第7話 夏祭りの不思議

 こんばんわ。

 私、朝岡まどか。二十歳、カメラマンやってます。

 えっ、今日は普通に自己紹介するんだな、って?

 そりぁね、たまにはまじめにやりますよ。

 そんな事より、今日はキミ一人なの?

 ……あ、うん、そうなのね。じゃぁ、めぐみちゃんも元気なのね。

 えっ、めぐみって誰って……、あなたの幼馴染の彼女ちゃんじゃない?

 えっ、彼女の名前はめぐみじゃない?

 ふーん……まいっか。

 そう言えば、前日彼女ちゃん一人で話を聞きに来たんだけど?

 えっ、そんなはずないって?その日彼女ちゃん夏風邪で寝込んでたって?

 あ、うん、ずっと看病してたんだ。

 うんうん、いいねぇ、青春だねぇ……って、そんなに照れることないじゃない。

顔真っ赤にしてさ。


 あ、ハイハイ、わかりましたよ。

 って、そこまで言っておいて、お話を強要するの?

 キミ、Sの素質があるかもよ。

 あー、ハイハイ、お話ね……ん~せっかく彼女ちゃんのことが話題に出てたし、……夏と言えば夏祭りだよね?


えっ?彼女ちゃんと何の関係があるかって?

いいのいいの、キミは知らなくていいのだよ。

いい女ほど秘密があるってね。

そんな事より、夏祭りの由来って知ってる?

まぁ、普通は知らないか。

暇があったら調べてみるといいよ。

結構面白いからね。

簡単に言えば、祭りによって色々あるけど、大体は災厄避けか祖霊を祭るっていうのがお祭りの始まりなんだよね。


 つまり……色々起きやすいって事……不思議なことが……ね。

 

 その一例として、私が体験した夏祭りに由来した不思議な出来事、教えてあげるね。



 私が小さい頃に体験した事……。


 あれは、私が小学生の頃だったかな?

 近所の神社で、盆踊りがあったの。

 毎年やっているお祭りで、規模は小さいけど屋台も出てて、そこでりんご飴買うのが楽しみだったのよ。

 当時、私の住んでいる地域は、他と同じく旧盆でお祭りをやるんだけど、その神社だけはね、新盆でお祭りを茶ってたのよ。

 だからそこのお祭りが始まると「夏が来た!」って感じだったのよ。

 でね、その年も、お小遣い用意して、夕方からワクワクしてたんだけど、お昼にプールで頑張ったからね、ちょっと眠くてウトウトしちゃったの。

 遠くで太鼓の音と音楽が聞こえて、それで目を覚ましたんだけど、家の中に誰もいないの。

 もう祭りに行っちゃったんだー置いてかれたーって思って、私も慌てて浴衣に着替えて神社に向かったのね。

 日は沈んでたけど、周りはまだ明るくて……だから7時頃だったんじゃないかなって思ってたのね。

 

 神社はそんなに離れていなくてね、私が着いた時は櫓を中心にみんな躍ってた。

 私はね、とりあえずはりんご飴ーって、屋台に向かったんだけど……屋台やってないのよ。

 ううん、屋台はあるの、でもお店のおじさんがいないの。

 まだ明るいから、祭りも始まったばかりだと思うだけど、どこ行っちゃったのかな?

 仕方がないから、他の屋台を廻ったんだけど、殆どのお店の人がいないのよ。

 どうしたんだろって思うんだけどね……ほら、怖そうなおじさんに話しかけるのって、勇気いるよね?


 わざわざ怖い思いしてまで話しかける気にはなれないよ。

 だからね、帰ろうって思ったの。

 その時、変な違和感に気づいたの……明るいのよ。

 周りが明るいの。ライトで照らされている明るさじゃなくて、夕方の、日が沈んだばかりの時の明るさ?なのよ。

 私は慌てて時計を探して、見つけた時計がさしてた時間は9時過ぎ……

 どういうこと?

 この時、私の頭をよぎったのは「日本って白夜あったっけ?」なのよ。

 私は、こう見えても文学少女なの。

 ノルウェーって国は、夏は白夜って言って夜でも明るいって言うのを呼んだことがあったのね。

 

 時計は9時過ぎを指している。

 周りは黄昏時と呼ばれる日が沈んだばかりの薄明るさ。

 盆踊りをしている人々……。

 白夜ってこんな感じなんだーってその時は思ったんだけど……。

 ……そんなわけあるかー!ってすぐ思い直したのよ。

 でね、そう思ったら急に怖くなって……ついさっきまでは「白夜って幻想的」とかって思ってたくせにおかしいでしょ?

 でもやっぱりこわいから走ってうちに帰ったの。

 ただ、おうちの近くで思いっきり転んじゃってね……目の前が暗くなって、意識を失っちゃった。

 気づいた時にはおうちの中で寝かされていてね……目が覚めたらパパが言うのよ。

 「まどかが寝てるから起きるまで待ってたけど、もう祭りおわちゃったな。」って……時計を見ると9時半すぎてた。

 ママもね「いつの間に浴衣に着替えたの?でも残念だったわね。」って。

 私が見たのは夢だったのかなぁ?

 でも、この転んで擦りむいた膝の痛み……これは夢じゃないよね?



 「……ってことがあったんですよ。今でもあれは夢なのか現実に合った事なのか分からないんですけどね。」

 私はそう言って話を締めくくったんだけど……。

 「まどかちゃん、ゆめよ!絶対に夢見ただけなのよ!日本で白夜なんてないでしょ?ネッ、ネッ?」

 美並先輩が、凄い勢いで否定してくる。

 「いや……だからわからないですってば。」

 よしよしと、美並先輩の頭を撫でる。

 こういう時の先輩可愛いんだよね。……クセになりそうだわ。


 「小学生のまどかちゃんの浴衣姿かぁ、可愛かったんだろうね。写真とか無いの?」

 三宅先輩がニマニマしながら聞いてくる。

 「ありますけど見せてあげません!」

 バッサリと切り捨てる。

 ロリオタの三宅先輩に、写真を見せた日には何をされるか……。

 

 「そう言う事なので、ちょっと夏祭りって行きたくないんですよね。」

 そう、事の初めは、三宅先輩から夏祭りに誘われた事だったの。

 まぁ、三宅先輩は、私をダシにして美並先輩を誘いたかったみたいなんだけどね。

 ロリオタのくせに私の美並先輩を狙うなんて、いい度胸してるわ。


 去年のコミケで美並先輩が初コスプレをして、それを見てからなのよね……あからさまに狙ってるのわかるから、美並先輩も引いてるんだけどね。

 

 「じゃぁ、美並お前だけでも……」

 三宅先輩が美並先輩を誘う。

 「うーん、どうしようかなぁ……まどかちゃん、本当にいかないの?」

 美並先輩、行きたいのかなぁ……というか、前程三宅先輩の事悪く思ってないみたいなんだよね。

 それなら、私を無視していけばいいのにね……まだまだダシは必要なんですかぁ。

 だけど!

 ダシは甘くないのよ!


 「美並先輩、お祭り行きたいんですか?でも……こういうこともあるんですよ?」



 私が中学の時のお話……。


 あの夏は家族みんなで田舎に帰省することになっていたんだけど、パパが急に仕事が入って行けなくなったのよ。

 でもね、私田舎のお祭りを楽しみにしててね、それに、一人旅って憧れる年ごろでしょ?

 だから、電車で行くって言ったのよ。

 私も中学生だし、電車も乗り換えがあるわけじゃないから、駅に迎えに来てもらえばいいしね。

 そう言って親を説得して初めての一人旅!電車の旅、わーい!ってやっていたの。

 このテンションの高さ!わかるよね?


 そのテンションのまま、目的の駅に着いたんだけどね、迎えが来てなくて、電話をしたら色々ゴタゴタしていて遅れるって言うのよ。

 「ごめんねぇ、まどかちゃん、迎えに行くの時間かかりそうだわぁ。」

 その時、遠くで祭囃子が聞こえたのよ。

 「あ、いいですよおばさん、私、お祭り見に行ってますから……そうですね、8時頃神社にお願いします。」

 「え?ちょっと、まどかちゃん……・ツー、ツー……」

 あれ?切れちゃった。

 まぁいっか。

 確かお祭りのやってる神社ってバスで行けたよね?


 私はバスに乗って神社に行ったんだけど、久しぶりだったからね、路線間違えちゃったみたいで、神社から少し離れたバス停で降りることになったのよ。

 でも、太鼓の音とか聞こえるし、あっちに行けばいいよね?

 

 私は神社の方に向かって歩いて行ったの。

 この辺りは山が近いから暗くなるのも早くて、神社につく頃には、灯りがないと周りがはっきりしない位暗くなってたわ。

 鳥居の向こう側でお祭りをやってるのが見えて、そっちに行こうとしたら後ろから声をかけられたの。

 「まどかちゃんじゃないかぃ?」

 振り向いたらおばぁちゃんがいたの。

 私のお祖母ちゃんじゃないけど、いとこの隣に住んでいたお婆ちゃん。

 ここに遊びに来るたびに可愛がってもらったのをよく覚えているわ。

 

 ぎざぎざの十円玉が珍しいんだよって言ったら、次に遊びに行った時には、沢山貯めておいてくれたり、このガムが大好きって言ったら箱買いして置いておいてくれたり……本当に大好きだったお婆ちゃん。

 最近は、お嫁さんとの仲があまりよくないって、ママが話してたのを聞いたばかり。

 「お婆ちゃん!久しぶりー。遊びに来たんだよ。」

 「そうかいそうかい、でも、あっちに行ってはダメじゃよ。」

 「え、でも、お祭り……」

 「お祭りは明日からよ、あれは練習してるだけだから邪魔しちゃダメ。」

 お婆ちゃんはそういうけど、練習には見えず、みんな楽しそうに踊ってるんだけどなぁ。

 「でも、迎えが来るまでどうしよう……」

 「いいじゃないか、お話聞かせておくれ。」

 「あ、そうだね。あのね……」


 私は階段に腰かけて、お婆ちゃんとお話をしてたの。

 学校であった事や、お家での事、隣の幼馴染の事なんかもね。

 「まどかちゃんは、今楽しいかぃ?」

 「うん、何年か前は嫌な事もあったけど……今は楽しいって言えるよ。」

 「そうかいそうかい……それは良かった。」

 

 そんな話をしていたら、下の道にヘッドライトの明かりが見えたの。

 「迎えじゃないのかい?」

 「ウンたぶんそう。」

 「じゃぁ、ここでお別れだね。まどかちゃん、これからも元気でね。」

 「お別れって、大げさだよ。明日家に遊びに行くよ。」

 「いや、私もねぇ、今日はお迎えを待っていたんだよ。これからちょっと遠くへ行くからねぇ。」

 「そうなんだぁ。でもお話できてよかった。」

 「ほら、早く行かないと、探してるんじゃないの?」

 階段の下で私を呼ぶ声が聞こえる。

 「あ、うん、じゃぁ、私行くね。お婆ちゃんも元気でね。」

 「まどかちゃんも元気で。」

 お婆ちゃんはそうにっこりと笑って、階段の上お祭りがやってる方へ向かったの。

 その背中を見送って、私は階段を下りて行ったわ。


 「まどかちゃん!心配したのよ!」

 私の顔を見ておばさんが叫ぶ。

 「アハハ……ごめんなさい。」

 私は車に乗っておばさんの家へと向かったの。

 「まどかちゃん、ごめんね。隣のおばぁちゃんが急になくなってね。昨日お葬式だったのよ。それで今日後片付けが長引いちゃってね。」

 おばさんが運転しながらそんな事を言った。

 「えっ?隣のお婆ちゃんって、あのお婆ちゃん?」

 「そう言えば、まどかちゃんも可愛がってもらってたねぇ。家についたらお線香でも上げに行きましょうか。」

 「だって、さっきまで話してたのに……元気でねって言ったのに……」


 私は車が止まると、すぐにお隣の家に行ったの。

 仏壇にはお婆ちゃんの写真が添えてあったわ。

 お嫁さんが怖い顔で睨んでいたから、お線香だけあげて戻ってきたのよ。


 「おばさん、あのね……」

 信じてもらえないかもしれないけど、神社でお婆ちゃんにあった事をおばさんに話したのよ。

 話している途中で悲しくなって涙が出ていたんだけどね。

 おばさんも、涙ぐんでいたけど最後まで話を聞いてくれたわ。


 「まどかちゃん、神社の鳥居はね、この世界と神様の世界をつなぐ結界なのよ。まどかちゃんが迷い込んでいかないようにお婆ちゃんが止めてくれたのね、きっと……。」

 私はおばさんの言葉に深く頷いた。

 お婆ちゃんはいつだって私を助けてくれた。話を聞いてくれた。

 苛められて辛いときだって、お婆ちゃんだけには話を聞いてもらってた。

 「お婆ちゃん……。」



 「……というわけで、あの時お婆ちゃんに合わなかったら……って、センパイどうしたんですか?」

 美並先輩が涙ぐみながら変な顔になってる。

 「だって、悲しい……けど怖いのよぉ。」

 よしよしと私は先輩の頭を撫でる。 

 仕方がないなぁ……もぅ。


 「はいはい、センパイ泣かないでください。お祭り一緒に行ってあげますから。」

 私は先輩が落ち着くまで抱きしめてあげた。

 どうだ羨ましいだろー。

 何故が歯噛みしている三宅先輩に、べぇーって舌を出してみせる。



 ま、そんなわけで、夏祭り……特に古い風習が残っているような地域のお祭りは気を付けたほうがいいよ。

ウーン、面白半分に行くのはどうかと思うけど……。

あ、そう、口実ね。……ウン、頑張って彼女ちゃんを誘いな。

そうそう、神社で迷ったら鳥居を目指すといいよ。鳥居は境界だからね。

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