第45話 歓迎会
ようやくたどり着いたヴェルケーロ村。
言い方は悪いが、どう見ても寂れ荒んでいる村だ。廃村直前と言った風情である。
1000人もここにいるようには見えないが、まあ領全体で見ればそのくらいいるのか?
ヴェルケーロ領には他に2つ村があるようだが、この分なら大差ないだろう。
距離もそれほど離れていないので何なら開発が進めば合体させてもいい。
それはそうと、とりあえず彼らの状態を改善しなければならない。
彼らは今、どう見ても貧困ループに陥っている。
食べる物さえままならず、衣服も手に入らない。
特産品も特にないので商人は行商になど来てもしょうがないので来ない。
教育などとてもとても。
なので次世代にもやはり同じような生活を送ることになる。何世代繰り返しても、何かを思い切って改革しないとこの状況は変わらないだろう。
この貧困のループを改善するにはどうすればよいか。
中・長期的に見ると、やはり学校だ。
教育によって未来は拓ける。あらゆる職種に就くことが出来る可能性が生まれる。
そしてそこから富を生み出し、貧困層に再分配する。
貧困層はその分配された富で食事をし、学習をする。
誰にでも努力すれば成功することが可能になるルートを作るのだ。
その成功ルートに乗れるかどうかはまた個人の努力や才能が云々って話になるが。
逆に言うと貧困ループの酷いところは努力しても中々そこから抜け出せないというところだ。
中世における貧困な農民の子供は…まずは子供のうちに死んでしまうという事があるが、無事成人した場合にも同じく貧困な農民になることが多い。
農民でない場合は、男子の就職先は身体を使う職業になる。
一番多いのは兵士だ。
なぜそうなるかと言えば、それ以外の生き方を知らない。ほかに道が無いからだ。
では女子の場合はどうか。
女子の場合は同程度の家から婿をもらうか他家の嫁に行くか、でなければ娼婦として売られる。
残念ながらこれが現実だ。
地球でも同じだし、恐らくどの時代の、どの地域でも同じような事は起こっているだろう。
別に娼婦がダメだと言うつもりはないが、娼婦になって幸せを得ることが出来るのはごく一部。
ほとんどは使い捨てにされて終わってしまう。
出来るだけこれを減らしたいと思うのはおかしいだろうか?
…話がそれたが、貧困を解決する短期的な方法。
それは、仕事を増やすことだ。
仕事を増やすと言ってもブラックな企業のような、働く時間や内容が増えるが報酬は同じというとんでもない増やし方ではない。
例えば道路や水道などのインフラ整備だ。
公共事業と言えば無駄遣いの代表、諸悪の根源のように言われているが、必要な物をきちんと作ればプラスでしかない。
必要な工事を領民を雇って銭を払って働かせる。
働いた賃金で好きなものを買い、労働意欲を持たせる。
『仕事?やってらんねーよ!』から
『おちんぎんだいしゅき~!!!おしごとだいしゅき~!!!』に洗脳…ゴホン。
意識改革をすればいいのだ。
勿論、せっかく得た銭を使うための店も用意する必要がある。
こうやって購買意欲を煽り、そのために仕事を創出していくと、『働きたくないでござる』と言っていた奴が『お仕事楽しいナリ!(洗脳』に変わる。
俺が変えるのだ!?
その一方で何もしていない者に銭を配るのは悪手だ。それも最悪に近い。
配給も不作や災害の時などごく一時的にはありだが…基本的にはダメだ。
理由は簡単。
貰うモン貰っても別に働き手が増えるわけでもないし、一時的に消費が増えるかもしれないが、根本的な貧困の解決には繋がらないからだ。
何もしなくても食って遊んでできるのなら、努力して働こうとするような奴がいるだろうか。
まあ俺はやんないな。
そんなわけで明日はここで新たに行う事業の告知とそれに必要な人員の募集を行う。
すでに事前調査は終わっている。
大魔王様からの情報もあるが、ゲーム知識があるのだ。
すでに忍者部隊の中から若いやつを先行させて調べを付けてある。
新規事業の目玉、それは…鉱山だ。
鉱山と言えばどんなイメージがあるだろうか。
金銀を始め、貴重品が掘り出される代わりに労働者は地獄のような環境になり、奴隷を連れていく。
鉱山労働者は塵肺に悩み、坑道が崩れて怪我や最悪死亡し、病気になっても治療を受けられずに早世する。おまけに鉱山から出て来る毒物が垂れ流されて公害がいっぱい。
そんな悪いイメージがあるが、まあ現実にそうなる可能性は割とある。
だから俺の所は福利厚生をしっかりして、ちゃんと休憩時間は作るし毎日水浴びしたり飯いっぱい食べたり、そして給料もいい。そんなホワイトな現場を作りたい(願望
そんな話を急遽集めた領民の前でぶっちゃけた。
おおよそ600人くらい集まったが、どうも反応が悪い。
『おかしいな???』と思ったら、土属性魔法と風属性魔法を使えばいいのだと。
土魔法でしっかり壁を固めれば坑道の崩壊はあんまり起こらないし、風魔法でこまめに換気をすれば鉱山での病気は一気に減少するらしい。知らんがな。
そして魔族は魔法が得意なものが多い。
そもそも鉱山があることすら知られてなかったから儲かる喜びはあっても鉱山労働に嫌がるような事はないと。なんじゃそりゃ。
「そんなことより領主様よ!俺達は強い奴にしか従いたくねえんだ!」
「おう…おいマークス、出番だぞ」
魔族は実力主義の世界だ。
そしてこの場合、実力はほぼイコールで腕力である。
田舎に行けば必ずと言っていいほど腕自慢、
だからこういう風な流れになるかもしれないとマークスに道中で言われていた。
まあ言われてた時は俺は『そんな脳筋いねーだろ』と思っていた。
だってリヒタール領でそういうの見たこと無いからだ。
何でいねえのかと思ったけどいくら自慢しても親父みたいな頭おかしいのが上にいるからかもなと今になってボンヤリと考えている。
そんなことを思い出しながら様子を見ていたら、舐めてかかった腕自慢の若者がジジイのマークスにワンパンKOされた。そら見たことか。
「このジジイは昔は戦場で名を売った事もあるジジイだ。今はウチの筆頭執事で俺が最も信頼を置く家臣だ。」
「おお、前半はともかく後半はもったいないお言葉です。」
「とはいえお主もいい戦いぶりだった。名は何と言う?」
「…ベロザと申します」
「うむ。ベロザよ、酒は好きか?」
「はい!」
「ではこれをやろう」
持ってきてた秘蔵のお酒をコップに一杯あげる。
代々ため込んでいた武具とともにコレクションされていた酒は全部こっちに持ってきた。
どうやって持ってきたのかって?
当然アシュレイの秘蔵の品たっぷりの袋に入れてきたんだよ!
「う、うめえ!こんな酒初めてだ!」
「そうだろう。いずれここでも開拓して酒も作ろう。浴びるほど飲めるように…なれるくらい作らなければな。」
「おお!オラも作りてえだ!」
「うむ。お主の腕力なら良い酒を仕込めそうだな。それで…他に戦いたい奴はいるか?こっちはマークスは一回出たから休憩だぞ。次はロッソ」
「ハッ!」
「戦って敗れたと言っても特に何もしない。戦えば酒がもらえる。これは言わば祭りよ。さあ、我こそはと思うものは前に出よ!」
「「「おおお!」」」
「怪我をしたら俺が治してやろう。とは言え再生できない程の傷を負っても困る。武器は無し、男なら素手で殴り合うのみだ!わかったか!」
「「「おー!」」」
俺が拳を上に突き上げれば、その場の全員が同調して天まで届けと拳を突き上げる。
基本的にお祭り好きで暴れることが大好きなのが魔族だ。
強い者と手合わせが出来ておまけに良い酒までもらえる。
そんなの嫌がる奴が魔族にいるだろうか?
まあ俺は嫌だ。絶対やんねー。
幸いこの中には俺のようなヘタレはいないようだ。
さっき戦ったベロザが呑む酒を皆が羨ましそうに見ている。
羨ましそうにしながらも、むさ苦しいオッサンたちはちゃんと賢く並んで順番待ちをしているのだ。
この辺は単純で素直な魔族のいい特徴が出ている。
人間なら変装して何回も並んだり、先に褒美をもらったやつから買い取ったり…悪い奴は飲んでる奴を盗んだり奪ったりしかねんからなあ。
まあこんなムキムキのオッサン共からあえて盗もうって奴はいないか。
「おう、酒がいらん奴はこっちに来い。肉と魚だ!美味い野菜もあるぞ!」
見に来た領民の中には若いのもいれば当然年寄りも子供もいる。
男女の比率はやや女性が多い。
何やかんやで男は戦いで死んだり、ダンジョンやらモンスターやらで被害が出るからなあ…
戦いたい奴はあっちで。
女子供と戦いに向いてない種族のやつらはコッチで武闘大会のようになりつつある腕比べ会場を見ながらバーベキューを食べる。
「うまいか?いっぱい食えよ!」
「うん!」
俺より小さい子供もたくさんいる。
こいつ等を守り、大きく育てねば。
それが領主としての仕事なのだなと改めて感じた。
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