第56話 憶測
「それにしても強い個体ばっかりだよね、ぜんぶ古リュウじゃないかな?」
「だよな、そうじゃないとここまで倒すのに苦労しないよな。」
もうここまでで20体ぐらいは倒してきているからさすがに白髪ちゃんも疲れてきている。そして俺もやばい。
そろそろ帰らないと間に合わない。
(マスター、今から帰ってもギリギリです。早く帰りましょう。)
(わあってるよ。でもさ、どうやってあいつの目を搔い潜ればいいと思う?)
(知りません、自分で考えてください。狡い手を使うのはマスターの十八番じゃないですか。)
(お前、主人に向かって失礼すぎるだろ。もっと敬え。)
(申し訳ありませんでした。)
(めちゃくちゃ棒読みだな、おい。)
(それよりも早く帰らないとミリアさんが怒って、明日、一日中監視されるかもしれませんよ。)
うわー。最悪だなそれ。何の拷問だよ。
(俺も男だ、決めるときは決めてやる。)
(そうだと思ってました。やればできるんですよ、マスターは。)
なんか胸が痛くなるな。俺の使う手はひどいと自分でも思うから。
「おい、俺少し、トイレしてくるからな。ついてくんなよ。」
「え、トイレ?、どこでするの?」
「そこらへんに決まってるだろ。じゃあ、先行っててくれ。長くなりそうだからな。」
そういって、おれは岩の影に隠れて、転移で逃げる。
「よし、帰るぞ。」
「…マスター、見損ないましたよ。ほんとに手段を選ばないんですね。」
うっ、胸が痛い。俺だっていやだよ、こんなやり方。
でもこれが一番スマートじゃないか。
「…帰るぞ。」
「了解」
その後、俺たちは避難船に乗って帰ったが、口数は行きよりも大幅に減った。
ふぅ、ギリギリ間に合ったな。
こっそり自分の部屋へ戻る。
晩飯に呼ばれ行くと、古竜の時と同じくらい空気がぴりついていた。
あぁ、さすがに情報が伝わっているみたいだな、探ってみるか。
「ねぇ、ミリア、なんか皆、雰囲気暗いけどどうかしたの?」
「…そうですね、いずれ耳に入ると思いますので私の方からお伝えいたします。ジン様、前に古竜の話があったのは覚えていますね。」
「うん!」
我ながら名子役だな。
「その古竜が暴れまわってるそうなんです。」
おや、事実と違うじゃないか。なるほど、少し正しい情報を出して深刻度を最小限に抑えるわけか。
姑息だな、大人って。俺はまだ子供だからセーフ。
「そうなんだ、どこで暴れまわってるの?」
「…」
「ミリア。」
大丈夫だって、大体わかってるから。
「マーテル公国です。」
…ん?、なんて?、マーテル公国?
帝国の隣国じゃないか、もうそこまで来ているのか?
馬鹿な、テレスティン王国とマーテル公国の間の国はどうした?
もういやだぁ、俺の想定を悪い意味で上回ってるぞ。
「で、でも大丈夫だよね、SS級冒険者がいるから。」
「それはそうですよ。人類の守護者ですから。」
うわー、SS級冒険者って人類の守護者なんだ。
なったら終わりだな。
「ジン様、明日は屋敷にいてくださいね。」
「えっ、どうして?、大丈夫なんでしょ?」
「一応念のためです。」
「…わかったよ。」
というかそもそも古竜1体でさえ、こんな屋敷、吹き飛ぶぞ。
せめて最後は一緒に死にたいということか?、重いな。
ひりついた空気の中、ご飯を食べ終わり、そそくさと部屋に戻る。
(パール、やばくないか?、もうマーテル公国まで来ているらしい。テレスティン王国とマーテル公国の間の国はどうなったんだろうな?)
(その国は南北に細長いですからね。でも、この短時間でそこまで侵攻するのは異常です。案外、マスターを追ってきたんじゃないですか。)
(んなわけないだろ。)
俺はリュウの立場になって考える。
奴らの一番の脅威はSS級冒険者と聖剣だ。
その聖剣は残っていると思っているから関係ない。となると考えるべきはSS級冒険者だ。
SS級冒険者を倒せば奴等の勝ちだが、たしか英雄譚ではSS級冒険者も出てたよな?
つまり、奴らはSS級冒険者の強さを知っている。
SS級冒険者たちはリュウよりも強い。これは今日、白髪の少女が証明してみせた。
そしてそのうえで戦うことを決めた。
そもそもどうして奴らはすぐに侵攻した?
力が戻るまで待つべきだろ、ふつうは。
何か侵攻せざるを得ない理由があるとしたら?
「……………パール、500年前の覇国はどこだ?」
「ギラニア帝国です。当時から、大陸中央部に存在する強国でした。なるほど賢王が当時の皇帝ということですか。」
…繋がったかもしれない。
英雄譚の賢王が当時の皇帝ならつじつまが合う。
リュウは賢いが、実際にしゃべったリュウは偉そうでもあった。
卑小だと思っている人間に約束を破られればブチギれるのは目に見えている。
だから、当時のことを根に持っている奴らが帝国に復讐しに来たんじゃないか。
500年も後の時代だから年を取って強い奴しかいない、いやそもそも眠ってたら繁殖できないか。
おそらく何体かを偵察として出してたんだろう、まだ帝国が残っているのかどうか。
そして俺はあの水龍に出会った。
おそらく奴らはもともと勝つつもりがなかったんだろう。
聖剣を確認しに行く時点で絶対に目撃される。
そしてどちらかといえばリュウはモンスター扱いされる。
それならば、SS級冒険者が動くより先に動こうとなったんじゃないか?
まぁ、すべては憶測だ。それに戦いが始まった今となっては意味がない。
(パール、影分身を残していくからな。よし、これぐらい魔力を込めれば大丈夫だろ。行くぞ。)
(了解。)
俺はベッドに影分身を残し、マーテル公国へ向かうのだった。
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