第74話 転移者

 受付嬢に案内された部屋には1人の白髪の老人がいた。


「ん、どうした?」

「マスターこちらのかたよりアマネ様の手紙です。」


 受付嬢から手紙を渡され、開封し、軽く目を通していた。


「下がっていいよ」

「はい」


 受付嬢が退室するのを確認するとこちらに向き直った。


「よっし、まずは自己紹介しようか、俺の名前はオスカー・タナー、日本風に言い換えるならタナー・オスカーだな、オスカーと呼んでくれ、生前はアメリカ軍の特殊部隊に所属していた」


 それだけ言うと、ビシッっと敬礼を決めた。かっこいい!


「自分の名は秋津直人です、日本で医者をやっていました。」


 普通に頭を下げた。


「秋津直人……、聞いたことがある、確か祖父の病を治そうと調べているときに出てきた名前だった気がする。脳外科医じゃなかったか?」

「脳外科にもかかわっていました。」

「そうか、有名人にこの世界に出会えるとは思わなかった!」


 それだけ言うと右手差し出してきた。握手か?と思い応じるとものすごい力で握ってきた。痛い痛い……、自分の名前がアメリカでも知られた名前だと思っていなかった。時々海外からわざわざ来てくれた患者の対応をしたことがあったが……、同じくらいの時期に生きていたのかな?


「とりあえず、そこに座ってくれ」


 促された場所に座ると、正面にオスカーが座ってきた。


「アマネの手紙を見ると、若返らせたり、他者になれるようなことが書いてあるが本当か?」

「えぇ出来ますよ。」

「そうか、なら俺を20にしてくれないか?」


 オスカーがいきなり希望を出してきた。


「ぇ?」

「なに、相応のお礼をする。頼む!」

「はぁ、まぁいいですけど今いくつなんです?」


 見た感じ80前後だと思うが……


「128歳だ!」


 ぇ!?


「そんなに長生きするんですか?」

「絶対健康と日々の鍛錬のおかげだな」

「そうですか、理由を聞いても?」


 尋ねるとオスカーの顔が赤くなった気がした。


「あとで紹介するが、この街にはもう1人転移者がいる。その子に惚れていな……」


 思わぬ理由だった。ってか、転移?


「良いですよ」

「助かる!彼女も若返らせてくれると嬉しい!」

「お高くつきますよ……」


 冗談で言ってみたが思わぬ反応が返ってきた。


「構わん!直人を満足させる対価を支払うと約束しよう!」


 即答だった。そうなるとどんなものを貰えるのかが非常に気になった。


「それじゃあ手を借りてもいいですか」

「あぁ」


 彼の手に触れ、神の手を発動させオスカーを20歳に若返らせた。

 白髪やあちらこちらにあった皺がなくなって、イケメンの金髪青年になっていた。

 オスカーが自身の変化に気づき手鏡をだして確認していた。


「おぉ~~!」


 オスカーは大喜び、色々と身体の状態とか確かめるためか筋トレしたりしていたのでしばらく放置された。


「見苦しかったか?すまんな」

「いえいえ」

「それじゃあ、彼女の分も含めたお礼だ、まずは物だ」


 まずは物と言ったか、物以外にも何かあるんだろうか?

 そう思っていると、ハンドガン、ライフル、スナイパーライフル、ショットガン、マシンガン、グレネードランチャー、ロケットランチャーと様々な銃を机の上に並べた。


「欲しいものをやるぞ」

「凄い種類ですね、これって弾が必要ですよね?」

「いや、どれも弾数は気にしなくていい、魔法適正をすべて切ったからな、代わりに持ち込んだ銃の弾丸を気しなくていいようにしてもらった」


 魔法適正なしの対価なのか、どの銃を貰おうかな、ハンティングで使うのに良さそうなスナイパーライフルにしようかな~憧れるのははるか遠くから獲物を狙う銃だな~決まりだな、スコープの付いたスナイパーライフルを選んだ。


「それか、次は弾丸だな、どんな目的で使うのだ?」

「動物狩ですかね」

「ふむそれなら、フルメタルジャケット弾とホローポイントだな、2つとも持って行っていいぞ、他にもほしいのはあるか?」


 ハンドガンは気になるけど、刀があるからいいかな?

 スナイパーライフルと2つの弾丸を受け取り、アイテムボックスにしまった。

「ふむ、それだけでいいのか」


 机の上に並べていた銃を片付け始めた。


「大丈夫です。あまり銃に浮気すると刀が泣きそうですからね」


 ちょっと笑いながら返した。


「おまえさんは医師じゃなく侍をやっているんだな」

「医師業は生前たくさんやりましたからね、この世界では好きに生きてみたいと」


 オスカーが眉間に皺をよせ神妙な顔つきに代わった。


「なるほど、次は情報だが、ヴォーネス共和国には気を付けろ、あそこの国教であるクラリス教団には特にな」

「何かあるんですか?」

「暗殺教団と言われている。金額次第だがどんな相手でも始末しているらしいからな、特に左手の甲に数字を入れているナンバーズには気を付けろ。」

「穏やかじゃないですね……」

「まぁな、俺は軍にいたから対処のしようがあるが、お前さんは生粋の戦闘職じゃないだろ?」


 どうなのだろう?阿修羅様の加護をもってダンジョン踏破しているけど、手紙には書かれてないのかな?


「あれ?アマネさんからの手紙に書かれていません?自分トザズトアダンジョン単独踏破していますよ?」

「ん?冒険者カードみせてもらってもいいか?」


 オスカーは手紙を読み直していた。オスカーが読み直している間に自分の冒険者カードを机の上に置いた。


「書いてあった、すまんちゃんと読んでなかった。オリハルコンカードか、本物のようだな……、1つ聞くが、王都に入るときにこのカードを使ったか?」

「はい、何かまずかったですかね?」

「はぁ、王家に目を付けられたと思っておけ……」


 オスカーが大きなため息を吐きながら教えてくれた。そう言えばどこに泊るかって聞かれたな……


「ある意味S級以上の実力者だからな、勧誘がしつこく来るだろうよ……」

「あ~なるほど……」

「ちょっと待っていろ、ダミーのカードを作ってやる。」


 それだけ言うと、ディスクに戻り何かをしていた。しばらくした後、戻ってきた。


「こいつに血を1滴たらしてくれ、秋津直人の普通のA級冒険者カードだ身分証明にはこっちを使っとけ、ギルド内なら先のカードでも構わん」

「了解です」

「まだまだ報酬としては足りないが、場所を移そう」

「場所ですか?」

「あぁ商業ギルドにいるもう1人の転移者の所に行こう」


 また転移者ときた。


「転生じゃなく転移なんですか?」

「そうだ、おれは31の時に任務中に命を落としたが、こちらに来た時は20だったな。これから会いに行くチェンシーは50代で亡くなり、16歳でこっちに来たそうだ。直人は違うのか?」


 死亡した年齢と転移してきた年齢がバラバラだ、なにかあるのだろうか?


「自分は、85歳まで生き、この世界で生まれましたよ。だから転生ですかね?」

「ふむ、何かあるんだろうな、そんな事より商業ギルドにいくぞ」


 そんなに急かさなくても、若返った姿を一刻も早く彼女に見せたいのか?

 その後1階まで降りると、オスカーが近くの職員に出てくると一言告げて冒険者ギルドをでた。

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