第2話

「可愛いね」


 声を掛けると、白猫は満足げに目を細めた。本当に可愛らしい猫だ。実のところ、猫は子供の頃から大好きだ。母がアレルギーで飼えないのが残念なのだが。

 白猫の瞳は深い碧をしている。美人猫だ。いや、雄かな。イケメン猫だ。


 背中を撫でてやるとゴロゴロと喉を鳴らした。人なつっこいんだな。


「君は綺麗だね。私と違って」


 毛並みが本当に綺麗だな……とうっとりしていると。


「にゃっ」


 短く鳴き声を上げて、白猫は駆けだした。


「どこへ行っちゃうの?」


 するするっと白猫は、一軒のお店の中に吸い込まれていった。

 ウイルス対策で少し開けられたドアの隙間から、滑り込んだのだ。


「飼い主さんのお店かな」


 気になって追いかけると、ショーウインドウに飾られたトルソーがすぐに目に入った。

 つまり、私の苦手な洋服屋――リアル店舗の。


 だけど、大型商業施設に入っているようなブランド系の『アパレルショップ』とは違って、こちらは『洋品店』と呼びたくなるような、こぢんまりとした佇まいだった。

 思わずまじまじと外観を見つめる。

 お客さんで賑わっている様子は見えないし、店員さんが呼び込むような雰囲気でもない。

 どっちかというと、のんびりと経営している典型的な昔の個人商店だ。

 こういうタイプのお店は入ったことがない。

 イメージとしてはおばちゃんが行く店って感じだろうか。


 なんて考えていると。


「にゃあ?」


 さっきの白猫が、またしても私を呼ぶ。

『入らないの?』と言っているかのように。


 ウサギを追いかけて穴に落ちるアリスのように、私は半開きのドアを開け、一歩足を中に踏み入れてみたのだった。

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