第22話 宇宙の法則が 乱れる!

「…………こんな感じです」


 着替えの為に部屋を出て待つ事約二十分。


 お許しが出て部屋に入ると、中には眩しい程の可愛さを放つ実写版ミミさんが恥ずかしそうに火縄銃を抱いてもじもじしていた。


「………………」


 夜一は口が空いて言葉が出なかった。


 息をするのも忘れていた。


 それくらいミミさんコスをした真昼は可愛かった。


 いや、元の真昼もめちゃくちゃ可愛くはあるのだが。


 コスプレした真昼は別人だった。


 というか、ミミさんだった。


 もしミミさんが実在したらこんな感じだろうというイメージそのままだった。


 信じられない事だった。


 だって夜一はオタクだ。


 三次元は二次元に勝てない事を誰よりも分かっている人種なのだ。


 一足す一が二である事と同じくらい当たり前の常識が否定された。


 宇宙の法則が乱れた気分だった。


「夜一君? ……期待と違った?」


 ばっちりメイクで別人のような顔になった真昼が、おどおどしながら聞いてくる。


 あまりの可愛さに朦朧としながら、夜一はこくりと頷いた。


「……期待以上だ。可愛すぎるだろ……。もう、可愛いしか言葉が出ねぇよ……」


 可愛いだけじゃない。


 ものすごいクオリティーだ。


 明るいセミロングの金髪だった真昼の髪は、アニメっぽい黄色味の強い金髪に変わっていて、髪型もミミさんと同じく、両側からドリルみたいなツインテールが飛び出している。


 それがまた見事な出来だった。


 コテで巻いたなんて生易しいものではなく、アニメみたいに綺麗に渦を巻いている。


 目が錯覚を起こしたみたいだ。


 衣装の出来も素晴らしい。


 キュッと締まった革製のコルセットの上で、パツパツに膨らんだシャツが大きな乳袋を作っている。


 黄色いミニスカートはフィギュアみたいにふんわり広がって、茶色いニーソックスとの間に完璧な絶対領域を形成していた。


 顔だってすごい。


 可愛いのは当然だが、真昼はちゃんとミミさんの顔になっていた。


 そのままの真昼はいかにもギャルっぽい、勝気で悪戯っぽい目をしている。


 それが今は、優し気なタレ目に変わっていた。


 眉の形も変わって、髪の毛と同じ色になっている。


 肌の色、輪郭すらも変わっている気がする。


 メイクで上手くやっているのだろうが、それにしたって凄い変わりようだ。


 真昼だと言われなければ気づかないかもしれない。


 これが本物のコスプレなんだと、夜一は素直に感動した。


「だから褒めすぎ!? 全然、そこまでじゃないから!?」

「いやそこまでだろ……。本物のミミさんが目の前にいるみたいだ……。その髪の毛どうなってんだ? てか、胸すげぇ……。アニメじゃん……。可愛すぎる……。もはや犯罪だろ……」

「そ、そんなにジロジロ見ないでぇ……」


 極限まで赤くなり、真昼が顔を手で隠す。


「隠すなって! その可愛い顔もっと良く見せてくれ!」

「ふぁ……もう、むりぃ……」


 へろへろと、真昼がその場に座り込む。


「おぉ……上からの眺めも最高だな……。後ろから見てもいい。なるほどな。そりゃカメラを持った連中が群がるわけだ……」


 夜一はオタクだ。


 当然コスプレ女子には興味がある。


 けれど、わざわざコミケに行ってデカいカメラで知らない女の子の写真を撮る連中の気持ちは理解出来なかった。


 今は違う。


 だってこんなに可愛いのだ。


 こんなのを生で見てしまったら、画像に収めないと勿体ないと誰でも思うだろう。


 相手が大好きな可愛い彼女となれば猶更だ。


「なぁ真昼、画像撮っていいか?」

「えぇ!? それはちょっと……」

「頼むよ! こんなに可愛いんだ! これっきりなんて勿体ない! 画像に残して好きな時に眺めたいんだよ!」


 なんなら印刷して部屋に飾りたいくらいだ。


 惚れ込んだフィギュアを飾りたくなる気持ちに近い。


「うぅ……。でも、なにかの弾みで夜一君の友達にバレたりしたら恥ずかしいし……」

「大丈夫だ! 俺、そんなに仲いい友達いないし! 心配なら、帰ったら速攻パソコンに移して携帯には残さないから!」

「うぅ~……」


 ぺたんと女の子座りをしたまま、困ったように真昼が人差し指を軽く噛む。


「じゃあ、夜一君のパソコンにデータ送るんじゃだめ? 撮影会とかイベントで撮った綺麗な画像あるから……」

「それも欲しいけど、出来れば自分でも撮りたい! 自分でもよくわかんないけど、自分の手で撮った真昼の画像が欲しいんだ!」


 独占欲とでも言うのだろうか。


 他人の撮った画像では満足できない気がした。


 二人の間に、余計な物が混ざる気がしてしまう。


「……頼むよ真昼。絶対に他の奴には見せないから……」


 自分でもびっくりするくらい夜一は必死になっていた。


 普段はあまり物事に執着しないタイプなのに、真昼の事になると必死になってしまう。


 こんなの全然クールじゃない。


 分かっていても止められない。


 これが恋の力なら、なんとも恐ろしい話だ。


 真剣な目で見つめると、真昼は満更でもなさそうにはにかんだ。


「そ、そこまで言うならいいけど……」

「っしゃああああ! サンキュー真昼!」


 嬉しさに、夜一は飛び上ってガッツポーズを取った。

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