淑女教育(3)
クラリスは教えるのがうまく、必要な情報をうまくストーリーに落とし込んで説明してくれるのでとても覚えやすい。
食事の時間には少しずつテーブルマナーについて学び、夜は自学習をおこなう。
そんな日々が二週間ほど続いた。
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二週間後。いつも通りクラリスの教育を受けていたところに、ある来客が訪れた。
「ご無沙汰しております、皇太子殿下」
様子を見に来た皇太子だった。後ろには側近のセルジュもいる。
「クラリス、進み具合はどうだ」
「はい、ステラリアお嬢様は私の説明をすぐに理解され、現時点で三割ほどを覚えていらっしゃいます」
「三割か……遅いな」
そう、私の学習の進み具合は、要求されているペースに届いていない。
パーティー直前には衣装合わせやダンスなどにも時間を割く必要がある。
このままでは貴族名鑑をすべて覚えるのは難しいかもしれない。
「ステラリア」
「なんでしょう?」
「お前には帝国の発展のために働いてもらわなければ困る。今回の要求は確かに大変だろうが、無理難題を課したつもりはない。こんなこともできずに生き延びられると思うな」
「っ!?」
氷のように冷たい言葉に、私は冷や水を浴びせられたように感じた。
本来、私の存在は帝国にとって疎ましいもので、そういった不安や不満を跳ねのけるために知識が必要だったはずだ。予想外にクラリスから好意的に接してもらっていたために、甘えてしまっていたところがあったのは間違いない。
「そう、そうね……そのとおりだわ。こんなところで詰まっている場合ではないのよね」
「そのとおりだ。残りの期間、全力を尽くせ」
「ええ、そうするわ……ありがとう」
「そ、そうか。俺はこれで失礼する。クラリス、あとは頼んだぞ」
「お任せください、殿下」
言うが早いか、皇太子はすぐに立ち上がってあわただしく部屋を去っていく。
時間がない中でも私に発破をかけようとしたんだろう。その気遣いはありがたかった。
「クラリス。ちょっとお願いがあるのだけど……」
その日からが、本当の意味での勝負の始まりだった。
私の価値を示すために。
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勉強の遅れを取り戻すため、まずはシンプルに勉強時間を増やした。
犠牲になったのは当然、睡眠時間だ。寝る間を惜しんで机にかじりつき、紙に情報を書き出して覚えたり、声に出して読み上げて覚えたりと手段も尽くした。
その甲斐あって、私は目に見えて遅れを取り戻し、パーティーの一週間前である今日、あと三~四日ほどで終わりそうな見込みが見えてきた。
もちろん、単に睡眠時間を減らしただけでは疲労が回復しなくてパフォーマンスが落ちかねない。
睡眠時間を減らしてもパフォーマンスが落ちなかったのは、やはりクラリスのおかげだった。
疲労回復に効果のあるハーブティーを用意してくれたり、糖分を補給するためにスイーツを用意してくれたり。夜はアロマオイルによるマッサージをしてくれたりと、それまで以上に献身的に支援してくれた。
日中ほとんどの時間を私と過ごしているはずのクラリスがどうやってこれらのものを用意してくれたのか、何度問うても答えてくれなかった。
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