第28話 〇ン〇が下に落ちることで重力を


農業には忙しい時間と暇な時間がある。

いわゆる農繁期と農閑期である。


一般的に日本で農繁期と言うと米を植える時と稲刈りのシーズンだ。

米ばっかだな。


まあ俺らには関係ない。

夏野菜とイモ、少しの根菜と実験的な麦畑しかないからな。

つーか思ったけどもっと他のモノも育てりゃよかったかもな。


それで今は植え付けが終わって、草むしりと水やりしかすることがない。

まあ水やりは川や井戸で汲んだ水をバケツでえっちらおっちら畑まで運んで、植物の根元に柄杓でかけると言うかなりの苦行なわけだ。…まあ俺がやるわけじゃないからいいだろ。


特に夏野菜なんか植え付けて支柱に固定してしまえば、あとは収穫と水やりくらいしかすることがない。

雑草をむしり、水をやり、脇芽を取る、そうすると収穫するくらいしかやることがない。



やることないから、他の土地の開墾を手伝わせる。水路を整える。

水路があるとバケツで運ぶのはかなり楽になる。あんな絶望はもう必要ないのだ。


暖かくなってきたので川で魚を取るのも良い。

まだ燃やしてない森で薬草や果実を探す。

薬草や果実はそうそううまいこと落ちてない。

それに珍しい薬草なんてものは殆ど無いから珍しいのだ。



仕方ないから山で猟を増やす。

金がないと食い物がない。


少々危なくてもやらなくては仕方ないのだ。

経験者を呼んで教えてもらった。

罠猟だが、冬に教えて貰って作ったモノを更に量産してあちこち設置。

また熊が出るかもしれんから浅いところにだけだが。


いわゆるくくり罠と籠罠を習ったが、籠は鉄製じゃないからイノシシとかが入ったら破られる。

ウサギやら野鳥用だ。ウサギも危ないかもな…こっちのウサギは凶暴だから…


獲れるか不安しかないが、とりあえず設置。

たまーに入ってるみたいだが、あんまり使えるものではなかった。

補修の方が忙しいくらいだった。


日本だと箱罠は割と捕まえてるイメージあるが、獣が賢いのかもしれん。

まあ捕まえる方も子供。素人だししょうがない。


矢を放つだとか、トラバサミのような人間も怪我をする罠は危ないから仕掛けない方向で。

子供がいつケガするかわかんねーし…と思ったけど俺がいるときは治癒魔法すりゃいいんだな。

よし、使おう。


ただし人があんまり通らなさそうなところにだけ、そして設置する場合は目印をつけるようにという事は徹底させる。


くくり罠は手が使えれば離せるから安心だ。

ただそのくくり罠も日本にあるようなやたら頑丈なワイヤーはないので、あんまり長時間放置しておけば噛み切られると思う。


「若様!イノシシがかかりました!」

「お!今行く!」


中学生くらいのやつが報告に来た。

ミルゲルという名前で孤児たちの代表みたいになってる奴だ。一番年が上らしい。


罠に限らず猟に出ていいのは年長組だけと決めた。12歳以上だ。

12歳と言えば6年生から中1の年だ。

こいつらが罠を使って獣を獲る、獲った獲物の腹を引き裂き、皮を剥く。

時にシカやイノシシ、クマに襲われる危険があると思うとどうか。



日本じゃ絶対無理だな。児童なんちゃらとかがもの凄い勢いで怒ってくるだろう。

そう言えば12歳以上でも猟に行くのは男の子だけだ。これもジェンダーなんちゃらさんにめちゃくちゃ怒られそうだな…でも危ないことはこっちじゃ基本的に男の仕事なんだけど。


とりとめもないことを考えながらミルゲルに連れられて森の中へ。

まだそれほど大きくないサイズのイノシシだ。

出来ればこいつを飼いならしてイノシシ牧場を作ってみたい。豚と交配させてイノブタでもいいが…無理かなあ?


荒い息を吐きながらこちらを睨み付けてくる凶悪なる眼差し。

とてもじゃないが飼いならされた豚さんと同じようには見えない。

まだ若い個体だろうがこりゃとても飼いならすのは無理だと思わせてくれる。

やっぱりうまいことウリボウ時代から飼いならさないと牧場で飼うのは無理だな。


「…まあ無理だよな。ツリーアロー」


頭によぎった考えを投げ捨て、魔法を放つ。


「ブギイイイ!(怒」

「あー、外した」


ダンジョンなら当たるのに外だとはずすのはなぜなのか。

まあ当たるまで打つんだけど。


「ツリーアロー!ツリーアロー!アロー!」


下手な弓矢も数撃てば当たる。

何発も打って厳重に拘束してから仕留めた。おかげで毛皮に穴がいっぱいだ。

…まあいい。燃やしたわけでもない。

それに俺が着るわけじゃなし。


仕留めたイノシシは皆で解体して食料となる。

そして毛皮は貴重な冬の防寒具になるのだ。ぶっちゃけいくらあっても足りない。

去年は身を寄せ合って温めたって事だが、今年は一人1個防寒具を与えてやりたいとは思っている。


止めを刺して、血抜きをして…おい、そんな恨みがましい目で見るな。

一歩間違えれば俺らだってお前らの仲間の腹の中なんだ。

雑食なの知ってるんだぞ?



イノシシの頭部は穴を掘って埋める。

可食部位もかなりあるが、シカを獲ってもイノシシを獲っても頭は敬意を持って埋めることにしている。これが俺のルールだ。まあ鹿の角はもらうけど。


血を抜き、少し軽くなったイノシシをミルゲルたちが担いでいく。

こればっかりは俺には無理だ。まだまだ小学校低学年の体力に何を期待しているのか。


どう見ても俺より重いというか俺の3~4倍くらいの重さがありそうなイノシシじゃないか…で、そのイノシシを中学生くらいのミルゲルともう一人年長組のマルコが担いでいくのだ。

うーん、さすが中学生。パワフルだな。





今はいわゆる農閑期にあたる時期だ。


まあ野菜ばかりとは言え種類も数も多い。

早いものはもう収穫もできているし、朝の作業には収穫作業も加わっている。


現代の稲作だともっと忙しいと暇がはっきりしていて、田起こしやら水貼りやらの作業は1日で終わるし、苗は買ってくりゃいい。

よっぽど広い田んぼじゃなければ田植えは機械で1日で終わるし、刈り入れも1日で終わる。


つまり忙しいのはそのイベントの日くらいで後は普通に他の仕事が出来る。土日にガーっとやってあとは普通の仕事をすればいい。いわゆるリーマンの兼業農家がこのスタイルだ。


……まあその分米作っても殆ど儲からない。

機械のレンタル代に肥料、農薬等々を合わせたら普通に収穫した米を売っても何万円程度にしかならないと近所のおばちゃんが愚痴っていた。


猟をしたり漁をしたり。

薪を取って売ったり、草刈りや開墾をしたり…と、やろうと思ったらすることはいくらでもあるが、やる事がない日もある。


雨の日だ。

水やりすらしなくてよくなるし、外で作業して風邪でも引いたらロクな薬もないこの世界じゃそのまま死んでしまうかもしれん。最低限の収穫をしなきゃならん時もあるが、他に何もすることがない。

冷えた体を湯を沸かして温めるのも、せっかくの売り物の薪が…ってなるし。



というわけで雨の日は俺が学問を教えた。

と言っても読み書きと足し算、引き算くらいまでである。

掛け算や割り算程度は教えたいし何なら因数分解や三角関数くらいまでなら教えられる。

化学や物理は大体一緒だと思うが…魔法があるからな。どうなるかわからん。


そもそも、前提である重力からして不明なのだ。

1Gが地球と一緒なのかどうかもわからん。


どうやって測ればいいんだったかな…確か振り子か何かを使うのだったような気がするが、そもそも星がちゃんと丸いかどうかもわからん。


もしお盆を象さんが支えてるみたいな世界だったら俺の知る重力もクソもない。

いや、クソはあるか。しかもちゃんと下に落ちる。



かつてアイザック・ニュートンはリンゴが下に落ちることで重力を発見したが、カイト・リヒタールは〇ンコが下に落ちることで重力を…いやまあ、それはどうでもいいか。



…まあ最初は読み書きからだ。字も読めない書けないなのに高度な計算なんてする意味がない。

よーし、まずは簡単な読み書きからだ。


「いいか。これがトマト」

「トマ!」「トマト?」「トマポでは?」「俺もトマポだと思うけど…?」

「むっ…じゃあこれは?ピーマンだよな?」

「ピーマ!」「ピーマン?」「ピーマソでは?」


ええい!何でちょっとづつ違うんだ!

野菜の名前が微妙に違うことが判明したが、もうそれはどうでもいい。うまい物がたくさんできて、そして売ってお金持ちになればそれでいいのだ!


そんな感じで収穫までの何か月間かを過ごした。


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