第32話 黒いマニキュア


友人は、最近学校にいる間、決して一人でトイレに行かない。私が行く時にだけ、ついて来る。

「何で一人で行かないの?」

「一人で行くと気持ち悪いもの見るから、嫌だ」

「気持ち悪いもの?」

「トイレに行くとさ、奥の個室が閉まってて、ドアの上から手が、指先だけ出てるのが見えるの。爪に真っ黒なマニキュアしててさ。それがとにかく気持ち悪い。いつも誰もいないし」

休み時間は毎回必ず見たので、ある時わざと授業中に行ったところ、やっぱり黒いマニキュアの指先を見た。それ以来、一人でトイレに行くことを止めたらしい。

「複数で行くと見ないし。それにさ。最後に見た時、ただ出てただけの指先がドアを強い力で掴んでた。間違っても、出て来るとこなんか見たくないじゃん」

そう言って、友人は疲れたように笑った。



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