第150話 起床

―――夢を見ていたようだ。


夢の中にはアシュレイがいた。

すごく悲しんでいるアシュレイに、俺は何の言葉もかけられず。

木偶のようにただボンヤリとしていた。


ボンヤリしている俺の向こう側で◆がすごく怒っていた。

何に怒っているのか、何て言っているのか、何をしているのかもわからない。

只々黒い炎をバラ撒いていた。


怒っている◆は本当は優しい人で。

だからあの▲に、すごく怒っているんだ。

目の前に立つニンゲン総てが憎い、そう思えるほどに。


でもそれを見るアシュレイは悲しそうで。

俺もしっかりしないと。そう思ったんだ。

しっかり頑張って。アシュレイと一緒に笑い合う日を―――


そう思っていると誰かに抱きしめられた。

アシュレイかな?


そうか、アレは▲で、アシュレイは▲を止めてくれてるんだな…


「ありがとう。―――ごめんな、アシュレイ」








「―――下ろせ!―――そこだ!」


誰かの声が聞こえる。このやたら響くうるさい声はロッソだ。


「―の近くに―――!―――もならん!食堂へ!」

「うるせえな。良い夢見てったのに」


何だかわからないが怒ってる人とアシュレイの夢を見た。

怒ってる人は微妙だったけどアシュレイの出て来る夢を見れたのがうれしい。

言うてチョイチョイ夢に出て来るが…ってなんだか焦げ臭せえな。

あれ?ここどこだっけ?


目を開けば焦げた天井。

部屋を見るとやや見覚えのある空間だ。言うてあちこち煤けてはいるが。

窓の外は何だか見覚えのある建物たち。

見たことのある時計台。それにアレは教会の鐘か。

まあその全てが焼け焦げているのだ。


何で焼け焦げているか。

まあ、夢の中であいつがバラ撒いていた黒炎ではない。


普通に燃えているのだな。

普通の火だ。まだチラチラ燃えてる火が見える。普通の火だな。うん。

燃やされたのだな。うん。


「……誰がワシのリヒタールを燃やしたんじゃああ!」

「わ、若!」

「ロッソ!お前犯人知っとるんか!?カチコミじゃあああ!いくぞおらあああ!?」

「若!人族ですよ!戦争です!」

「…ああ?ああ。そりゃそうか。」


窓から叫べばすぐそこに居たロッソが凄く驚いている。

ああ、ここ俺の部屋か。今更気づいたわ。


思い出したが、俺はそう言えばリヒタール領に向かっていたのだ。

向かっていた…よな?んでなんで城門の中にいるんだろ?


「でもここって領主館おれんちじゃん?なんで?俺ら城門に向かってなかったっけ?」

「あー…それはですな。うーん、何と申しますやら、その、若がですなあ」

「俺が?」

「あー、某らと一緒に行軍しておったのですが、若が、そのあの。」


分からん。まあロッソは脳筋だからな。

何を言いたいか何を言っているかわからんのは仕方ない事なのだ。

脳筋に理路整然と説明しろという方がおかしいのだ。


「わからん。師匠はいるか?」

「あっ、姫様はその、今は」


ロッソは右をチラチラっと気にしながら。

ああ、師匠は隣の部屋か。

という事は師匠がいる隣の部屋は母上の部屋の事だ。

と言っても母上が使っていたものと、親父が描かせた母上の絵を置いてあるだけの部屋だったが…


「師匠いる?」

「カ、カイト様!今はなりませぬ!」


ロッソが止めているのを聞かずに隣の部屋に入ろうとした。

でもそうしたらいつも師匠の近くにいる少し年配のメイドさんに止められた。

この人は何て名前だっけ?えーっと。


「マティアさん?師匠はいないの?」

「いらっしゃいますが、もう少しお待ちを。その…姫様は只今、お着替えをなさっておられます」

「あっ、ごめんなさい。出直します」


なんだよ、着替えしてたのかよ。

そういう事ならロッソの奴、もっと早く止めてくれよな。


「もっと早く止めてよ」

「申し訳ござらん。ところで若、お腹は空いておりませぬか?」


ロッソがシュタタタタっと音をたてそうな感じで回り込んできていた。

どこから来たんだコイツは。


「お前何処から…まあいいか。そういや腹減ったな」

「若は2日も寝ておりましたので」

「マジでか」


そう言われれば腹も減った。

という訳で食堂に移動。

食堂は大して荒れてない。

壁が少し黒い程度で親父と飯食ってた時と殆ど変わらない。


「はあ、まあ飯にするか。ロッソは何か食ったか?」

「はい。割り当て通りに頂いております」

「おれはぶっ倒れてたけど飯は大丈夫だったわけ?」

「荷車の方もありますので。兵たちも指南書の通りです」

「なら良し」


腹減ったので缶詰を開けながら話す。

肉とトマトの煮込みを缶詰にしたものだ。

美味いか?と言われると日本で食べていた缶詰には遥かに劣るが、まあ悪くない。


でも温めた方が美味いな。

缶をナイフで開けて手に持ち、火魔法を使う。缶の中身がグツグツと煮え…


「あっちい!」


缶が魔法で熱されると中身がはねて手に飛んできた。

めちゃ熱い!水!


「くそ。どういう理屈なんだよ!」


コップの水で冷やしながらこの世界の謎法則に文句を言う。


まず、魔法で出した火は全く熱くない。自分で出したものに限るが。

そして、魔法で出した火で温めた缶は熱くない。中身が沸騰する温度になってもだ。

日本で鍋に火をつけて、中の湯が沸騰しているときに鍋に触ったら火傷する。当然だよな?

でも自分の魔法で温めた鍋は…この場合は缶だが、まあ鍋や缶は熱くない。


でも中身はしっかり熱い。どうなっとんじゃ!


「クソ…熱い。あー、でも美味いな。やっぱり温めた方が美味い。ロッソも食う?」

「先ほど昼食は頂きました」

「そう。ならいいや。今は兵の食事はどうなってんの?」

「姫様の連れて来た部隊の者が作っております。大鍋料理ですが、大変美味しいです」

「ほほー。」


お城のメイドさん部隊かな?それとも料理人も連れて来たのかな?

まあ、大魔王城で働いてる人はもともと大魔王様の部下で戦闘要員だった人がほとんどらしいし。

メイドさんたちも戦闘メイドらしい。うーん、『戦闘メイド』か。

とっても素敵な響きだ。俺もそのうち戦闘メイド部隊作りたい。

戦う看護師さん部隊とかでもいいな。

バニーとかスク水とか!


いいな、ぜひ作らせよう。

新しい衣服のデザインがなんちゃらって事で。

いやあ、夢が広がるなあ。

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