第51話 コピー


中学生の頃、親戚のおじさんが突然亡くなった。

家族が無く、私たち家族が事務手続きなどに奔走することとなったのだ。提出する書類が大量に発生し、父の命で近所のコンビニへコピーを取りに行った。何種類もの書類を順調にコピーしていき、最後の一種類。原稿をセットし、無事に出て来た紙には、原稿の上から真っ赤な手形がついている。

「ひっ!」

急いでコピー機の蓋を持ち上げて確認しても、何も無い。恐る恐るコピーし直しても、やはり手形がついている。元の書類にも、手形なんて無い。怖さと訳の分からなさで何も出来なくなり、それらを持って半泣きで家へ引き返した。父に紙を見せながら事情を話すと、そうか、とだけ頷いた。

「斎場に行くぞ」

「何で」

今の今で、正直行きたくない。でも、父が大丈夫、何とかする、と言うので渋々着いて行く。父は斎場に着くなり、おじさんの眠る棺桶へ突進するように向かう。そのまま蓋を開けて、大声で言った。おじさんに顔を向けてるけど、声は空間に向けてるみたいな言い方。

「あんたは死んだんだ!自覚が無いのは仕方ないが、俺の子どもを怖がらせるな!」

がさっ、と私の背後でお線香の束と蝋燭が落ちた。私と父が振り返ってしばらくそれを見てたけど、後は何も無い。父は息を吐き出して、蓋を閉めた。二人でそのお線香を上げ、手を合わせて斎場を出る。

その後。最後の一種類の書類、死亡届は無事コピー出来た。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る