第28話 改めて
ヴィトを抱えたまま、鋼鉄の斧が待つ机へと向かう。彼らは次の依頼内容について話し合っているのか、何かを飲みながら地図を広げて真剣な顔をしている。
「すみません、お待たせしました。」
「お、来たな。ちゃんと登録できたか?」
「マサヨシが気にすることじゃないよ。さぁ、こっちに座って。」
「お邪魔します…ええと、はい。何故かギルドマスターが窓口に居て、対応していただきました。」
「ふふ、良い人だったでしょ?うちのギルマスってば、『人となりは自分の目で見なきゃいけねぇ!』とか何とか言って、人がよく観察できる窓口に座って仕事をしてるの。でもその代わり、窓口仕事ばかりしすぎてミーアさん…あ、副ギルドマスターね!副ギルマスのミーアさんにいつもギルマスの仕事をしろって怒られているのよ。」
「へぇ…なんというか、熱心な方なんですね。」
「というより、この国が不安定だから…冒険者が巻き込まれてないか心配なのよね。あの人、面倒見が良いもの。」
「不安定、ですか?」
「ええ。」
この街に来たばかりではあるが不安定そうには見えなかったから、少し驚いた。首を傾げていると、ハギルさんが手を挙げる。
「その話もいいが、とりあえずもう一度改めて自己紹介をしないか?マサヨシから聞きたいこともあるだろうし、俺たちからも聞きたいこともうんとある。」
そういって、ヴィトに視線を向けた。うん、突っ込まれないから見えてないのかと思っていたけど、やっぱり気づいてはいたらしい。俺が頷いて口を開こうとすれば、飲み物が届いた。どうやらトールさんが俺の分も頼んでおいてくれたようだ。ありがたい…
トールさんにお礼を言って受け取り、再度4人を見渡して口を開く。
「俺はマサヨシ、人間です。こっちはヴィト。実は昨日ハギルさんたちと会った時も懐にいたんですけど、魔物への耐性だったり偏見だったりがわからなくて隠していたので、ご挨拶が遅れちゃいました。…すみません。」
ペコリと頭を下げる。ヴィトも自分のことだと理解しているためか、一緒にペコリと頭を下げてみせた。そんなヴィトに驚く4人。
「すごい!こんなに小さいのに、もうマサヨシの言葉を理解しているのか?」
「はい。とても賢い子で、ハギルさんたちの言葉も理解できていますよ。」
「!それは本当か?すごいな…いや、さては…」
俺の返答に少し考え込んでしまったハギルさん。代わりに、トールさんが口を開いた。
「確かに昨日、マサヨシが何かを隠していることは感じたんだ。そのせいもあってか、あの時は少し対応が固くなってしまってね。こちらこそごめんね。だけど、祝福を受けた人だと知って悪いものを隠しているわけではないと理解したから、あの場では深く聞かなかったんだ。それに僕たちも依頼の最中だったしね。」
「な、なるほど…皆さんも魔力感知スキルが高いということですね。」
「ええ、一応私たちこの辺りでは名の通ったBランク冒険者だもの。」
メディシアさんがフフンと胸を張るが、…すごい。何とは言わないが、大変すごい。これがけしからんというやつですか。なるほど、けしからん。
そんな俺の思考を知らない彼女は、続いて自己紹介を始めた。
「パーティー名は鋼鉄の斧。リーダーは彼、ハギル。私は魔導士のメディシアよ。どちらも人間ね。そして、こっちはヴァナラのシルヴィー。私の従魔よ。ヴィト、仲良くしてあげてね。」
ハギルさんはくすんだ金髪で後ろと横髪を刈り上げており、瞳は澄んだ空色をしている。たぶん身長は190近いだろう。ガタイもよく、背中にはとても大きくて重そうな斧を背負っている。鎧も分厚く、その言葉たちだけを聞くと暑苦しそうに思えるだろう。しかし、髪型や彼自身の色味からサッカー部にいそうな爽やかさを彷彿とさせ、暑苦しく見えないのが凄い。これがイケメンパワーというものだろうか。く、悔しくなんてないんだからね!?
一方、メディシアさんは甘く酔えそうなワインレッドの髪を腰まで伸ばしており、瞳はトロリとこれまた甘そうな蜂蜜色をしている。身長は俺と同じくらいだとは思うが、ヒールを履いているためこちらも180を超えているだろう。そしてなんといっても、彼女は美人でスタイルが抜群に良い。そんなメディシアさんを観察していると目が合い、逸らす間も無くウインクをしてくれた。あまりにも様になりすぎて、照れるよりも先に拝んでしまう。
そしてシルヴィーは、白い毛をもったリスザルのようで、大変可愛らしい。モフモフというよりはサラサラタイプかな?俺たちが眺めている中、シルヴィーは恐る恐るヴィトに近づいていき、ツンツンとつつき始めた。ヴィトもヴィトで必死に匂いを嗅いで情報を得ようとしているためか、フガフガと鼻息が荒い。ここの空間だけ異様にマイナスイオンが出ている気がする…癒しだな。
「僕はトール。主に弓で後方支援をしているよ。種族は…マサヨシになら教えてもいいかなぁ?
…ここだけの話、魔人でね。…ふふ、ハーフエルフなんだ。」
トールさんは顔を寄せ、こそこそ話で教えてくれた。ハーフエルフ!?ということはつまり、エルフがいる世界なんだここは!!嬉しさで思わず心臓が飛び跳ねた。
彼は少し幼さが残る10代後半ほどの見た目をしており、ふわふわな明るいエメラルドグリーンの髪の毛を首後ろで括っている。瞳は同じく優しそうな黄緑色だ。たぶん、顔にあるそばかすがさらに彼を幼く見せているのではないだろうか。もしかして、この世界でもエルフは成長が緩やかだとか、ご長寿だとかあるのかもしれない。
「トールはこう見えてもこの中で一番年上よ。そして、一番怒らせちゃいけないんだから。」
「もう、そうやってすぐ変なことを吹き込んじゃうんだから…そんなことないから安心してね、マサヨシ。」
「……トールの酒をつまめば一発でアウトだ。」
「あれは普通にドーグストが悪いでしょ!?僕が怒るのも当たり前じゃない!」
「はいはい、次はドーグストの番よ。ちゃんと自分で自己紹介できるのかしら?」
ドーグストさんはギロリとメディシアさんを睨んだ後、こちらを見て何度か口をぱくぱくさせる。おや、もしかして喋るのが苦手だったりするのか?
「…ドーグスト。槍使い。………俺も魔人だが、血は限りなく薄い。……曾祖父のまた曾祖父が悪魔だった。」
悪魔、とな?
「こんな見た目をしてるけど、本当に彼は限りなく人間に近いよ。先祖返りで見た目だけ、濃く悪魔の血が出ちゃってるんだ。悪魔特有のスキルなんかは一切ないんだけどね。」
「見た目だけ、ですか?」
「そう。黒い肌と大きな身長、赤い瞳が揃っているのは悪魔だけだから。」
「なるほど…でも、ドーグストさんは筋肉もついていてガタイがいいし、その悪魔の特徴が全部生かされててカッコいいですね!」
その返答が予想外だったのか、本人だけじゃなく他のメンバーも目をぱちくりとしてこちらを見てくる。え、何?もしかして容姿をほめるのタブーだったりする…?
「………アンタ、正気か?」
「あ、ええと、気分を害してしまったのであればすみません…」
「…いや、謝罪はいらない。…し、別に悪い気分では、…ない。………おい、そんな顔でこっちを見るな。あっちを向いてろ。」
「ええ〜?いいじゃな〜い!!ドーグストのそんな顔、そうそう見れないんだからぁ!」
「うるせぇ!」
「2人ともうるさいよ?」
どうやら悪いことじゃないようで、一安心した。3人がやいのやいの言い合ってる中、改めてドーグストさんを観察してみる。
彼はいわゆるマッシュルームヘアーというやつで、少しパーマがかかったような黒髪をしている。前髪から除く赤い瞳は、ヴィトよりも落ち着いた色味をしており、よく見れば瞳孔が縦長だ。また、耳が少し尖っていて、歯が人間よりもギザギザしているように見える。こういう特徴が悪魔特有のものなんだろう。槍使いとのことだが、盾とランスのようなものが傍らにあるのでこれが彼の武器だとわかる。
…ここだけの話だが、実は色黒のマッチョには憧れがあるのだ。大学の頃、友達と映画で見た黒人の俳優さんがあまりにもカッコよく、2人で色黒マッチョになるためにジムと海に通いまくったことがある。
しかしいくら肌を出しても火傷したように赤くなるだけで、黒くなることはできなかった。友達が着々と黒光りでムキムキしていく中、俺だけは白いままで筋肉も上手く育たずに結局諦めてしまった。
そのせいもあってか、色黒マッチョであるドーグストさんはとても好印象なのである。
俺がドーグストさんを観察しながら腕を組んで頷いていると、トールさんは心底ホッとした表情をした。
「よかった…やはり君は、そちら側の人間なんだね。」
「ま、当然よ。だって彼は精霊の加護を受けているんだもの。」
「それもそうだね。」
そちら側とは、どちら側だろう。
「どういうことですか?」
「そういえば君は、自分の村に籠りっきりなんだっけ?それだったら外の情報も入ってこないよね。じゃあ、せっかくだし少しお勉強の時間だよ。」
そういうと、トールさんは机に広がった地図を裏に向け、絵を書きながら説明してくれた。
俺ともふもふの冒険記 鹿目悠 @knm_hrk
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