第87話 両親と再開
闘技場を後にし、混み合う露店をめぐりながらナット用の服を見たり食べ歩きをしながら帰っていたら、帰宅する頃には夕方になっていた。
「直人、遅かったね、お邪魔してるよ~」
ログハウスからチェルシーが出てきた。
「あぁいらっしゃい、子守をしてくれた女性は?」
「リノアならもう帰したよ。あの子も家庭があるからね~」
「そうでしたか」
「うん、それでねこの子達明日出発になった。」
「ずいぶん急ですね」
「なんか急ぎの配達依頼が入ったらしくてね、高ランク冒険者も確保できたからだって」
「そっか」
「なに?寂しい?」
ずっと寝かせてるだけだったから特に思うことはないけどやることが一つ減るという意味ではそうなのかもしれない。
「どうなんですかね~」
「まぁ医者が患者に情を寄せてたらダメだよね~」
「ですね」
情を寄せないように人を見るのではなく病を見ろと良くいわれたものだ、そういう意味では人として接する看護師とぶつかる事もあった。
「はい、直人頼まれてた子供服、冒険者として使えそうなのを中心に選んだよ」
「ありがとうございます」
これで明日の試合用の服はこの中からでいいかな~
『ねね、両親が冒険者ギルドにいるよ!』
『まじで?』
『多分明日の試合を見に来たんじゃないかな?』
あぁ、ナットの姿なら幼年の部に参加すると思うよね、せっかくだし迎えに行くか。
「チェルシーさん、少し出かけてきていいです?」
「ん?いいよ~」
「んじゃちょっとだけ」
自宅を出て裏にある冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドに入ると夕方なのにもかかわらず、人が多い、辺りを見回すが両親らしき人は見当たらなかった。
『どこにいるの?』
『3階でオスカーと話しているよ』
なら階段下でナットの姿になって待っておくか、適当に人目の付かないところでナットに変身した。
しばらく階段下で待っていると両親とオスカーがやってきた。
降りてくるなり直ぐに自分の姿に気づいた母親が抱き着いてきた。
「ナット!元気だった!?少し見ないうちに大きくなったね~」
身長は伸びてないはず……、伸びているのかな?
「母さん久しぶりだね、元気にしていたよ」
「そう、良かった明日からの大会に参加するのよね?」
「うん」
オスカーが何か言いたそうな表情を見せていたが、今度は父親が寄ってきた。
「ナット元気そうで何よりだ、半年近くも見てないと変わるものだな」
「そうなの?」
「あぁ、村を出た頃に比べると全然違うからな、俺たちがここに来た事が解ったのは精霊様か?」
「そうだよ、それで王都滞在期間中、うちに来ない?」
父親は目を丸くしていた。
「うちに?王都に家を買ったのか?」
「買ったというより土地を貰った感じかな?」
「王都に拠点とか大出世ね~冒険者ランクはいくつになったの!?」
これはナットとして言うべきか?それとも直人の方にするべきか?
「B級?」
「なぜ疑問形?」
父親から即突っ込みが入った。
「あ~そいつはな、訳アリだからな……、それより、俺もナットの家に用があるからな、一緒に行きますか」
「マスターもナットの家を知っているの?」
オスカーにこの姿見せたことあったっけ?
アクア経由で正体を知ったかな?
「まぁな」
「そうなのね、ナット案内して頂戴」
「はい」
冒険者ギルドを出て、両親とオスカーと一緒に自宅に戻ってきた。
「おかえり~ってオスカーと……?」
「ナットあちらの女性は!?」
母親がチェルシーを見て盛大な勘違いをしている気がする。母親の耳元で真実を教えた。
「あの人はマスターの想い人」
「あ~なるほどっ!」
母親の表情が凄くニヤニヤしている。女性ってホントこういう話好きだよな~。
チェルシーと両親双方に紹介しないとか。
「チェルシーさんこちら自分の両親です。んでこちらが商業ギルドのマスターをやっているチェルシーさんです」
チェルシーは納得した様子を見せた。
「王都の商業ギルドでマスターをやっているチェルシーです。よろしくお願いします」
チェルシーは丁寧にあいさつをした。
「私はサントです。こちらは家内のカレンです。よろしくお願いします」
「チェルシーさんよろしくお願いします。」
お互いの紹介も終わらせたし、家の中に案内しよう。
「ところでナット、この建物はもしかして……」
気づいたかな、まぁもう隠す気もないので正直に伝えた。
「そうだよ、どっちも生前持っていた家だね」
「そうか、どちらも王都に似つかわしくない家だが大丈夫なのか?」
景観を守る法律とかあるのかな?
「あぁ決まりとか特にないので大丈夫ですよ~」
チェルシーが教えてくれた。
「失礼だが、マスターとナットの接点はわかるのだが、チェルシー殿とはどのようなつながりが……?」
チェルシーに対して父親が思いもよらない質問をした。その問いに対してチェルシーが自分を見たので頷いた。
「私とオスカーそれにナット君は皆使徒なんですよと言えばいいですかね?」
「あぁなるほど」
両親は今の説明で納得してくれたようだった。
「ナットはもう1つの姿は見せないのか?」
オスカーがそっと耳打ちしてきた。いつかはと思っていたけど、いい機会だし秋津直人の姿を見せておこう。
「父さん、母さんちょっといいかな」
「ん?どうした?」「ん?」
いざ直人の姿を晒すとなると、受け入れてもらえるか不安になるな……、そんな気持ちを察したのかオスカーから背中を後押しするような言葉が飛んできた。
「両親を信じろよ」
オスカーに勇気を貰った気がした。
「実はさ、ナットとしての姿ともう1つ……」
父親のお古の着物を着た秋津直人の姿になった。
「生前の若かったころの姿でも活動していたりするんだ」
「ほぉ、かっこいいじゃないか、というより黒目に黒髪まんま秋津の侍じゃないか」
「そっか~彼女さんに会うときどうするんだろ~って思ってたけど、その姿で会うのね~ナットカッコいいよ!」
両親の反応は悪くなかった。素直に打ち明けてよかった。
「あはは、受け入れてくれてありがとう」
「おまえはどんな姿になろうとも、俺と母さんの子であることには変わらんからな、もしかしてさっき母さんがランクを聞いたときに疑問形で答えていたのは……」
ナットと直人の両方のカードを見せた。
「わずか半年ほどで抜かれたな、」
「そうね、すでにSになっているとは思わなかったわね、それにこのカードって……」
両親は、オリハルコンカードを珍しそうにみていた。
「直人、俺らが4人の子ども預かるから今夜は親子ですごせよ、んじゃな」
気づけば、チェルシーとオスカーが両腕に子どもを抱っこしていた。
「すまないマスター気を使わせてしまって」
父親がオスカーに謝罪していた。
「いや良いって事よ、んじゃな」
2人してどこかに行ってしまった。オスカーとチェルシーの好意を無駄にしないように、両親を家に上げ、生前の料理をふるまい、これまでの旅の話を聞かせた。
アヴェナラ侯爵夫妻やグアーラとの話は楽しそうに聞いてくれた。
1人も悪くないが、家族って本当にいいものだなと改めて思った。
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