通常ルート84 修羅場 後編




「改めまして先輩の部屋の隣に越して来ました♡ よろしくお願いしますね先輩♡」

「お、おうよろしくな景ちゃん」

「私もいるんだけどなぁ? もしかして見えない感じかな? もしそうなら眼科勧めるよ? ヤブだけど」


 とりあえず落ち着いてくれない心? 話が進まないからね?

 ふむ、少し考え色々な疑問を景ちゃんに聞いてみることにした。


「なんであんな良いタワマンからここに来たんだ?」

「別にこだわってあそこに住んでたわけじゃありませんし、少し前までは別に今まで通りで良かったんですけど」


 だけど?


「そこの奴が女になってから先輩を取り巻く環境が変わったので、いずれは私と結婚するにしても浮気は許せないので近くで見張ろうかと」

「え、もしかしなくても俺に言ってる? 浮気の件……」

「先輩何言ってるんですか?? そんなこと聞いて」


 だよねそうだよね。だって俺浮気なんてしてないしね、付き合ってすらいないから浮気なんて不可能だ。

 あ、いや一応乱華とは付き合ってはいたのか。でももうそれも終わったから俺は自由の身なわけなのだから、俺に言ってるなんてありえない筈だ。間違いない。


「私先輩以外の他人興味ないんですよ? 先輩にしか言ってないです」


 嘘やん。俺に言ってんのかよ。

 俺はすかさず景ちゃんの側に寄り耳元で周りに聞こえないように小さな声で話し掛ける。


「景ちゃん忘れたのかよ。色々アクション起こしてくる奴らを殺される前に俺がギャルゲーみたいに攻略する作戦だっただろ? 浮気は違うし、そもそも俺と景ちゃんは別に付き合ってないだろう?」

「……先輩」


 なんだよ。


「私ただでさえ耳が性感帯なのに……好きな先輩がそんな耳元で喋ってたら……どうにかなっちゃいそうです♡」

「知らねーよ」


 真剣な話をしているのにコイツは……爆音で叫んで鼓膜を粉砕してやるぞこのやろう。


「でも正直なところ上手く攻略出来てるか分からないんだよ。なんか余計拗らせてる様な気がしてな? 嫌われてんのか好かれてんのか分からないんだ……」

「それ以上天然言ってるとぶっ飛ばしますよ先輩?」


 何故に!? 俺なんか言ったのか!?

 理不尽にキレられたことに驚いていると、隣から声が、


「なんか二人でコソコソ話して嫌な感じなんだけど? ねぇ杏理あの二人酷くない?」

「そうね心の言う通りね」

「これやっちゃう杏理? 風穴空けちゃう?」

「え、そ、それもそうねぇ!」


 こら心……杏理を巻き込むな、てか髪色は金髪だけど今考えるとツインテールでツンデレ、さらに銃を使っている杏理ってなんかアニメ関係で既視感があるな……いや止めよう深く考えないようにしよう。

 景ちゃんは杏理に桃まんを渡そうとするな。止めろ止めろ。


 これ以上はいけない、と俺は話題を変えた。


「そういえば景ちゃんは分かったけどなんで杏理も一緒に来たんだ? 杏理もこのアパートに来たとかそういう訳じゃないだろ?」

「そ、それは……」


 杏理は俺からの問いに何処か気まずそうにしだした。不自然に思っていたら景ちゃんが可愛らしい笑顔を杏理に向け話し始めたのだ。


「私が連れてきたんですよ。ねぇーフィーリス先輩?」

「うっ」


 杏理が明らか景ちゃんに話しかけられる度にビクついて視線を逸らしている。

 おい景ちゃん……杏理に何したんだよ……。


「心外ですね! 私は先輩を助けたんですよ!」

「助けた? どういうことだよ?」


 突然の発言を聞き、すかさず疑問を投げかけた。


「先輩達さっき買い物行ってましたよね? その時何かありませんでした?」

「さっき? そんな特に何もなか____」


 瞬間思い出した。


「あったわ」

「ですよね?」

「え、なんかあったの透?」


 心は分からなかったか、それもしょうがないだろう。なんせ俺を狙った弾丸だったしな……いや正確には警告のはずだ。足元に撃ってきたし、

 凄腕の杏理なら間違いなく外しはしない。


 言った方が良いのか、と思考していると姫が代わりに言った。


「そこの杏理が透を撃ったのじゃ、当たらなかったけどの」

「え、そうなの杏理?」


 いかん発言によっては心の機嫌が悪くなる可能性が……


「だって……雨上がデレデレ鼻の下伸ばしてたから……」

「あー分かる! そういうの見てると殺したくなるよね!」


 分かる! じゃねぇんだよ。

 鼻の下が伸びるって、俺は自分の無意識下でやった行動にも気を配ってないといけないのか? おかし過ぎんだろ……景ちゃんもなんとか言ってくれ。


「分かりますその気持ち」

「分かるな」

「「「ねぇー!」」」

「その女子特有の結束力やめてくんない?」


 仲が良いのか悪いのかコイツらは……。


『透良いのぉ面白いのぉ! もっともっとワシを楽しませてくれなのじゃ!』


 五月蝿い声が脳内に響いてくる。おい止めろドヤ顔で見るなこら。


『お前は本当に人の不幸を楽しんでんのな、性格悪いぞマジで』

『神じゃからの、不滅の儂からしたら退屈は天敵じゃ』


 神様の感じる退屈がどれ程のものなのか分からないけれどコイツはあれだ、神じゃなくてもはや邪神だろ。

 害悪過ぎるわ俺にとって、


『邪!? ……ま、まあ良い今は許してやるのじゃ。おむらいすの礼じゃ』

『もしオムライス作ってなかったら?』

『呪いを増やしてたのじゃ』

『うっそだろお前!?』


 あっぶねぇぇぇぇ!!! 

 ようやく真実の呪いの攻略法が分かってきたんだぞ!! これ以上デバフはいらないわ!!

 この駄神め! 良いのか!? 俺にもし何かあったら面白いことなくなるんだぞ!!?


『む、それは困るの……』

『だろそうだろ!?』


 ここはもうちょっと俺を助けるとか、呪いを無くすとか色々あるんじゃないのかな!?

 

 動揺のあまり口調が変になってしまうが、そんな俺の態度に姫はサラッと応えた。


『透お兄ちゃん何を言っておるのじゃ』

『な、なんだよ』

『いや儂お主のこと助けておるじゃろうが』

『え、あれか? 姫が俺のところに来た最初の頃に心が包丁を隠し持ってたのを教えてくれた時か? それは最初だろ最初』


 懐かしい、そういえばそんなこともあったわ。

 しかし姫は首を横に振った。


『何を言っておる。直近じゃ直近』


 直近? え、なにかあったか?


『今日の昼に真白の作ったハンバーグ食べたじゃろ?』

『……食べたけど?』

『あれじゃ、あれは儂が神の力で味とか色々を変えたから食べれたのじゃ』


 え、それだけ? と思ったことをそのまま言おうとした時、姫からとんでもないことを言われた。


『変わる前のあれを食べていたら透お主死んでおったぞ』


 ……はぁ? どゆこと?


『じゃから死んでおったところを儂が助けたのじゃ、感謝するのじゃ』

『待ってくれ!? え、死……ってマジか!?』

『死因はショック死じゃろうな』


 ショック死ってまさか真白の奴! ナイフだけじゃなくて毒まで使うようになったのか!!

 最悪じゃないか! やはり俺を殺す気なのか!


『いやシンプルにあまりの不味さでショック死じゃ』


 不味くて死ぬってマジか真白!! 二度と食わないわアイツの飯!!


 でもなるほどだ。姫が助けてくれていたというのも説得力があるので信じていいかもしれない。

 なんせあのゲロまずい真白の手料理が今日だけは珍しく味は美味しく食べれたのだ。これが神の力なら納得がいく。


『それの他にも実は透の危機を色々救っておるぞ』


 姫そんなに俺のこと気にしてくれてたのか……ヤバい惚れそうだ……。


『儂の暇潰しペットじゃからの、そんな簡単にくたばっては困るのじゃ』


 前言撤回、こんなのに惚れるわけにはいかない。


『じゃからこの三人には儂から素晴らしい一言を言ってお主のストレスを解放してやるのじゃ』


 そう直接脳内に語り掛けていた姫は、勢いよくテーブルから立ち上がり「聞くのじゃ!」と声高らかに女子三人に言い放った。


「体育祭の日! 最も成績の良い者には透お兄ちゃんが”なんでも一つ言うことを聞く”のじゃ!! じゃから当日まで無益な争いは止めるのじゃ!!」

「「「はい姫様!!!」」」

「ふむ! 皆息ピッタリじゃ! 仲良き事は良い事じゃな」

「……」


 俺を救うとか言ってなかった? 

 あれかな? 俺の拒否権は無い感じなのか?


 とりあえず言っておこうか。


「姫ふぁっきゅぅー」



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