第九集 いい天気
「快晴ですね!」
雲一つない
広大な囲いの中に集められている商品である馬たちも、どこか嬉しそうだ。
「けっこう寒いな」
「平原と言っても、わりと高地にありますからね。生姜湯飲みます?」
「おお、欲しい欲しい」
「すぐ淹れますね」
そしてお湯を注ぐ。ふわりと立ち昇る甘くすっきりとした香り。
「どうぞ」
「ありがとう。……美味い」
「ふふふん! 母の特別な調合を真似して作った物ですから。美味しいはずです」
「そういえば、両親とは連絡を取っているのか?」
「まぁ、たまに。母は色々物資とか送ってくれます」
「そうかそうか。きっとお父上も心配しているよ」
「そうですかねぇ」
「可愛い息子だからな」
「まぁ、わたしは美少年ですけど」
「違う、そうじゃない」
「へ?」
「もういい。飲んだら行こう」
「そうですね。わたしは族長殿の診察をしてから向かいます」
「おう。頼んだ」
「入ってもよろしいですか?」
「おお、
クハルゥの族長の天幕へと入った
「ごきげんよう、族長殿。どこか痛いところはありませんか? 今朝は冷えますから」
「身体の節々がちょっと痛むくらいですな」
「食事は出来そうですか?」
「食欲はあるのです。ただ、においのきついものはどうも……」
「しばらくは柔らかく茹でた麺やお粥がいいでしょう。胃腸に不安があるのなら、
「ああ、麺か……。今日はそうしてもらうよう、伝えるとします」
そのあとも、排泄物の具合を聞き取り、腹部を押して痛みの度合いや脈をはかるなどして診察を終えた。
「では、またお昼ごろ診に来ます」
「助かります」
天幕を出て、
「あ、ウルナ殿」
「おお、
「ええ、とっても。良い馬を
「
「……厄介ですね。毒でも盛っておきましょうか」
「お、いいじゃん」
「いやいや、流石に
「そりゃそうか。まぁ、朱燕軍が自軍用に買う馬には良いのを回しておくよ」
「ありがとうございます」
視線を
顔を真っ赤にして詰め寄ろうとする草原の民に対し、柔和な笑顔で制しながら背に兵部侍郎たちをかばっている。
少ししか聞こえないが、あの兵部侍郎、「金は払うと言っているのだから良いだろう」となおも草原の民たちを煽っているようだ。
「
そして夕方。馬市初日は言葉による小競り合いはあったものの、一応けが人はなく終えることが出来た。
「……戦に行く方がマシだな」
「あらあら。大変そうでしたもんねぇ」
「あいつ、馬市に文句言いながら、世間話を装ってお前のこと聞いてきたぞ」
「そうですか。わたしは女性が好きなので、男性に興味を持たれても嬉しくも何ともありません」
「知ってるよ、それは。多分、気づいてるんじゃないか? お前が
「まぁ、いいですよ。むしろ次聞かれたら話しちゃっていいですよ」
「わかったけど……」
「大丈夫ですって。いざとなればちょっと毒でも盛りますから」
「それはやめてくれ」
「はあい」
やはり、毒を盛るのは駄目だった。
「ううん、肉でも焼くか」
「賛成です!」
ウルナからたくさん羊肉をもらったらしい。
「
「粉末のをすぐ出します!」
「良い香りだ。さすが
「そうでしょう、そうでしょう! 薬の質は皇宮の
「はいはい。そりゃすごい」
「……もっと積極的に褒めてくださいよ! わたしは褒められないと伸びません!」
「だからつい数秒前に褒めただろうが」
「足りない!」
「……はぁ」
「溜息をつくなんて、相当疲れていらっしゃるんですね。何か処方しましょうか?」
「いや、いい」
自分のせいで
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