機巧人形<ガランドール>~役立たずだとチームを追放された機巧技師、最高の操縦者と魔導士と共に、最強の人型メカを作る~

GIMI

第1話 機巧技師、追放される

 原因はいくつかある。

 雪国出身の僕が、初めての夏の気候を経験し、完全にバテバテだったこと。

 1人でダンジョン素材を集めるしかなく、度重なる魔物との戦闘で、身体がボロボロだったこと。

 そして、何より、決闘デュエルの日までに時間がなく、3日間寝ずに作業をしていたこと。

 それらが重なった結果、疲労が限界に達していた僕は、見事に"落ちた"。

 結果として、整備が完了していない機体は、起動さえままならず、不戦敗という形になったわけだ。

 機巧技師クラフトマスターとしてあるまじき失態。

 だが、その時の僕には、その失敗を自覚できるほどの余力すら残っていなかった。

 それほどに、僕は、たった1人での作業に、疲弊しきっていたのだ。


「この野郎が!! なんてことしてくれやがったんだよ!!」


 襟首をつかまれ、空中に吊り下げられながら、どこか客観的に、目の前で猛り狂う同級生の姿を眺める。

 制服姿に、冒険者らしい筋肉質な肢体。

 僕のトライメイツであり、冒険者のマクランだ。

 彼は怒りに満ちた表情で、僕の事を睨みつけていた。


「てめぇのせいで、俺達"ウォルプタス"は、初めて負けた!! それも不戦敗だ!!」

「そうよ!! まったく、私達の顔に泥を塗ってくれたわね!!」


 マクランの隣に立ち、同じく僕を糾弾する女性の名はルチック。

 本名をルチック=フォン=レーラズといい、子爵家の三女であり、魔導士だ。

 僕とマクランとルチック。

 この3人は、同じ目的のために結成されたトライメイツと呼ばれる学生チームだった。

 だけど……。


「お前みたいな役立たずは、もういらん!! とっとと消え失せろ!!」

「そうね。せっかく、私達の機体の整備を任せてあげたっていうのに、恩を仇で返された気分だわ」


 マクランが、僕を乱暴に床へと投げ捨てた。

 ただでさえ、蓄積した疲労で朦朧としていた意識が、一気に飛びそうになる。

 もう、痛みすらも、ろくに感じない。

 僕のうつらうつらとした様子を見てか、マクランがさらに怒りを募らせた。


「ちっ、本当に、いらいらするぜ……。こんなに使えないとわかってりゃ、てめぇをチームに入れることもなかったってのに……!!」

「マー君、切り替えましょう。もっと良い機巧技師クラフトマスターなんて、いくらでもいるわ。伝手だってあるし、こんな奴に構ってないで、さっさと新しい人見つけるとしましょうよ」

「ああ、ルチックの言う通りだ。けっ、このゴミが……!!」


 途切れそうな意識の中、最後に見たのは、倒れる僕をさらに足蹴にしようとするマクランと、その横で嘲笑を浮かべるルチックの姿だった。 




 およそ半年前だ。

 僕は、機巧技師クラフトマスターとして、故郷を出て、この世界の中心ともいわれる孤島、ネリヤカナヤの島立学校へと入学した。

 目的は1つ。この島だけで、運用が可能とされている人型の決闘競技用メカ、機巧人形ガランドールを製作するためだ。

 そのために、僕は、たまたま機巧技師を探していた同級生のマクランとルチックに誘われる形で、トライメイツを組んだ。

 それから3か月、学業と並行しながら、僕は、チームの整備担当として、ひたすらに働いた。

 ルチックが学園の卒業生である姉から受け継いだというそれは、決して悪い機体ではなかったが、よほど前の持ち主が乱雑な扱いをしていたのだろう。

 整備不良も甚だしく、実戦で使用できるまでにするのに、かなりの労力を要した。

 時には、1人でダンジョンに潜り、素材を集め、時には、鋼材屋さんになんとか物品を融通してもらおうと、頭を下げた。

 資材不足はいかんともしがたかったが、アイデアと工夫で、それなりの性能を発揮できるまで、僕は調整を続けた。

 その甲斐あってか、始まった競技会──機巧決闘ガランデュエルの予選では、2戦2勝。

 マクランとルチックは大いに喜んだ。

 もっとも、その手柄は、操縦者であるマクランと魔導士であるルチック、2人のものだと本人たちは考えていたようで、機巧技師である僕には、一言だって、ねぎらいの言葉をかけてくれることはなかったのだが。

 だけど、それでも、良かった。

 この島に来て、はじめて機巧人形ガランドールに触れて、本当に楽しかったのだ。

 でも、それにのめり込むあまり、自分の体調を顧みなかった僕は、ついにミスを犯してしまった。

 機巧技師として、取り返しがつかないミスを。


「はぁ……。チームを追放されるのも、当然だよな……」


 体調がなんとか回復した3日後。

 久しぶりの授業は、全く頭に入らず、帰り支度で、あわただしく動き回るクラスメイト達の中で、僕は、一人机のシミをただただ眺めてた。

 実際、整備を受け持ちながら、試合までに、万全の状態を作れなかったのは、僕の責任だ。

 無茶な日程だと心では思っていても、それを2人に伝えることもできず、無理をして、結果、不戦敗を喫した。

 姉がいれば、リスク管理ができていない、と叱責されたことだろう。

 学校に来てみれば、マクランとルチックが吹聴したのか、もう、僕の失態については、とっくに他の生徒たちに知れ渡っているようだった。

 元々、2年前に卒業した姉のせいで、学生内では比較的よく知られていた僕ではあるけど、これで、また、悪い意味で、僕の名は有名になってしまった。

 これから、新しいトライメイツを探すのも、かなり難しくなってしまったことだろう。

 そんなことを考えて、ため息をもらしていると、ふと、誰かの白い手が、視界の端に入った。


「ビス君、ちょっといいかしら」


 僕の名を呼んだ白い手の主は、このクラスの担当教官であるゼフィリア=ランサス先生だった。

 ブロンドの巻き髪をした美人で、学生達の人気も高い。


「何でしょうか。ゼフィリア先生……?」

「あなた、トライメイツから脱退することになったそうね」

「え、あっ……はい」


 トライメイツとは、機巧人形ガランドールを運用するための、学生だけで結成されたチームのことだ。

 基本的に、3人1組で結成され、学校に申請することで認可される。

 つまり、学校側はすでに、僕の脱退の件については把握しているということで、ゼフィリア先生がそれを知っているのも当然だ。

 もしかして、ここ数日の体調不良での欠席の御咎めを受けてしまうんだろうか。

 少しだけ身を縮こまらせた僕だったが、そんな僕を見て、ゼフィリア先生は、にこりと微笑んだ。

 

「あなたに相談したいことがあるの。悪い話じゃないから、安心して」

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