第163話 クラリス教団騒動終焉の地ユーロンス

 角を生やした赤髪の女性が閉じていた目をゆっくりあけると、辺りを見渡し最後に自分と目を合わせた。


「お?ノリじゃねぇか!」


 そう言いつつ自分の方に寄ってくると。


「あれ?お前死んだんじゃなかったっけ?」


 えっと、どう答えればいいのかな?


「自分は秋津直人です。多分エルメダ様が言っている人は自分の先祖かと……」

「雰囲気は全然違うが、顔つきも、声も同じだし、光のちびっこもいるな、ノリと同じだな……、んで何の用だ?」


 悪魔退治をお願いしますと言えばいいのかな?


「エルメダ様、後ろのユーロンスの状況を見て頂ければ……、その対処をお願いしたく……」


 ヒスイが姿を現し、声でエルメダにお願いしていた。


「ん?」


 エルメダがユーロンスの方を向くと


「なんでこんなことになっている?」


 ちょっとお怒りな雰囲気が……。


「わかりません……」

「まぁいい、秋津直人とやら、お前がグアーラの羽を戻した奴だな?」


 ユーロンスの方を見たまま自分に質問をしてきた。

 

 スタンピードの後だっただろうか?確かにグアーラの羽を戻したのは自分だ。


「そうですね」

「そうか、礼というわけではないが、何かの縁だ、お前の願い事を1つ叶えてやる、考えておけ」


 願い事か、力とかを司るとか言っていたしこの世界で誰にも負けない強さとか?


『あ~慎重に選んだほうがいいよ……』


 慎重にとは?


「ちびっこは黙っとけ」

「はい!すいませんでした!」


 なぜかヒスイがエルメダに怒られていた。


「ディナ手伝え!」

「ハイ」


 これまでの精霊達のように、色付きの光の玉は見当たらないが、エルメダの近くに居るらしく返事が聞こえた。


「結界を壊すから、周辺に被害が及ばないように空間を切り離せ」

「ハイ」


 結界を壊して、辺りの空間を切り離して悪魔封印するのかな?


『結界を壊すといって、街丸ごと壊すんだよね……』

『もしかして、メテオとか……?』

『そうだね……』


 結界を壊すためだけにメテオを落とすの?


『メテオ以外では壊せないの?』

『そんなことないはずだよ』


 手加減無用で、一番ダメージの出る攻撃方法を取るという事か、と思っていると辺りが暗くなった。


 何事と思って空を見上げると、そこには巨大な岩の塊が浮いていた。正確な大きさが分からないけど、上下左右ともに一番広い所で1キロ位はありそうだった。


『もしかして……』

『そう、あれがメテオ……』


 あんなもんを港町に落とされたら、地震どころか津波も発生するだろ……、周囲の環境被害が……


『もしかしてさ、ここから立ち去った方が良くない?』

『ん~大丈夫じゃないかな?』


 疑問形なのが不安に感じた。


「行くぞ準備はいいか?」

「ハイ」


 ディナは喋り方に違和感を感じるな。機械的ではないんだけど何か普通じゃない喋り方をしていた。


「よっし」


 エルメダがそう言うと、上空にあった岩の塊がユーロンスの街をめがけて落ち始めた。


 メテオが落ちてくるのが遅いなと思っていたが違った。思っていた以上に上空あったらしく、どんどん大きくなってくる。


 一番幅があるところで1キロとかそんなレベルではない。もっと大きいユーロンスの街そのものより大きかった。



 メテオが、結界の近くまで来ると、今度は、ユーロンス周辺の地上から空に向かって虹色のオーロラみたいなのが出現した。


『ディナの力で空間が切り離された感じかな~』

『あの地上から出るオーロラみたいなのがその証?』

『そうそう~、ユーロンスだけが、ここではない別の空間に存在しているような状態になっているんだよ~』


 津波や衝撃波みたいなのはここまでこないってことだろうか、それなら安心か、ただ結界1つ壊すのに大袈裟すぎやしないか?


『メテオの大きさ=切り離された空間平面と同等位?』

『そうだね~』


 メテオがユーロンスを街ごと飲み込み着弾した。


 空間が切り離されているためか、音や衝撃波等全く感じなかったが、ユーロンス側の空間は塵がかなり高いところまで上がっていた。


 塵のおかげで切り離された空間の形状が半球状になっているのが分かった。


「このまま縮小していけ」

「ハイ」


 塵を含めた、切り離された空間がみるみると小さくなっていくのが分かった。


 空間が圧縮されている?


 これってメテオ必要なかったのでは?最初からディナとやらの力で、空間を切り離し圧縮していけばいいだけだったのでは?


『これさ、最初からディナって子が空間切り離して、圧縮すればよかったんじゃ?』


 と言うと、ヒスイが“シー”といった感じで、人差し指を立て自身の唇に当てていた。タブーだったのかな?


『威厳とか見せしめの為だよ!悪魔とか召喚したら個人だけではなく街ごと滅ぶぞ!ってね』


 ヒスイが小声で教えてくれた。なるほど、抑止力にはなるか、派手さも空間切り離してからの圧縮よりはメテオでつぶすほうが派手で抑止力につながりそうだ。


 圧縮されていった空間がどんどん小さくなり自分の目では存在しているのか不明なくらいになっていた。


「そのまま消せ」

「ハイ」


 どうやらユーロンスを含めた悪魔は存在を消されたらしい、そして隔離された空間が圧縮され、えぐられた地面は海水が流れ込み海になった。


 エルメダの1連の行為を、ヴィンザーを含むリンクル兵、狼衆、そして仮設の街に住む人々がかたずをのんで見守っていた。


「よっし、これで一件落着!」


 それだけ言うと、こちらを向き自分のほうへ近寄ってきた。


「んで、願い事は決まったか?」


 今目指しているのは、どんな状況下でも彼女を守り通せる力!


「最強とまでいかなくても、それと同等の力が欲しいです!」

「そんなんでいいのか?」


 肩にいるヒスイが、“あ~あ言っちゃった……”とでも言いたそうな表情をしていた。


「そんなんでも、誰かを守るため、どんな相手でも守り通せる力が欲しい」

「まぁそんなんでいいなら、叶えてやるぞ」


 それだけ言うと自分の方へ歩みよってきた。自分に触れる事が出来そうな距離まで来ると。


「こいつを借りていくぞ」


 とエルメダが周囲の人に向けて言うと、自分の意識は暗転した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る