Ⅷ‐1

 俺ってば、殴ったり蹴ったりカツアゲしたり、ちょっと油断するとすぐバイオレンスなシーンに出くわしちゃうんだけど、あの日が特別だっただけで、それ以外の日常は普通に学校行ってバイト行って、その合間合間に村田さんにちょっかいを出す至って平和な日々だったりしたんだよ? いや、マジで。


 ほんで、夏休みに入る直前、俺達の地元では夏祭りがあって、そんな大層なもんじゃないんだけど、久しぶりに地元の友達と会うのもいいかなと思ってね、地元の夏祭りに行くことにしたのよ。


 中学の時はアホほど会ってたヨッチとバンブーって、めっちゃ頭いいやつと、柔道の国体選手に選ばれるくらい柔道の強いやつがいて、つるんでたんだけど、前に「誰も自分のことを知らない場所で、自分は何ができるやつなのか知りたい」みたいなことを言ったって話、覚えてる? それを言った相手がヨッチ。バンブーは、家が近所で幼稚園の頃からの幼なじみ。沢ちゃんを意地悪にしたようなのがヨッチ。高杉から知能をちょっと足しておっとりさせたのがバンブーだと思ってもらうと分かりやすいかもしれない。


 ほいで久しぶりに2人に会ったんだけど変わんないよね。まあ、3か月しかたってないんだから、そりゃそうだろうけどさ。


 相変わらず、ヨッチは頭の良さを意地悪することだけに特化させてたし、バンブーは高校を柔道の推薦で入ったからか部活しかやってないみたいな状態で大変そうだった。


 他のやつとも会ったりして、この間、由美子さんとファミレスで会ってたのとかも見られてたし、村田さんと度々帰ってるとこも、しっかり目撃されてた。


 声かけてくれりゃいいんだけど、見たその場で気軽に声かけられたりしなくて、ヨッチとかバンブーってワンクッションがあって初めて会話が成立するとこが距離置かれてるよね。みんな優しいのかビビッてんのか分かんないけど、寂しいなぁって思ってたとこに、青と黒の大人な浴衣を着た色っぽい女の子が視界に入ってきて、それが中学時代に好きだった西島にしじま佳奈子かなこだったのが分かるまでに時間がかかったくらい大人っぽくなってた。


 こっちに気付いた瞬間に笑顔になった西島にドキッとする。何だろう? すごく後ろめたい気持ちになって、村田さんとか中谷とか由美子さんとかの顔がちらついた。


 浴衣で下駄を履いてるからか、パタパタという音が聞こえてきそうな歩き方がペンギンを連想させて超絶にカワイイ。髪留めで留められた前髪と、そこからのぞく、おでこの黄金比率。世界は変革しなくとも、西島佳奈子のかわいさは会ってなかった3か月でこんなにもかとかって、また始まっちゃったよ。


 西島が村田さんと性格似てるんじゃなくて、村田さんが西島と性格似てるんだって気付いてしまった。あと俺は、村田さんみたいな背が小さくてニコニコ顔で黒髪のショートカットの女の子か、中谷や西島みたいに背が高くて髪の毛が栗色でできれば巻き毛でロングの子を好きになる傾向があるらしい。


 西島→中谷→村田→西島って脳内浮気ミルフィーユを何回すれば、本来、向き合うべき相手と向き合えるんだろうね。

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