第26話 人数


「あれ?人数足りないな」

幹事をしていた先輩が、テーブルを見渡して呟く。

今夜は会社の飲み会で、ある居酒屋を貸し切りにしている。皆、既にどんちゃんしていた。

「二十二人でしたっけ、参加者」

「そう。でも二十一人しかいない。数え違いかトイレかな」

今度はトイレも確認し、先輩はもう一度数え直す。俺も数えてみた。二十一。

「二十一。おっかしいなー俺まだ素面だし」

飲み物も食べ物も、二十二人分ちゃんと用意されている。なんなら、全部手をつけた跡もある。店からも、何も言われなかった。勝手に帰ったやつがいるのか?顔を見合わせる俺たちを見ていた上司が、ポンと手を打った。

「そういやここ、あの居酒屋か!ちょっと改装してたから気付かなかった」

上司を見れば、俺たちに顔を近付けてきた。

「人に言わない、っていうなら、教えるけど」

先輩は言わないと即答した。ここまで来て聞かない訳にもいかない。俺も頷いた。上司は声を潜めた。

「うちの会社、何年か前まではずっとこの居酒屋使って飲み会してたんだよ。でもある年に、社員が一人倒れて、そのまま亡くなったんだ。それから、ここで飲み会すると必ず人数が合わなくなってな。いつの間にか、一人足りなくなる。つまり、誰か一人多いんだ。誰だか毎回分からない。こっちも、店も。店を変えたらピタッと無くなったから忘れてた。そうか……やっぱりダメなんだな」

最後、上司がしみじみ呟くのを、先輩は青い顔で聞いていた。

以降、先輩が都度幹事に拝み倒し、この居酒屋での飲み会は無くなったのである。



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