第40話 絶望の先にあるモノ
「儂も色々考えたが、どう考えても今のお前にリヒタールは任せられん。儂は良くても周囲が納得すまい」
「はあ」
「お前の知識等からするとヴェルケーロあたりが良いだろう。海は無いが森と山ならある。山は鉱山だからなかなか良いぞ」
「鉱山はいいんですけど。森と山があって鉱山って海どころか碌な平野もないって事じゃ?」
「…支度金はこちらである程度用意するが、リヒタール領から連れていくのは100名までにするように。リヒタール領の今後もあるのでな」
「はい…」
質問には答えてくれない。
アッチの世界の記憶には無いが、この世界で勉強したところによるとヴェルケーロ地方は山ばっかりのド田舎のはずだ。
たしか、大魔王様直轄領の隅っこの方で、エルフのユグドラシル王国につながるルートがある…んだったと思うけど。
たしか人間界ともつながってるが、あっちは酷い山越えルートになる。シナリオ後半はアッチからも攻め込めたはずだけど、兵糧がなかなか持たないし冬場は通れない、過酷な山越えだったと思う。
エルフの国の国王は俺の母ちゃんの親父、つまり母方の祖父だ。
そっちはたぶん仲良くしてもらえるだろう。
その辺も考慮してもらったんだと思うけど、問題は森というか山というか。
…とにかくものっ凄いド田舎の未開の地だって事だ。これを管理し、発展させようと思うと…
「現地にはどのくらいの街がありますか?正直、100人ではとても手が足りません」
「まあそうだな。開拓村はあるが、今のところ住人は…まあ、ほとんど未開の地を開墾するのだ……牛馬もやろう」
「うぬぬ…」
お金に牛馬か。
牛、馬は良い。
労働力にもなるし、軍事力にもなる。そして乳も採れる。
おまけに最後は美味しくいただけるのだ。
買うと高いし…つーかこれ今の住民にはあんまり期待できないくらい田舎って事なのか?うすうすそんな気はしてたけど…
うーん、もう一声!
「もう一声!もうちょっと何かください!」
「ふーむ。半年ごとにお主がおねだりと報告に来るなら儂の所の商人も定期的に行くようにしてやろう。後は…マリラエール、中へ」
「ハッ」
呼ばれてはいって来たのはここまで案内してくれた美人のお姉さんだ。
キリッとした目、青味がかった黒ロングの髪、そして出るところ出て引っ込むところ引っ込んでるスタイルの良さ!素晴らしいな。芸術品のようだ。
「お前はこういうのが好みなのか…まあ分からんでもない」
「分からんでもって…大魔王様の好みのタイプかと思っていました」
「儂はもう少しおしとやかなのがいいのう」
「お爺ちゃんの介護をしてくれそうだからですか?」
「それもあるかの。ワッハッハ」
「ナハハ」
馬鹿笑いする俺と大魔王様にマリラエールさんは目が点になっている。
「はあ…笑った笑った。久しぶりに笑ったわ。あー、それでな。マリラエールはカイトを補佐してやるように。こ奴が儂の後継者と心得よ」
「えっ!?」
「ハッ!よろしくお願いいたしますねカイト殿」
えっ?今何つった?
後継者?俺が?
「武の師匠にもなってやるがよい」
「ハッ!…ではこれからは私の事は師匠と呼ぶように」
「は、はい師匠?」
「うむ。良い響きだ」
戸惑っている間に話が進んだ。おまけに武の師匠だってよ。
その師匠は今、何やら感動するように拳を握りしめている。
感動するのは良いが、稽古はほどほどにしてほしい。
「ほどほどでは困るだろう。お前は強くなって最強の魔王に成らなければならない」
「え?ボクそう言うのはちょっと…」
「まあ聞け。天から功績を認められたものは望みをかなえられるのだ。思いのままにな」
―――何だって?天から?望み?思いのまま???
今なんつった?
「天から?思いのままに?」
「そうだ。死者の蘇生も可能だ。お前の記憶にもあっただろうが」
「死者を…アシュレイを?記憶…?」
あった。
そういえばあった。
ゲームではこの世界のメインダンジョン、久遠の塔の攻略で特別な報酬がもらえた。
基本的にダンジョンの攻略はパーティーでするものだが、十分に強化した個人でもなかなか良いところまではいける。そして久遠の塔はソロでの階層攻略の場合、特別な報酬が出るのだ。
あくまでゲーム本編は地域制圧型のシミュレーションゲームであり、ダンジョンはお楽しみ要素である。という1作目の時の名残らしいが、確かにその特別報酬は存在する。いわゆる神の龍にお願いして願いをかなえてもらうようなことが出来る。
ソロクリア報酬で貰えるものは、主人公とその軍勢の強化、それからお金や収穫物の増加、そして…寿命や戦で命を落とした武将の復活だ。
それぞれ『力の珠』、『金の珠』、『命の珠』と呼ばれていた。
ちなみにアシュレイルートでクリアした時はあっさり力を選んだ。
思い出してきたぞ。
何故か掲示板では金の珠だけは略して呼ばれる事が極端に多かったのだ!
「あった…ありました!きんた…いや、命の珠!」
「そう。そのためには強くならなければならない。分かったら励め」
「はい!」
強く、強くなる。
難攻不落の久遠の塔、そこを一人で攻略できるほどに強くなる。
確か命の球は80層以降の10層区切りでもらえたはずだったか。
よし、俺はソロで80層をクリアする。
何が起こってもだ。
そうすることでアシュレイを…取り戻す。
そうだ、取り戻すのだ。
俺は彼女の好意に気付いていながらも、なにも返さなかった。
まだ子供だし…とか、所詮はゲームの中の…とか。
挙句の果てには楽するために利用してやろうなんて邪な考えまで抱いていたのだ。
そうではいけない。俺は…俺は何としても彼女を取り戻す。
そして今度こそ本音で語り合いたい。
素の自分を見てもらって、その上でこのクソみたいな世界を二人でやり直すのだ。
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