帰還
空間の歪みはどんどん大きくなり、人一人通れるくらいの裂け目が出来る。そしてそこから黒い箱が出てきた。
「これがビーコンですか?」
「あぁ、そうだなちょっと離れてろ」
「は、はい……」
ゼノが少し離れたのを確認するとスイッチはビーコンの中に手を突っ込む。
そしてケーブルの様なものを取り出し、端末に繋ぐ。
「本部にここまでのルートを送る、空間が一瞬不安定になるから気をつけろよ」
ゼノは緊張しながらも頷く。
(空間が不安定……)
スイッチはケーブルを引き抜くと、黒い箱に接続された端末を操作する。
すると辺りの風景が一瞬ゲームのバグのように振動した。そして全身が携帯のバイブレーションの様に振動した感覚に陥ると同時に収まる。
「はぁ……はぁ……なんだったんですかこれ」
ゼノが息を整えながらスイッチに尋ねる。
「今のは簡単に言うと『門』を逆側から叩いた反動だ、気分最悪だろ?」
「……はい」
「だから今は違う帰り方が採用されてるんだ」
スイッチはそう言いながら裂け目から出てきたワイヤーのようなものを掴む。
「これで帰れる」
「まさかこれに掴まって?安全なんですか?」
ゼノは不安そうに聞く。
「流石に掴まるのは無理だ、これ付けろ」
スイッチはカラビナを渡しながら言う。
ゼノは渡されたカラビナをベルトに付けながら聞く。
「……こんなので大丈夫なんですか?」
「3回しか壊れた事ないから大丈夫だろ」
「大丈夫じゃないじゃないですか!」
スイッチはカラビナをもう一つゼノに渡す。
「心配ならこれもつけとけ、俺はフォルスを出す」
そう言いながら腰の黒い箱を外す。
「えぇ!?何でですか!?」
「この箱に入れたままサルベージするとどうなるか分からんからな、ハンバーグになってたら困るだろ?」
スイッチはそう言いながら黒い箱を地面に投げると箱が開き、一瞬の光とともにフォルスが現れる。
「外道共め、なんの用じゃ」
両手を拘束されたフォルスは悪態をつく。
「捕まってるのに態度デカいな……」
そう言いながらスイッチはフォルスのベルトにカラビナを着ける。
「……連れて帰る気か?」
「あぁ、色々聞かなくちゃならないんでな」
「……好きにせい。妾は何も話さんぞ」
スイッチはフォルスにカラビナを取り付けるとワイヤーの束を一本掴む。
「だろうな、そういう奴は何人も居た」
スイッチはそう言いながらビーコンの中に入る。そして、また端末を操作し始める。
「痛くないですか?」
ゼノは小声でフォルスに聞くがフォルスは目を合わせようとせず無視する。
(まあ、そうだよな……)
「出来たぞ」
カラビナをベルトに取り付けながらスイッチが言う。
「お前ら、空中でプランプランしたくなければココに足を掛けろよ」
そう言うとスイッチはワイヤーの下部分の輪っかになっているところをに足を入れる。
ゼノとフォルスもそれに従い、輪っかに足をかける。
「よし、それじゃあ行くぞ」
スイッチが端末を操作すると同時にワイヤーが巻き上がり、共に裂け目に吸い込まれて行く。
吸い込まれる直前、ゼノは先程の感覚が来るのを恐れて目を閉じた。
(……ん?)
あの感覚を感じなかったため恐る恐る目を開くと目の前には無数の星の用な光が浮かぶ黒い空間が広がっていた。
ゼノは見渡す限りの光を見つめる。
ある光の中には銀河が、他光の中には森のような景色や、大都市、近未来の世界、大陸だけの世界など、それぞれの光に、それぞれの世界が広がっていた。
「綺麗だ……」
思わずそう呟くと、後ろにいるフォルスが笑い出す。
「はっ!『綺麗』じゃと?笑わせるな小僧」
「え?」
ゼノはフォルスの発言の意味が分からなかった。
その反応が気に食わなかったのか、キツい声で言う。
「お主らがこの世界達を崩壊へ導こうとしとるんじゃろうが!」
「フォルス!お前の発言は今後の待遇に影響する、これ以上はやめておくのが身のためだぞ」
スイッチはフォルスに警告する。
「何じゃと?」
「そのままの意味だ」
フォルスはスイッチを睨み付けるが、直ぐに目をそらす。
「スイッチさん、あの星みたいな奴って……」
「そうだ、あれが『狭間』から見た異世界だ、普段は『門』を使うから見えないがな」
『狭間』とは、宇宙や世界の外側に位置する空間だとスイッチは説明する。
(全くわからん!)
ゼノが心の中で叫んでいると、頭上に巨大な宇宙船の様な物が現れる。
「うわわ!?」
「慌てるな、あれがOCOの本部だ」
驚くゼノにスイッチが落ち着くように言う。
(で、でかい……)
「まあ、中の空間は船の見てくれより広大だからな、それを縮めてる状態だ」
ゼノがあまりのスケールの大きさに口をぽかんと開けながら見ていた。
「もう少しで着くぞ」
スイッチがそう言うと同時に一瞬の光に包まれたかと、思うと『門』の部屋に立っていた。
「成功だッ!」
アークが目の前で謎ポーズを取ってそう言った後にアークの後ろから歓声が湧く。
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