第18話 たいせつなはたけしごと
「おいカイト!またアシュレイ様とアフェリス様に畑仕事をさせたらしいな!」
アシュレイに裏山開拓作業を手伝わせはじめて3日目。
毎日楽しそうに泥だらけになる俺とアシュレイを見た妹の
一応俺とアシュレイは水で手足を洗っていたし、服もできるだけ汚さないようにしていたのに、あのアホは頭に泥をかぶったまま帰ったもんだから大騒ぎだ。
ちゃうねん。
あのアホが泥団子作って頭にのせるって意味わからん遊びしてただけやねん。
俺たちは絶対怒られるからやめろって言ったのに…
そうしたら案の定帰ってきた父上の執務室に呼び出しを食らった。
メイド頭のマリアが言うには親父はプンプン怒っているようだ。
テメー、放課後体育館裏に来いよってやつだ。
そして冒頭に戻るのであった。
「…ふう。そうです。畑仕事を共にしましたが何か?」
「お前は姫君達に一体何をやらせておるのだ!」
「農業です。王族たるもの、下々の者がどのように働き、毎日の糧を得ているか。それを知らなければなりません。座して待っていれば飯が自動的に出てくる、何のありがたみもなくそれを貪り、時には投げ捨てる。そんなゴミのような王にアシュレイを育ててはなりません(キリッ」
「ぬ…何やら良い事を言っているようだが、お前はただ手伝いが欲しかっただけではないのか?」
むむ、さすが親父。いい所を突いてくるな。
俺の事を良く分かってるじゃないか…ぶっちゃけその通りだ!
俺のヒョロガリ腕では鍬もスコップもまともに地面には刺さらないからアシュレイを呼んだのだ。
だが、アフェリスは勝手に来た。断じて呼んでない。
呼んでないのに勝手に来て勝手に泥だらけになったのだ!
おかげで俺が怒られる!あのアホはホント碌なことしないな!
「…アシュレイは力強く土を耕し、楽しそうな顔をしていました。体も鍛えられるでしょうし、民の暮らしを学ぶ一助になったでしょう。それが悪いとでも?」
「悪いとは言わんが…王族たるものの威厳がだな…」
いける。
さすが親父、チョロイ!
もうひと押しだ。
「チョロ…ゴホンッ!…んん、むしろ、もっと領民とともにこのような時間を過ごすべきです。下々の者を愛してこそ慕われる王になるでしょう。力で押さえつけ、言う事を聞かせるだけの王に誰が心から心服しますか?力だけの王なぞ肝心な時に裏切られるでしょう」
「むむ…チョロ?」
「兎に角!アシュレイは民たちからの評判も大変良いです。皆とともに遊び、学ぶ。アシュレイ自身は誰がどう見ても優れた存在ですから自然と敬意を抱かれます。彼女のように優れた王族はむしろ民衆の前に出してこそだと考えます。」
「ふう。まあよかろう。…ところでアシュレイ様のことについては分かったがアフェリス様はどうか」
「アホ…ゴフンゴフン!えーっと、アフェリスはですね。えーと、その。……隠しておいた方がいい王族ですかね…?」
「…わかった。下がれ」
「はい、失礼します」
ため息をつく父の前から下がる。
どうにか乗り切った。
というか勢いで押し切った。
父上は自他ともに認める脳筋だから理論立てて押し切るとわりとOKなのだ。
まあなし崩し的にあの姉妹を農業にこき使っても大丈夫になった。
うむ。明日からもアシュレイにはモリモリ手伝わせよう。
なに、勉強なぞ後からでもどうにでもなるさ。
裏山に入ってフンスカフンスカ!と頑張り始めてから約2週間。
俺とアシュレイの努力のおかげでようやく畑のもとになりそうな土地が出来た。
10m四方ほどか?体感としては25mプールの半分くらいの大きさだから大体あってるはずだ。
専業農家の農地としては狭いが、趣味でする菜園としてみればかなり大きい。
勿論、その周囲もある程度草木は除去してある。
畑の一歩外は森じゃあ困る。まだ何にも植えてないから食害もクソもないが、作物がいい感じになったらいろんな害獣が入ってきてしまうからだ。
あいつら人間より頭いいからおいしい時期知ってるんだよなあ。クソっ!
折角実った野菜がまだ緑色の時は食わないのに、『明日くらいに収穫しようかなー♪』と思って寝てたら夜の間にボリボリやられるんだ!畜生!絶滅しろ!
うむ。害獣対策は必要だな。
畑の周囲は広めに木を除いて柵を作ったり罠も仕掛けよう。
それと肥料だ。
とりあえず刈りまくった草木のうち、薪にすらならないようなのはこの2週間で乾燥が進んだ。
これも燃やして灰にして撒こう。
日本の土壌は酸性だから灰を撒いてアルカリにうんたらかんたらというのは聞いたことがある。
じゃあここの土地がどうなのか?
さーっぱり分からん。
まあ撒かないより撒いた方が良いだろきっと。
さて、次は堆肥だ。
堆肥を作るのに必要なのは動物の糞、それに土と葉っぱ、稲藁やいわゆる野菜くずなんかも使える。
木の皮を使ったりもみ殻も、ぶっちゃけその辺に生えてる草だって発酵させりゃ堆肥になるだろう。
だが、まずは適切な手段で発酵させないといけない。
空気をある程度含まないといけないだろう。
細菌には好気性菌と嫌気性菌がある。
ざっくり言うと酸素がある空間で活発に動く好気性菌と酸素大っ嫌いな嫌気性菌だ。
微生物は有機物に含まれる糖やアミノ酸を分解する。この過程で発生する熱により堆肥は暖かく熱を持つ。温度が高まると高温下で繁殖する微生物の動きが活発になり、繊維質のセルロースなどがこの微生物によって分解されていく。
この時この繊維質の成分は一気に均等に分解されるわけではなく、まず酸素のある環境を好む好気性菌によって分解されていく。その過程で大量に酸素が消費されることで、酸素のない状態を好む嫌気性のセルロース分解菌がセルロースを分解していくのだ。
他にもたとえばリグニンの分解は、キノコなど担子菌が、堆肥の温度が低下してからはミミズなどが活発に動き分解を進めていく。
このようにして何重にも分解されたのちに質の良い堆肥が出来上がる。
良い堆肥を作るためにどうすりゃいいか、つまりは微生物が動きやすい環境を作ってあげればいいんだな。
環境を整えるために人間がすることは…いい感じでかき混ぜ、酸素を適度に含ませる事だ。長々と考えたけど結局混ぜ混ぜすればいいって事だ。
それと、堆肥に最も大切と言っていい有機成分…まあぶっちゃけるとウンコの事だが。
人の糞尿はそのまま畑に撒くと収穫した作物から食べた人へ寄生虫を感染させてしまう。寄生虫のうつし合いっこをしてしまうのだ。ウンコを介して。
控えめに言って最悪です。本当にありがとうございました。
だからそれを避けるためにもしっかりと発酵させないと…でもやっぱりいくら発酵しても人糞はちょっとアレだから鶏糞や牛糞を使いたい。
いや、頭じゃ心配ないってわかってるんだ。それにどうせほかの農場やら畑やらじゃウンコを使ってるって言うのもわかる。分かってんだけどな…だからこの世界で生野菜はあんまり食べたくない。
わかるだろ?な?
人糞は何かヤだと思って探してみたが、鶏糞や牛糞はあんまり手に入らなかった。
この辺じゃあ鶏は見ないし、牛もあんまり飼われていないのだ。
人糞はその辺にいっぱいあるんだけどな。まあな。
そこで代わりにと言っては何だが、容易に手に入ったのは馬糞だ。
馬は軍事用にいっぱい飼われている。
なんと言ってもウチは武門の家なのだ。騎馬隊くらいなくてどうする。
馬糞と馬糞付きの藁が大量に手に入ったので農場の片隅に木で囲いを作り、一応下には空洞ができるように少し浮かせ、混ぜやすいようにも考えて作ったが…やっぱり臭い。
中には馬のウンコとションベンの付いた藁、それにその辺の土と葉っぱと草と野菜の皮と雑草を焼いた灰と魚の骨と…兎に角その辺に落ちてる入れても問題なさそうなものはポイポイ放り込んだ。
米ぬかやらもみ殻を入れるといいと聞いたことがあるがこの世界で米をまだ見たことがない。
つーかしょんべんとウンコが混じった藁をかき混ぜかき混ぜしていると、やばい物が出来そうだ。まあぶっちゃけると火薬の原料になる硝石が出来ちゃいそうなわけだが…
硝石を作るなら土にションベンをぶっかけて混ぜ混ぜするとかヨモギがどうとか聞いたこともある。ぶっちゃけ今からやろうとしている事ほぼそのままなのだが、さすがにどうかなと思う。
何がどうかって、だって土にションベンぶっかけるまでは別に良いとして、そいつを俺が混ぜるんだぜ?
ありえんだろ??ウンコ混ぜてる時点で同じ?そういやそうか??
悪臭にゲロを吐きそうになりながら混ぜ終え、上に藁を大量に乗せた。
保温と
ネットでチラッと見ただけの知識だからこんなのでホントにできるかどうかわからん。
しかし、これを週に1回掻き混ぜるのか…頭痛が痛いなこれは。
鼻が曲がりそうな作業だったがさすがに堆肥づくりをアシュレイにはさせられなかった。
この臭いのを週1ペースで混ぜないといけないとは…今から戦慄しかないんだが。
つーか誰も手伝ってくれねえ。
遠目に見てる奴はいるが…あいつら俺の頭がおかしくなったと思ってるんじゃないだろうな!
おい!マークス!呼んでねえときは何時でもそばにいる癖に!今こそこっち来いよ!
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