トレジャーハンター兼、迷探偵クレアの事件簿
やえよい
第1話
シューベルグ島ヴェルン王国。
6つの島から形成されたこの世界の中で、3番目に小さな大陸だった。
しかし、島全体が国として形成されている点では中々の大きさの国なのである。
5つに別れた街区の内、南街区にその少年はいた。
金銀財宝を追い求める浪漫溢れる少年。
それだけじゃない。『探偵事務所』、所謂何でも屋を兼ね持ち人々の為に生きる少年。
……それこそが…
「この僕、
南街区の一角、探偵事務所にて僕は高らかに宣言する。
貴重な……じゃなくて、大切な友人、遥ちゃんの前で。
「…で、なに?なんの為にあたし呼ばれたのよ。」
「それはもちろん、街にある依頼掲示板の前で道行く人に声をかけて…」
「いやいやいや、あんたまた近所迷惑で通報されても知らないわよ!?!?」
「で、でもぉ…そうしないともう依頼来ないよぉっ!!」
そう、この水篠探偵事務所は1つ大きな問題があった。
…依頼が全く来ない事。
「……はぁ、それなら前作ったチラシとか貼れば良いんじゃないの?」
実は以前、宣伝になるかも!と軽くチラシの広告を作ったのだった。作ってからは放置していて、山のように重ねて置いてある。
「そ、それこそ怒られない?勝手に貼ったりしたら…」
遥ちゃんはため息を吐いて「違うわよ」と呆れる。
「だれも無許可で貼れなんて言ってないわよ。そうじゃなくて、総合組合所とか行って貼ってこれば良いじゃないの。」
総合組合所というのは、大抵全国にある大きな建物。
その国の職場探しや依頼の受付と申込といった冒険者組合としての役割だけでなく、街案内や商業施設だったりとかなり幅広く取り扱っている場所だった。
広告掲載も勿論沢山あって、組合の方に提出し許可が取れれば掲載完了なのだ。
「それ、良いねぇ!よーし早速……」
広告掲載の許可を取りに行こう!そう言おうとした時、遥ちゃんは思い出したかのように喋る。
「あ!ちょっと待って。今日大学じゃないの?」
「……へ?」
慌ててスマートフォンを取り出す。
……大学の友人からの連絡、着信が…何個も。
「あ……あああああっ!!!!!ご、ごめんっ!ここここの事はまた後でねっ!!」
「えぇ!?…もう…」
学校は南街区ではなく少し離れた東街区にあった。机の上に置いた物をとにかくかき集めてはリュックに入れ猛スピードで走った。
運搬車に乗っても良かったのだけれど、わざわざそんな事しなくても…
「魔法を使えば良いからね。風よ、我の元に集え。『ウィンド』!」
詠唱をして足元に風を集中させる。
背中を押されたような感覚で前に進んだ。
…さっきよりは早くなったでしょ。
「で、でも…ちょ〜っと早すぎかな〜!?!?」
体が持っていかれそうな程押されていた。
この魔法今の天候によっても色々変わるんだけど…もしかして、今日は風が強い日だった…?
半分暴走状態のまま動いた。
「う、浮いちゃう…!?」
空中でこの魔法を使うと、通常の浮遊魔法より疲れない代わりに方向転換が中々難しい。
流石に…不味い、かも?
「…魔法を取り消して普通に行くしかないか…」
人にぶつからないように慎重に魔法を切らしていき、地上に降りた。走るしかないか……
沢山の家が並ぶ住宅街を走り抜ける。ちょっと人とぶつかりそうになったりもした。これ見られたら怒られそうだな…
勢い良く走り抜けていたその時、曲がり角から誰かが通る姿が見えた。
あまりに勢いがあったので抑えられず、止まることが出来ない。ぶ、ぶつかる…!!!
「あだぁっ!?」「きゃっ」
やっぱり止まれなかった。通行人とぶつかっちゃうなんて…
僕の荷物も散乱してしまった。
「ああああっ!?あ、あああの大丈夫ですか…!?!?申し訳ありません!!!!!」
流れるように床に頭を付けて謝る。
「えっと……ふふ、大丈夫ですよ。この通り怪我しておりませんから。だから頭を上げてください?」
ぶつかってしまった人…彼女は少し驚いた顔で見つめた後、優しい笑みを浮かべて手を差し伸べた。
少し背が小さめで、中学生ぐらいなのかな…?
茶髪で声が澄んだように綺麗だった。
ただ…見るからに高価な服を着ている。これは絶対に貴族だ。
ま、まずい…貴族の方にぶつかってしまうなんて…
しかも、彼女が付けていたブローチが割れていたのだった。
「割れちゃっ…あっあっ本当に申し訳ございません…!!!どうか、どうか命だけはぁ…!」
「ですから、大丈夫ですと……ああ、これでしたらご心配なく。そんな高いものでもありませんし…お急ぎなのでしょう?私の事など気になさらないで下さい。」
「えっ…?」
彼女はそう言って散乱した僕の荷物を拾ってくれてた。
貴族と聞くと、正直傲慢なイメージがあったので驚いてしまった。
…やっぱり人は見た目じゃないなって思った。あ、いや、見た目からしても優しいんだろうなって感じはするけどねっ
「本当に…本当にごめんなさい!えっと…絶対!この件はお詫びさせて頂きますので!あ、物覚えはいい方なので…忘れません!で、では!」
時間も時間だったので急いで走り出した。
走ってる最中、名刺渡しておけば良かったと酷く後悔した。
…でも、きっとまた会えるよね…?
――――――――――――――――――――
クレアが走り去って行ったその後。
少女は彼が拾い忘れた探偵事務所の宣伝用のチラシを拾っていた。
暫くそれを見つめた後、小さな声で呟く。
「探偵…」
何かを考えながらまた歩き出した。
割れたブローチを片手に。
――――――――――――――――――――
「…と、いうわけなのだよ諸君。」
「「えぇ〜っ!?!?」」
昼休憩の時間、僕らは騒いでいた。
「女の子とぶつかるとかなんてラッキー…じゃなくて漫画みたいなハプニングぞ!?!?」
「…?クレアまだ寝ぼけてる?」
僕がいつもつるんでいる2人組の、遼とロレ。
数少ない友人だった。
「いや、本当にそれがさっきの出来事だとするよ。そしたら相手は貴族だって分かってんのにお前謝礼もなんもしなかったの?本気?」
せっかくのイケメンなのに女嫌いで性格にちょっと難ありなロレ。
「なるほど……これから遅刻しちゃおうかな…」
陰湿そうな見た目のせいで勘違いされがちだけど意外と明るい
2人とは大学から知り合った仲だが、それなりに仲良く?やっていた。
「そ、そういやもう新1年生は入ってきたんだっけ?」
予定だと、たしか今日から入ってきてるはずだった。
「あ?うん。今日からだったかなー、どっちでもいいけど…」
「ン、そういえば…今年の新1年って……」
エミスがそう言いかけた途端、向こうの方からドタドタと大きな靴音が近づいてきた。
「クレアせんぱ〜〜〜い!!!!!!」
白髪の少女は僕を見た途端に抱きついた。
「……し、白ちゃん、久しぶりぃ〜…」
ショートカットの彼女は巴木白。
中学からの知り合いで何故か僕にくっついてくる
不思議で変な女の子。
「せんぱ〜い、とってもとーっても寂しかったんですよぉ?でももう、これで来年も一緒ですね、先輩♪」
なんというか愛が重いタイプで、中学とか高校ではあんなことやこんなことも……うう、思い出しただけで気分が悪くなりそうだ。
「スーッ……あー、じゃあ俺そろそろ戻るわ。またな。」
「じゃあ、僕も戻りまsu……」
「はぁ!?ちょ、ちょっとまっ…!!!」
声を掛けた時にはもう遅かった。
「そ…そんなああああっ!!!!」
こんな調子で学校生活と探偵事務所を両立出来るだろうか。
先が思いやられる………
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