第32話 旅立ち

春の匂いは確かにする。こんな季節の変わり目に、旅に出るのもいいかもしれない。行き先は未定。読み掛けの本と最低限の荷物を持って鈍行電車に飛び乗る。柔らかな朝日が旅立ちを見送る。クロスシートに腰掛けて膝の上に本を広げ、自分の人生をなぞるように物語を追う。車輪の音を夢心地に聞きながら。

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