は西島を待ってる間、夏祭りで見せてくれたみたいなはじける笑顔を期待したんだけど、西島は「何?」って顔でこっちをにらんできたから、ちょっと嫌な予感がした。


 わざわざLINEで呼び出してくるくらいだから、100%いい話なんだって勝手に期待してたけどそうじゃないっぽい。ヤバいな何かしたっけ? 身に覚えがあるような無いような、見聞色の覇気で察するにフルボッコにされそうな未来が見えて怖くなってきてて、そのまま近くのファミレスに入ったんだけど、そっからがまあ大変。


 最初に椅子に座って、西島にソファーの席を譲ったんだけど、そっち座ってって言われて俺がソファーの方に座って、座ったら座ったで怒涛どとうのお説教が始まった。


 西島は誘われるの待ってたのに、俺が勝手にバイト入れまくってて、会う気あるのか疑わしかったこととか、連絡を取り始めた時に貴様呼ばわりしたこととか色々。とにかく俺が予想してなかった角度からのダメ出しのラッシュ。


 俺だって言い返してやりたかったから言い返したけど、その3倍は言い返されて泣きそうになった。飯食ったら食ったで、西島の顔ばっかり見て食べてたから肉落っことすし、それを見た西島が何も言わなくなったのも怖過ぎる。


 本当はね、2人で飯だけじゃなくて、どっか行きたかった。別に今日じゃなくてもいいよ。もう花火とか終わっちゃう時期になってたけど、ネットで探してまだやってるとこのをさ、2人で見に行ったりしたかったけどさ、それを言い出すタイミングが見つからないわけですよ。「ぜってぇ今日言おう!」って気合いを入れて臨んだはずだったのに心が折れちゃってて言えそうにない。


 こんなん全然思ってたのと違う。俺の予想では西島は俺の誘いをずっと待ってて、それに気付かない俺に西島がやきもきしてついに折れてLINEで誘ってきたんだと思ってた。


 そんで「待たせちゃってごめんね」「ううん、いいの」みたいなそういう女の子の気持ちに気付かないでいた鈍感な男主人公のつもりで来たから落差のエグさに思考停止。この超絶お説教タイムから「花火を見に行こうよ」ってきりだすって相当無理あるよね? それがまた逆鱗に触れそうだし、どうしよう? 俺のターンはいつなの?


「貴様とかコミカル部分だから。嘘、ごめん。面白くないよね。うん、もう使わない。約束するよ」

「リトルカブのローンがあってさ、考えなしにバイト入れまくっちゃったけど、予定とか相談した方がよかったね。会いたくなかったわけじゃないんだよ」

「ローンなんかにしちゃったのが失敗だったかな」

「ごめんて。反省してる、マジで。全部謝るから。ねっ、だからさ、この話はもうやめようよ」


 言葉と態度で土下座外交。ようやく、ほんのちょっぴり俺のターンになったんだけど「西島は残りの夏休み、どっか行ったりしないの?」みたいな小賢しい探り入れたら「もう友達と行きたいとこ行ったし、別にどこも行かないけど?」って言われて俺のターンは終了した。「別にどこも行かないけど?」の「けど?」の疑問形で最後が結ばれてるところとか痺れますよね。


 西島に行きたいとこ聞くんじゃなくて、花火を見に行きたいって直接言えばよかったじゃん。何で俺はこんなにビビりなの? 常識が無いよねとかほざいてたじゃん。会う前とか、何なら俺が説教してやろうみたいな気持ちすらあったのに、どこをどうしたらこんな劣勢に立たされちゃうんだよ?

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