第7話 康史郎の願い、梨里子の想い
ICレコーダーを止めた
「その絵を持った
「分かったよ」
康史郎はうなずくと補聴器とマスクを外し、立ち上がって絵を持った。スマートフォンを構えた梨里子が呼びかける。
「はい、チーズ」
スマートフォンがパシャリと鳴った。
絵とプレートを戻した後、居間に戻ってきた梨里子は壁の時計を見た。針は三時四十五分を指している。
「夫が四時に迎えに来る予定なんです。その前に、もし頼みたいことがあったら何でも言ってください」
「そうか、もうそんな時間か。それじゃ折角だから甘えさせてもらおうか」
康史郎は梨里子を仏壇の前に連れてきて引き出しを開いた。中には年賀状の入ったファイルと、アルバムが入っている。
「
「そんな、横澤さんはまだまだお元気じゃないですか」
梨里子は康史郎を励ますが、康史郎はかぶりを振った。
「自分の体のことは自分が一番分かるさ。わしに何かあったら一番近い親戚の梨里子さん家と、お墓を管理してくれる姪の
梨里子はアルバムを手に取り、最初のページを開いた。産婦人科の病室で赤子の広希を抱いた真優美と康史郎、
「分かりました、必ず渡します」
アルバムを閉じると梨里子はきっぱりと答えた。
「今日は本当にありがとう。
玄関で靴を履く梨里子に康史郎は呼びかけた。
「こちらこそ大切なノートを預けてくださり、ありがとうございます。ドラマの感想も聞きたいですし、また今度ノートを返しに伺いますね」
靴を履き終わった梨里子は康史郎に改めて一礼すると、ドアを開けた。康史郎も見送りに出る。既に路地の先には、『ファッション・カイドウ』と書かれたバンが止まっていた。
「それでは、お体に気をつけてくださいね」
「ああ、梨里子さんもな」
玄関で立つ康史郎に手を振ると、梨里子はバンに乗り込んだ。
走り去るバンを見送ると康史郎は家に入り、お土産の
(一希、柳子、征一、姉さん、わしはもう少しこっちで頑張るよ。ドラマの話もあの世に行ったらしたいからな)
「お待たせ」
バンに乗り込み、シートベルトを締めた梨里子に美津則は話しかけた。
「どうだった?」
「素晴らしい話が聞けたわ。おじいさんへの贈り物もいただいたし、横澤さんの回想録も貸してくださったから、また返しに行かないと」
「それは次回作の構想に役立ちそうだね」
梨里子の満足そうな表情を見た美津則はバンを発進させ、
「それもそうだけど、『厩橋お祭り食堂』の第二部を少し変えようかなって」
「今日の話で何か浮かんだのかい」
「おじいさんは横澤さんに素敵な絵を贈っていたの。
梨里子は康史郎の書類バッグと風呂敷包みを握りしめた。美津則がため息をつくように言う。
「そうか、おじいさんの本当の夢、叶うといいな」
「ええ。それがおじいさんにも、横澤さんにも喜んでもらえる道かなって」
バンは厩橋へさしかかっている。梨里子は美津則に呼びかけた。
「パパ、今日の夕食は何にしようかしら」
「それなら、ドラマの前祝いも兼ねてお寿司にしたんだ。
「ありがとう、みんなもきっと喜ぶわ」
厩橋を渡ったバンは自宅の
おわり
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