第14話・かぼちゃと土産と願いごと(前編)




「うっわ~」



 テーブルに並べられたかぼちゃ料理の数々に、夕稽古から戻った莉玖が声をあげた。



「かぼちゃ料理美味しそう!」



「どうした那峰。かぼちゃ、本日の特売品かなんかだったのか?」



 驚いた顔で言う蘭瑛に、ひよりは笑って理由を述べる。



「いえ、今夜は特別に諒くんの好物を」



「へぇ」



「うわっ、なんだよこれ! かぼちゃ?」



 遅れて部屋に来た諒が、食卓を見るなり叫んだ。



「よかったね! 諒」 と莉玖。



「残さず食うんだぞ!」 と蘭瑛。




「りくっ、おまえが言ったのか!」



「そうだよ。だって好きだろ?」



「す、好きだけどっ。……頼んでねーしっ」



「まぁそう言わずに。食いもん残すと罰があたるからな。ところで那峰、隊長は?」



 蘭瑛の質問に、ひよりは困り顔で答えた。



「それが……野暮用を思い出したとかで出かけてしまって。夕飯は先に食べていていいからって」



「なんだよそれ。玲亜は?」



「玲亜さんはまだ……。そういえば遅いですね。そろそろ帰ってきてもいいのに」



「しょうがねぇなぁ。那峰、隊長なにか言ってなかったか?今日の議会での報告内容とか」



「いいえ。そんな話は何も聞いてません」



「なにかあったんですか?」



 諒が蘭瑛に尋ねた。


「皆が揃ったところで隊長から話があると思ってたんだが。出かけちまったなら仕方ないな。玲亜には後で話すとして。俺が聞いてる範囲でしか話せないが……。おまえたちの耳に入れておきたいことがある」



 蘭瑛は諒と莉玖、そしてひよりを前にして話を続けた。



「実は先週から帝都で暮らす若い女性三人が相次いで行方不明になっていてな。調査を進めていたんだが、どうやら鬼獣が関係しているようだという報告があってな」


〈鬼獣〉とは人間庶人に取り憑いた妖霊が負の想いを糧にして妖力を増大させ姿を変化させたものだ


 最初は〈霊鬼〉。次に〈鬼獣〉。そして最終変形体である〈妖鬼〉となった場合、庶人人間に戻すことは不可能だと言われている。


 鬼獣であればまだ妖気を祓い、妖霊を分断させ、庶人に戻すことも可能だと聞いてはいるが。



「鬼獣なら早く見つけないと」


「鬼獣に変わるまで気配も探れなかったんですか? それって上番隊に責任ありですよね」



 莉玖の発言に続いて諒は渋い顔で言った。



「まあとにかく。今夜から後番隊の六班と七班も動くそうだから。諒は今晩の夜警で改めて上から何か話があると思うが。今後はいつ緊急要請が出てもいいように。そのつもりでいること」



 諒と莉玖、そしてひよりは頷いた。



 そして帰宅しない玲亜や黎紫のこともあり、夕飯をもう少し待ってみるのか、先に食べ始めるのか四人が思案していたところへ。



「ただいま!ごめんね~、遅くなって!」



 玲亜の声が玄関から聞こえた。



「おかえりなさーい!」



 玄関で出迎えたひよりに、玲亜は溜め息をつきながら言った。



「も~。うちの親がね、夕飯も食べていけってうるさくて、言い合いしてたら遅くなっちゃったの。兄さまのこともいろいろ聞かれて。兄さまってば、実家に長いこと顔出してないみたいだから。次は兄さまにも行くように言っとかなくちゃ。兄さま居る?」



「それが出かけていて」



「そうなの? 仕方ないな……。あ、これお土産。ひよりちゃんだけに特別。開けて見て!」



 玲亜は鞄の中から小さな包みを取り出し、ひよりに差し出し微笑んだ。



「お土産、ですか?」



 ひよりがそっと中を開けると……。



「わぁ、可愛い!」



 小さな包みの中には、紺色の細い紐の付いた小さな───、



「これは……鈴ですか?」



 色は桃色。


 素材は硝子。


 形は桜の花を模してある。




「ふふ。可愛いでしょー。なんか今城下で流行りなんだって。とくに女子にね。『幸運のラブリン』って言うそうよ」



 らぶりん……!?



「でもこれ、鳴りませんけど……」



 鳴らない鈴。昼間拾ったあれと同じ……? 形は違うけど。



「そうなのよ、鈴なのに鳴らないの。どんな造りになってるやら、不思議よね。でもお願いごとをして、その願いが叶うとき、とても美しい音が響く……ってのを売り文句にしてるわ。まあ迷信でしょうけど」



「へぇ……。でもとても綺麗で可愛いですね」



「そうなの! 売れてる理由はこの可愛らしさが、乙女の心を掴むのよね~。花の形や色も選ぶの迷うくらい、いろいろあったの。季節の花に分かれてて。あ、ちなみに私はチューリップ」



 玲亜は鞄に付けた赤いそれをひよりに見せた。



「わ~、それも可愛いですね。でも花以外に違う形のものも売っているのですか?」



「そうねぇ。星や葉っぱのようなものとか、ほかにもあったと思うわ。きっと男性客用ね。あ、もしかしてひよりちゃんお花の形じゃない方がよかった?」



「いいえ、これがいいです。桜の花形、素敵です。……ありがとう、玲亜さん。大切にしますね」



 ひよりは『幸運のらぶ鈴』を丁寧に包へ戻し、割烹着の内ポケットへ仕舞った。



「先に食べてて。私、着替えてくるから」



 玲亜が自室へ向かうと同時に居間から声が聞こえた。



「お~い! そろそろ飯にしてくれ~」



 蘭瑛の声だ。



「はいはーい!」



 ひよりは急いで戻ることにした。




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