第22話 やったね!

そして、しばらく野々花から離れていた彼女の友人達が、野々花に声をかけた。

「野々花の小説読んでたら、野々花って凄いの書けるんだなって思った」

「だよね、あれだけの小説を書ける才能があったなんて」

 野々花の友人達は小説を読んだことで、彼女を見直したのだ。

「野々花、ごめんね。野々花が授業中あんなことを書いてるって知った時、気持ち悪いって思っちゃった。意味がわからなかったから」

 しばらく距離を置いていた友人達だからこそ、まともに話しかけられた野々花は若干気まずそうにもしていた。もとはあの時のことからああなっていたのだから自分の責任だったと。

 野々花は素直にあれがなんだったのかを告白した。

「あれは……ラミ丘の二次創作を書いてて、それのネタだったの。私、あの漫画でいろんな話を作るのが好きで……確かにあの時は変なこと書いてしまってたわ」

 野々花は素直だった。以前は隠していたはずのことを友人達に話した。

「そっか、あれ、やっぱりラミ丘の話だったんだ」

 この話をして、友人達は引くかもしれない。作品を汚しているかもしれない、軽蔑するかもしれない、という恐怖はあったが、それでも野々花は隠すよりも話した方がいいと思った。

「でも、野々花がああやって、いろんなことを書いてるからこそ、あんな凄い小説も書けたんだよね。そうやって普段からいろんな小説を書いてるからなんだよね」

「野々花だって好きなものを好きってことだもんね。好きなものは形にするものなんてそれぞれだし。野々花は好きって気持ち大事にして。楽しみ方は人それぞれだよ。みんな好きの形が違うもの。それぞれの楽しみ方もあるもんね」

「みんな……」

 友人達は、野々花の趣味を認めてくれたのだ。

「私だって、実は今まで言わなかった秘密あるよ。本当はすっごく声優さん大好きな声優オタで、ラミ丘見始めたのも好きな声優さんが出てたからだし」

「そうだったの!?」

なんと、野々花の友人の1人はアニメ好きでも声優好きでもあったのだ。それは今まで隠していたけれど、野々花と同じように、他の者もまた隠し事はあったのだ。

野々花はそう言われて、自分だけが秘密を抱えていたわけではないと知った。

「そうだよ。みんな1人1人、それぞれの秘密だってあるんだよ。だから野々花がそういうのあったって、おかしくないはずなのに。私達あれから野々花に辛く当たってたね。ごめんね」

 それぞれみんな公に言わないそれぞれの趣味の楽しみ方もあるのだと。

「ね、ね。今度野々花の他の小説も見せて。あれだけの小説が書けるなら他にもあるんでしょ?」

「でも、私の作品なんて、あれに比べたらまだまだ」

「あれだけの文才があるんだもの。野々花の書いた小説なら、きっと面白い」

「……うん」

野々花はいざこざがあった友人達と、すっかり元通りに話せるようになった。

 元々音乃はそう言った目的もあって、野々花と手を組んだわけだが、うまくいったのである。

 二人で頑張って書いた作品が結果的にそういった状況を作り出した。

その作品は、校内ですっかり話題になった。それだけ多くの生徒が目にしたのだ。



放課後になり、それぞれが部活や下校の為に教室を出ていく。

 音乃もまた、教室を出ようとしていた。その時だ。

「音乃、今日は一緒に部活行きましょう」

 教室の中で、野々花はこうやって音乃に話しかけるようになった。

 小説の合作の件で、もうクラスメイト達は音乃と野々花の関係を知ってる状態だからだ。

 野々花もまた、入学したばかりのとげとげしい性格から、あの一件以降は素直で明るい性格にもなったように思える。ある意味成長なのかもしれない。

「うん」


 2人は一緒に部室へ行った。

「こんにちはー」

部室に入ると、宮平先輩と石野先輩の机の上には、小冊子が2冊置かれていた。

 どうやら先輩はそれを読んでいたようだ。

「今これ読んでたの。音乃ちゃんと野々花ちゃんの小説、すっごく良くて、何度も読んじゃう」

「これ、ラミ丘にも影響受けてるって言ってたよね。まさに二人らしいよ。だって、愛須のこういうツンデレみたいなところ、アミエルとちょっと似てるし、面白い!」

「ありがとうございます」

 音乃と野々花は少し照れ臭くなった。

「あの時の野々花ちゃんと音乃ちゃんの制作秘話、感動しちゃった。音乃ちゃん達がいつの間にかそんなに仲良くなってくれたのも、部長として嬉しいな」

二人が合作をしたことで、それはもう全校生徒にもこの組み合わせは有名だ。

「ね、ね。今度二次創作とかも合作してみたら? 面白いのできるかもよ?」

「そうですね、もっといろんな挑戦してみたいです」

宮平先輩は元々音乃達が仲良くなれたらいいな、と思っていたそれは実現したのである。




「じゃあね、みんなまた明日」

 下校時刻になり、部活動の時間が終わった。生徒達は次々と玄関から下校していく。

 音乃も帰ろうとして、靴を履き替えたその時だ。

「ねえ、音乃、いつもの場所に行かない?」

 野々花がそう言った。いつもの場所、というのは当然ながらこれまでも何度か行った体育館のあの場所だろう。きっと野々花は何か伝えたいことがあるのだと、音乃は察した。

「うん、いいよ」

 

 二人はその場所に来た。

 夕方の体育館裏は夕焼けの光が影となり、少しだけ暗くもあるが、夕焼けも美しかった。

「私達の小説、みんなにも読んでもらえて、先輩達にも絶賛してもらえて、嬉しいな」

「そうね。まさかみんなあんなに大絶賛するとは思わなかったわ」

 2人はそのことが嬉しくてたまらなかった。

「ねえ音乃」

「なあに?」

「私と一緒に小説作るとか、なんであそこまでしてくれたの? 物語を作るって大変なのに、それを二人でやろうって誘ってくれたとか。今思うとなんでかしらって」

「なんでそんなこと聞くの?」

「だって、私は最初はあなたにきつくあたっていたのよ? きっと私の印象は最悪なものだと思ってた。アミロシについても、二次創作のことも、勝手に解釈違いだとかで地雷だとかあなたとは趣向が合わないとか言ったり、どこか傲慢な態度もとってた。今思うと悪いことしたなって……」

 野々花は最初の頃の態度と打って変わり、自分の感情を正直に出すようになった。

 傲慢な態度から、自分のことを反省するようになったり、相手の気持ちを考えたり、ある意味これも、試練を乗り越えたことの成長だったのかもしれない。

「そんなの簡単だよ」

 音乃は野々花の顔を見つめながら、言った。


「だって、私達、同じラミ丘好きで、同じカップリングが好きな者同士じゃない」


「ねっ」と音乃は微笑みながら言った・

解釈違いでも、趣向が合ってなくても、地雷でもそれでも同士なのだ。

 それも同じアニメが好きで、同じカップリングが好きだという奇跡だ。

世の中ありふれるほどのコンテンツがある中で、奇跡的に近くに同じ趣向のものがいたというのはその巡り会いですら運命のようにも感じた。

「腐女子だっていいじゃない。野々花には魅力だっていっぱいあるんだし。私は、そんな野々花のことが大好きだよ。一生懸命で、頑張り屋さんなところも! 解釈違いだとしても、同じ学校に同じジャンルで同じカップリングが好きな人がいて嬉しかったから」

音乃はそれが野々花にずっと伝えたかったことだ。

「野々花の小説を望む人だっていっぱいいるよ。 きっとこれからも野々花はいっぱい小説を書くことができる。だって、そうじゃない。同じカップリングが好きな私が言うんだから」

 音乃のその言葉に、野々花は何かこみあげるものがあった。

「あり……がとう」

 野々花はうつむいた、まるでそれは今の表情が恥ずかしくて見られたくないかのように。そして、こう言う。

「音乃、私はこれからも小説を書こうと思うわ。一度諦めかけたことだったけど、今回のことでまたやってみようって思った。ここで終わらせるのはもったいないって」

野々花のその目には希望の光が宿っていた。これが決意かのように

「うん、応援する」

「その……音乃にも読んで欲しいなって。私達の小説も見せあいっこしたいっていうか……」

「ん、どういう意味?」

 野々花は恥ずかしそうにモジモジしながら小声で言った。

「だから、その……これからも友達でいなさいよってことよ!仲良くしましょうって言ってるのよ!友達としても、ライバルとしても」

「素直じゃないなあ」

 感情を吐き出し、ここまで来れば野々花はいつもの口調を取り戻した。ある意味これだけのことが言えるようになったのは音乃をそれだけ信頼しているということかもしれない。

「いいこと! 私達は友達だけどライバルでもあるのよ!」

 その台詞を言う野々花はいつもの調子でありながら、音乃を信頼しているという気持ちもやどり、表情は嬉しそうでもあった。

「うん!」

 音乃ははっきりと頷いた。


「じゃあ、拳を合わせましょう」

 野々花はそう言った。

「拳って?」

「アミエルとロシウスがアニメでやっていたでしょう。お互いの友情を深めて、ライバルとしてこれからも成長していくって。その、友情の証っていう。拳をくっつけあうあれよ」

 音乃はその場面を思い出した。

それはラミ丘のアニメオリジナル部分でも名場面と言われた有名なシーンだ。2人の友情が固く結ばれているということを証明させる行為として。ファンの間でも評判だ

「ああ、あれね」

 まさに音乃にとっても野々花にとってもそれは2人に合うシチュエーションだろう。

 それをまさに今やろうというわけだ。あのシーンの再現としても、この状況に合う。

「ほら、拳! 拳を構えて!」

「うん!」


 野々花は手をぐーに握り、拳を突き出した。

 音乃もまた、拳を握り、突き出した。

 向き合った二人の拳同士がこつん、とぶつかり合う。


「じゃあ私達、友達ね!」

「そしてライバルよ!」

 お互いに見つめ合った二人の瞳は輝いていた。

 二人の姿をオレンジ色の夕日が照らす。そして地面には二人のの影が伸びる。

まさにラミレスの丘のあのシーンの再現だ。それはまさにラミレスの丘でいえばロシウスとアミエルだろう。それが今、音乃と野々花ににとってもここはあの二人の再現だと。


大好きなアニメ、同じカップリングが好きな者同士、共通の趣向により、この二人には熱い友情、そして絆が芽生えた。

最初の頃にそびえていた分厚かった壁も崩れた。そして強い信頼関係もできた。

そして約束した。「もっとみんなを楽しませる小説を書いて行こう」と。

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