第26話 傲慢
「いたいた、5匹か。」
「どうしますか?」
「4匹は魔法で倒して、あとは笏で倒す。」
そう言って俺は魔法を発動させる。
「氷矢」
俺は前回の反省を活かし、1匹に5本ずつ打ち込む。
「グギャッ」
残りの1匹がこちらに気づき、迫ってくる。
俺は魔力を笏に、一気に流し込み剣を形成する。
あと一応、身体強化を発動できるように用意もしておく。
「ふっ。」
俺は相手の動きを見極め、一撃で首を断ち切る。
「ドサッ」
「おお、意外と簡単だったな。」
「ゴブリンの怖ろしいところは数による暴力ですからね。少数じゃ、脅威になり得ません。」
「あと、何匹だっけ?」
「あと10匹ですね。討伐証明のために両耳を切り取る必要があります。あと、ゴブリンは魔石を持っていますよ。」
「貴重な情報提供に感謝する。さあ、両耳を切り取って、魔石を取り出してくれたまえ。」
「えっ、自分でやらないんですか?」
「やるわけないだろ。服が汚れるじゃないか。」
そう言いつつ、俺は魔力を円状に放出し、ゴブリンを探す。
「全く、マスターの成長に繋がりませんよ。」
何やら、ブツブツ言っているが全無視だ。
「おっ、これはビンゴかな。おい、行くぞ。」
「マスター、私の扱いが雑すぎませんか?」
「あのとき、こき使うって言っただろ。」
俺は身体強化し、一気に奴らのもとへ向かう。
「もう飽きたから、早く終わらそ。」
「氷矢」
俺は視界を埋め尽くすほどの氷矢を展開し、風魔法で繰り出す。
「やれやれ、少しやりすぎてしまったようだ。僕としたことが少し大人げ無かったかな。」
そう言って俺は髪をかきあげる。
「気持ち悪いですね、吐き気がします。少し、回路に異常が生じましたよ。」
「いやでも、ほら、魔石が見えてるぞ。お前の作業を減らしてやったんだ。感謝してほしいな。」
「はあ、本当に減らない口ですね。」
「口が減ったら困るだろ。」
「……」
「おい、無視はやめてくれ。」
その後、俺たちは依頼を達成して街に戻って行った。
「お疲れ様でした。報酬はこちらとなります。」
俺はそれを見たとき、目を疑った。
えっ、こんだけ?
そういや、報酬がいくらか確かめてなかったな。
やってみたい一つだったから。
「魔石はどうされますか?売却されるなら、買い取りますが?」
「いや、結構だ。」
俺は、報酬の少なさに元気をなくし、すぐに帰っていった。
その夜、
「マスター、元気ないですね。どうされたんですか。」
「…報酬が少なかった。銀貨一枚だぞ。俺のお小遣いの十分の一じゃないか。だから、コブリンがいなくならないんだ。」
「まあ、妥当な額だと思いますけどね。ゴブリンの肉は不味く、食べられません。それに、魔石の純度も低いです。それなのに、ギルドは報酬を払ってるのです。間違いなく、赤字ですよ。特に魔石が売られない場合は。
マスター、あなたは恵まれすぎているのですよ。ですから、お金のありがたみがわからないのです。」
「それは分かってるつもりなんだがな。おれは男爵家の次男だし、魔法と剣もかなり出来る。それが生まれ持ったものであることも理解している。だけどな、ずっとそうあれば、当たり前と思うのも仕方ないだろ。」
もし、俺が農民に生まれ変わったとしても、記憶が残っていたならば、俺は搾取される方じゃなくて、搾取する方にまわるよう立ち回ったはずだ。
その方が結局は楽に生きられるからな。
「それに、よく言うだろ。与えられたものに文句を言うのではなく、どう扱うかの方が重要って。ただ、俺の場合、与えられたものがよかっただけなのさ。」
「…そういう考え方もあるのかもしれません。」
「どこまで行っても俺は俺だ。傍から見れば傲慢かもしれない。だからなんだ、運も実力のうち、いや運が勝負を決める場合も多い。」
「…開き直りましたね。」
「あぁ、これも一つの生き方だ。」
この日、パールの価値観が確かに変わった。
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