第79話 武器屋

「ミリア、ここがそうなのか?」

どうだ、マリーに対する口調と同じだぞ。

「はい、そうですね。」

「うう~ん、なんというか味があるね。」

そこは、すごくボロボロなお店だった。

「まぁ、とりあえず中に入るか。」

中に入っていくと、そこにはたくさんの武器が置いてあった。

すると、

「なんだぁ、ここはガキの遊び場じゃねぇんだよ。さっさと帰りな。」

そんな声が聞こえてきたが、俺はそれどころではなかった。

あれは人間じゃないな。背も低いし、ガタイがいい。

もしかしてドワーフか、初めて見た。

「おい、聞いてんのか、坊主。」

「あ、ああ、聞いてるぞ。それにしても素晴らしい武器だな。一つ一つ魂が込められて打たれてるのがわかる。」

どうだ、とりあえず褒めてみよう作戦。

「はん、お前に何がわかる。」

ちっ、やっぱり駄目だったか。…いや、口元が緩んでいる。

さらに連打で行こう。

「わかるさ、確かに俺は素人だがそこら辺のものとは一線を画しているのは分かる。」

「ふんっ、それで何をしに来たんだ?」

「そりゃもちろん武器を買いに来たんだ。」

「…その意味が分かってるんだろうな?」

「もちろん!!」分かってません。

もしかして返答をミスったやつか?、なんか嫌な予感がする。

「なら、待ってろ。用意をしてくる。」

するとドワーフの爺さんが奥へ引っ込んだ。

マリーが小声で話しかけてくる。

「ねえねえ、見るだけじゃなかったの?」

「そのつもりだったけどさぁ、あの雰囲気でただ見に来ただけです、とは言えないだろ。」

「それで、どうするの。なんかあるみたいだよ。」

言われんでも知ってるわ。それより対処法を教えてくれ。

「乗り切るしかないだろ。」

こそこそ話していると、ドワーフが戻ってきた。

「俺は、腕のない奴に武器を売るつもりはない。お前の腕を見させてもらう。このアダマントが混ぜられた合金を斬って見せろ。」

(アダマントってなんだ?)

(この世界で最も固い金属の事です。)

(それを斬れって言ってるのか、この爺さんは?)

(そうですね、ジェドを殺してから剣術を磨いてましたけど間に合いましたかね?)

(さぁな、自分の実力を知るいい機会だ。)

「ああ、もちろん魔法はなしだぞ。身体強化もな。」

何ですとーー--、絶対無理だろ、斬れた奴いるのか?

「そんなの絶対無理じゃない!!」

いけー----、マリーー---。

「無理ならそこまでということだ。」

「これまでに斬ったやつはいるのか?」

「いるとも。そうでなければさすがに出さんわ。それでどうする?、やるか?」

「やるに決まってるだろ。」

ノーリスクだし。

「だが剣で片刃のやつはあるか?」

「あるぞ、東の島国から入手したものでな。非常に独特な形態をしているが。」

「!!、それを見せてくれ。」

「…、これじゃ。」

これは、日本刀か?、この世界にもあったのか、憧れるけど剣より扱いは難しそうだな。

木剣を稽古で使ってるからな。

「それでやらせもらっていいか?」

「別に良いが、使えるのか?」

「さぁな、でも可能性があるとすればこれだろうからな。」

まともにやったら絶対無理だからな。

そしてお店の外に出る。

「ではやってみるがいい、制限時間はこの砂時計の砂が落ちきるまでだ。」

そう言って、砂時計を逆さまにし、刀と金属の塊を渡してくる。

うっわ、重いな。

よし、あれでやってみるか。

「店長、氷魔法で金属をちょうどいい高さにしていいか?」

「構わんぞ。」

「あと、できればこの剣の鞘が欲しいんだが?」

「別に構わんが、何に使う気だ?」

「うーん、起死回生の一撃かな?」

鞘を準備してもらってる間に、氷魔法で高さを調整する。

こんなもんか、まぁ、駄目なら後で調整しなおせばいい。

「ほれ、これがその剣の鞘だ。」

「ありがとう。」

「しっかし、そんなんあったところで変わるか?」

「それを確かめるのさ。」

果たして初めてでもできるのか、それだけが心配だ。

腰に鞘をさし、右足を前、左足を後ろ、そして左手で鞘を抑え、右手で柄を握る。

呼吸を整え、一気に抜剣する。

そう、これは居合だ。

「ギン」

甲高い音が響くが、ただ少し傷をつけ、飛ばしただけだった。

う~ん、やっぱり難しいな。

「なんと、そのような使い方があったとは。」

「初めて見たよ、そんな使い方。」

なにか外野が言っているが無視だ。

先ほどの自分の動きを分析する。

おそらく、鞘の中で走らせるのが甘かった。あとは手首のスナップかな。ああ、ゾーンに入るのも忘れてた。もう一度、やってみる。

ゾーンに入り、抜剣!!鞘の中、手首。

先ほどよりも速く鋭い居合だったが、

「ギン」

先ほどよりも深く傷ついてはいたが、斬ることは出来なかった。

集中状態を解く。

「はぁ~、厳しいな。無理かもしれない。」

「諦めるの?、まだ可能性はあるんじゃない?」

当事者じゃない奴は好き勝手言ってくれるよな。実際、たぶんできる気がしない。壁が高すぎる。

そんなことを思ってたら、今まで黙ってたミリアが話しかけてくる。

「ジン様、先ほど超集中状態に入っておられましたね?」

「ああ」

「実はさらにその先があるのです。これを会得するのは一生涯かかってもできない人がいるくらい難しいのですが、知りたいですか?」

ゾーンの先があるだと、聞いたことないぞ、そんなの。それにどうしてミリアはそんなことを知ってるんだ?

でも今は――

「…知りたい。どうすればいいんだ?」

「万物の中に己の存在を溶け込むのです。すると、あらゆる感覚が鋭くなり、今まで見ていた景色が色あせて見えるはずです。よくも、悪くも新たなステージに立てるでしょう。」

聞きたくないが、早めに知っておきたい。

「ミリアはどうしてそんなことを知っているんだ?」

「私は元近衛騎士団長ですから。」

……………ここにきて最大級の爆弾発言が来ました。

どうやって処理をすればいいのかわかりません。

誰か助けてください。

「……………へ~。」

「ジン、反応軽すぎでしょ!!、元近衛騎士団団長なんだよ!」

「いや~、キャパオーバーですよ。」

「ジン様、とりあえず、これをやりましょう。残された時間はわずかです。」

そうだ、ミリアの言うとおりだ。

とりあえず今はこれを片付けよう。

金属をのせて、居合の構えをとり、目を瞑る。ゾーンに入る。

そこから万物に溶け込もうとするが、よくわからない。

……………ここも宇宙の星、ならば宇宙に出ればどこかに地球がある。

つまり、すべては一つの枠組みの中にある。俺もその中の一部。

そう思った瞬間、世界に対する感覚が変わった。

「くく、はははははは。なるほど、なるほどな、世界はこれほどまでに美しくて、醜くもあるのか。はははははは。」

俺は一種の悟りのようなものを開いた。

「ジ、ジン?」

怯えているな、それもそうか突然笑い出せば怖いはずだ。俺だって誰かが急に笑い出せば怖い。

「いや、少し、驚いただけだ。たぶん、いや、絶対に斬れる。」

先ほどよりも刀を握っている感覚がはっきりし、抜剣する。

「チン」

刀を鞘に納める音がする。

そのあとに、金属が上下に分かれた。

「ドサッ」

「どうだ、爺さん、斬ったぜ。」

「こりゃたまげたな、絶対斬れない仕様だったんだが。」

はぁあ?、道理で固すぎると思った。

「なんでそんなことをしたんだよ?」

「冷やかしかと思ってな。」

まぁ、気持ちはわかるけどさ。

でもおかげで新たな境地に至れたからな、ノーリスクだったし感謝するよ。

「ジン、急に笑ってどうしたの?、変質者みたいだったよ。」

「失礼だな、ちょっと気分がハイになっただけだ。」

「危ないやつじゃん。」

確かに。

「でもあれはしょうがない。誰でもああなる。」

マリーと会話していると、爺さんか会話に入ってきた。

「坊主、見事だった。お詫びも兼ねて一つ欲しい武器をやろう。」

「いいのか、爺さん。」

「あぁ、あれを過去に斬ったのはジェドだけだからな。最近は話を聞かなくなったが、どこで何をしているのやら。」

うわ~、気まず。殺しちゃいましたとか言えないもんな。

(マスター…。)

(真相は闇の中、それでいいじゃないか。)

ジェドの話は無視し、武器の話に戻す。

「じゃあ、こういう剣をもらっていいか?、一番いいやつ。」

「ぐぅ、仕方ない。もってけドロボー。」

刀が置いてあるエリアを物色していると、刀身が黒銀の刀があった。

「これをもらっていいか。」

「お目が高いな、まあ、いいだろ。ほら、これがその剣の鞘だ。」

「ありがとう。」

「いいなぁ、マリーも何か欲しい。」

「なら、こいつを斬るんだな。さっきのよりは格段にマシだぞ。」

おい。俺にも出せや、はじめっから。

「今はまだ無理だから、大きくなったら来るよ、ジンと。」

「おい、俺を巻き込むのはやめてくれ。」

「別にいいじゃん、減るもんじゃないし。」

そうやって言い合っていると、ミリアが

「そろそろ、いい時間ですから帰りますよ。明日はパーティですから。」

と言ったので帰ることにする。

店の外で、マリーと別れる。

「じゃあね、ジン、楽しかったよ。また、明日、会おう。」

「ああ、またな。」

…男友達が欲しいな、階級が同じくらいの。

「さぁ、帰りましょうか、ジン様。」

…まだ巨大爆弾が残ってた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る