第127話 出発

外出届を出し、帝都の噴水前へ向かう。

「ねぇねぇ、本当に大丈夫かな。メデラウまで行かないといけないんだよ。高速馬車でも半日はかかるよ?」

そうか、帝都にはいないのか。俺としたことがすっかり忘れてたぜ。

「…まぁ、大丈夫だろ、あいつなら。ところで高速馬車ってなんだ?、初めて聞いたんだが。」

「えっ、知らないの?、高速馬車はねぇ、電気を流して馬の走る速度を上げてるんだよ。それと途中の街で乗り換えて馬も元気なままだから普通の馬車よりも速いんだよ。」

「へ~、よく知ってるな、ローナにしては。」

「むぅ、馬鹿にしたでしょ。私だってこれぐらい知ってるんだからね。」

そう言ってローナは口を尖らす。

「ほー、そりゃ悪かった。」

(パール、俺がゼロの幻影を用意するから、お前が声担当な。仮面を通せば大丈夫だと思うから。)

(分かりました。ついにこの私が俳優デビューですか。)

(違うだろ、お前の存在にローナは気づかないだろうし。つーか、気づかれても困るけど。)

(だからこそですよ。気づかれないように演じてるんですから。)

(うん?、…そうなるのかな?、よく分からん。)

しばらく会話をしながら歩いていると、噴水が見えてきたので仮面を転移させ、さらに幻術を使う。

「おっ、あそこにいるじゃないか。」

「あれがそうなの?」

「ああ。」

ローナは少し怖がって、俺の後ろに隠れる。

そんなに怖いか?、ただ銀の仮面で顔を隠して黒いコートを着ているだけじゃないか。…うん、間違いなく不審者だな。少なくとも街でいたら、避けるレベルだ。

「よう、ゼロ。朝早くに悪いな。お願いがあって来たんだ。」

(パール頼んだぞ。)

(了解です。)

「急すぎる。せめて昼間に呼んでくれ。」

「だから悪いって言ってるだろ。」

「はぁー、もういい。それで用件はなんだ?」

「ローナ、お前が言うんだ。お前の出来事なんだからな。」

「…うん!!」

ローナが事情を説明していく。

はぁ、まさに茶番だな。時間の無駄にも程がある。しかもパールの奴、何かノリノリだし。

「…だからお願いします。助けてください。」

ローナが頭を深く下げる。

「いいだろう。困っている人を助けるのは当然の役目。この俺に任せろ。」

「はい!!」

ノリノリだな、おい。ゼロのキャラは壊してくれるなよ。

「それでは行こうか。」

ゼロの幻影を裏路地まで誘導する。

「えっ、どうしてこんなところに来たの?」

いや、ビビりすぎだろ。声も震えてるし。

「魔法で行くからな、見られたら困るだろ?」

パールの声に合わせて幻術を発動し、周りの景色に溶け込む。そして空間魔法で上空まで上昇する。

「えっ、えっ。飛んでる。飛んでるよ!!、ジン。」

「ああ、そうだな。」

「反応薄くない!?、空を飛べる人は少ししかいないんだよ。しかも私たちまで飛んでるし。」

「落ち着けよ。」

「お二人さんいいかな?、メデラウでいいんだろ?、一度行ったことがあるからな、道は知ってる。」

「はい!!、お願いします。」

元気だなぁ、朝から。朝は元気ないんだよなぁ。朝の挨拶とか一番嫌なんだよね。

「そうか、飛ばしていくぞ。」

「えっ?」

「ゴウゴウゴウ…」

「キャーーーー…」

猛スピードで空を飛んでいく。

(道案内は任せるぞ。)

(了解です。)

結構長い間、空を飛んでいると都市メデラウが見えてきた。

(そろそろ到着ですね。)

(そうか、長かったな。)

「もうすぐ着くぞ、二人とも。」

「…」

「おい、ローナ、どうした?。…気を失ってんのか。起きろ。」

「ペチペチ」

顔を軽く叩く。

「うーん…、ここは?」

「目を覚ましたか。もう到着したぞ。あれがメデラウだ。」

「もう着いたの!?、まだちょっとしか経ってないじゃない。」

いや、お前がすぐ気絶してたからだろ。まぁ、でも合わせておくか。

「そうだな。」

「よし、それでは乗り込むぞ。」


ー--??----

「おかしいぞ。ジェドに引き続いてラウドの消息まで途絶えるなんて。」

「確かにそうですね。やっぱり帝位争いに関わるのはやめた方がよかったんですよ。」

「まだ、そうと決まったわけではあるまい。」

「この依頼を出したのはボルボワ商会ですよ。第7皇子の陣営なのは周知の事実じゃないですか。」

「…」

「これからは、帝位争い関係の依頼は推奨すべきではありません。これまでの歴史でもSS級冒険者が関わってどうなったかご存じでしょう。」

「…ああ。そうだな、各地のギルドに帝位争い関係の依頼を受理しても推奨するなと通達しろ。」

「分かりました。」

〈とりあえず冒険者たちの介入を抑えることができましたね。いい報告ができそうです。〉

人の数だけ思惑は存在する。

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