第37話 終末の日
「お、飛竜だ」
「珍しいな。何かあったのか?」
「さあなあ…?」
「まあいいだろう。もう一本行くぞ」
「おう!」
スッキリした目覚めの日は何かいいことが起こるに違いない。
そんな一日の始まりだった。
だが、残念ながらそうはならなかった。
ここにきて事態は急に動き始めた。
「カ、カイト様!アシュレイ様!大変でございます!」
「マークス?どうした?」
「魔王様と領主様が…!」
「伯父さんと親父が?」
「父上と叔父様がどうした?」
「倒れたとの知らせが…!!!」
「「はぁ?」」
朝食を食べ、朝の運動という名の剣術修行の最中のことだった。
アシュレイパパで俺の伯父さんでもあるアークトゥルス魔王とウチの親父ことリヒタール大将軍が倒れたという報せが入ったのだ。
マークスに連れられて外に行くと、王の家臣で俺も顔見知りのケラルがそこにいた。
どうも飛竜に乗って急いで連絡に来たみたいだ。
ケラルによると王とウチの親父は二人での会食を終えて寝所に行こうとした時に倒れて…それが昨日の事らしい。
とりあえず一報との事なので詳細は分からない。
分からないけど…俺らが出来ることはとりあえず駆けつけるくらいしかできないか?
いや、これが毒殺だとしたら守りを固めた方が良いのか?
でも下手に軍備を整えると反乱がどうとか言われかねないか???
しかし、ある意味で納得しているところはある。
親世代は2人ともまだまだ元気だった。
何かが起きないとゲームのように世代交代をしないとは思ったが…この件で王様が退場してアシュレイが跡を継ぐことになるのか。なるほど。
と、のんびり考えている俺とは対照的に慌ててアークトゥルス魔王城に帰ろうと行動を起こすアシュレイ。
「おいアシュレイ、一人で行くなよ…っておい!」
「済まぬ!借りるぞ!」
アシュレイはケラルの乗ってきた飛竜の手綱を奪い取ったかとおもうとさっさと離陸して行ってしまった。
「おいこら!帰って来い!危ないかもしれないだろ!」
「お前はアフェリスを頼む!」
「頼むじゃねえよ!おい!」
一度だけ振り返ってそのまま行ってしまった。
アフェリスは今頃出てきてマークスに話を聞いてビックリしてる。ええいくそ!
「マークス!動ける者を至急集めろ!馬と馬車の用意もだ」
「ハッ!」
「カイト殿、私も参ります」
「ケラル殿…そうだな。マークス、ケラル殿の分の馬も用意を。マリアはケラル殿に軽食と水を!あと、人数分の弁当を用意してくれ。兵は一応武具を!軽装でいい!速さ重視だ!」
「ハッ」「ハイ!」
とりあえず準備はこんなもんか?
アカン。全然頭が回らない。
ここから王都まで馬で大急ぎでぶっ飛ばして半日。飛竜なら1時間くらいか?
でもケラルが乗ってきた飛竜はだいぶ疲れてるだろうから途中で休憩が必要になるはず。ならばそう大して時間は変わらないはず…急いでいけば追い付けるか?
「ふむ…マークス、俺と二人で先行しよう。アシュレイを止められるかもしれん」
「…そうですかな?いくら飛竜が疲れていると言っても馬では厳しいでしょう」
「まあそうだとは思うが…馬車と一緒に行くよりは良いだろう。アフェリスはロッソの隊と一緒に行動させればよい」
「むむむ」
言い方は悪いがアフェリスは所詮第二王女。いわばスペアなのだ。
それにロッソは歴戦の勇士で…まあはっきり言って俺やアシュレイよりはるかに強い。
全盛期のマークスよりは下と本人が言っているが、今のマークスとならいい勝負だろ。
盗賊なんかに不覚を取るとは思えない。
「よし、そうするか。そうと決まれば出発だ」
すっかり大きくなったディープに鞍をつけ、サクッと準備を済ませる。言うて水と干し肉くらいのものだ。ダンジョンに行く時と同じくらいの準備でいい。
非常用に2日分くらいの食料は普段から持っていっているのだ。
「よーし、どうどう。かわいいかわいい」
「坊ちゃん…」
「言うな」
危険だと言うのは分かる。
でもアシュレイを一人で行かせて、それをノンビリと追いかける。そんなことが許されるだろうか。
もしそれで何かあったときに俺は如何すれば良いのか。
歴史通りなら二人とも何ともない、何ともないはずだ。
だから急がなくても特に問題もないはず。無いはずだが…
「行くぞディープ」
「ブルル…」
まだ少し小ぶりだが引き締まった良い馬体だ。長距離は厳しいかもしれないがマイルや2000くらいならイケるんじゃないか。そんなくだらないことを考えながら二人で出発した。
危険を予感しても動かないわけにはいかない。
こうして俺たちはこの日、魔王城へとノコノコと出かけて行った。
まるで運命に導かれるかのように。
「よしよし。よくやってるぞディープ」
マークスと二人で馬を駆けさせ、休憩して引いて歩き…水を飲ませて回復魔法をかけて、そしてまた駆ける。
回復魔法は傷は治るが、体力までは回復しないはずだ。
だからこれはホンの気休めだ。
出発してから周囲を確認しながら進むが、アシュレイの飛竜は影も形もない。
あいつどれだけブッ飛ばしたんだ。
飛竜はケラル殿を乗せてきていたはず。
俺も詳しく知らなかったので道中マークスに聞いたところ、王都からここまでおおよそ直線距離で80kmくらい離れていて、そのくらい飛ぶと普通に考えて休憩が一度必要になる。
その飛竜をアシュレイはそのまま乗っていった。補給も無しで…なので何度か休憩が必要、だと思う。
そこで時間をとられるはずなのだが…
愚痴っても仕方ないから俺たちも急ぐ。
ディープには申し訳ないと思うがこんな時くらいは頑張ってもらおう。
駆ける駆ける、また駆ける。
ディープはいい馬に育った。いくら俺が軽いと言ってももう何キロ一息に走ったかわからない。
むろん全力疾走ではない。
速歩と駈歩を交互に繰り返すくらいのペースだが、もちろん人間が走るよりはるかに速い。
かなりのスピードを出しているはずなのだが、それでもまだまだ追い付けないのだ。
「もう王都に着いてるんじゃないかこれ」
「その可能性はありますが…どうなさいます?」
「どうったって、今更引き返すわけにもいかんだろうが」
もう全行程の3分の2程度は進んできている。
今から戻るわけにもいかないし、第一戻らなくてももうすぐ後続が追い付いてくるだろう。
「…進むぞ」
「ハッ」
進むしかないだろうが。
嫌な予感はヒシヒシとする。正直、ゲームと同じ展開になるのなら何の問題もない。
親父と伯父上が死ぬことはある程度想定通りなのだ。
残酷なようだが、その未来を俺はある程度受け入れていた。そこからが戦いの本番だと思っていた。
でもこんな展開なのか、本当にこれでいいのか。
この流れに乗ったままで大丈夫なのか…すでにいろいろと改変してしまっているような気がするだけに心配なところはある。しかし、ジッと待っていてもあるのは破滅だけ。八方塞がりというやつだ。
こんな時は前に進むしかない。這いつくばってでも。
「…進もう」
決意を改めて絞り出す。
「先ほど伺いましたぞ。ほっほっほ」
「うっせえ!」
話の腰を折ることに長けたクソ爺は俺の決意をサクッと受け流すのだった。
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