第177話 なんだお前か

 映像のおかげで、やはり行方不明者はこの集落に来ていたことがわかった。

 思ったとおり彼女らは難陀なんだが引き寄せたのだろう。

 こんな映像が警察に見られてしまったら、ことがますますややこしくなる。

 咄嗟の機転で隠したのは、ヨウツベのファインプレーだった。

 偽島組とのイザコザは特撮動画を撮っていたと、うまくごまかせたが、道の破壊や火の使用などやりすぎな所はしっかりと注意も受けた。

 自分たちがやったわけではないのに理不尽ではあるが、ここはぐっと我慢するしかない。


「……偽島組のほうからチクられへんかのぉ……ヒック」

「いや、それは大丈夫でしょう。先に破壊工作をしたのは向こうのほうですから迂闊なことは言えませんよ」


 確信をもって答えるヨウツベ。

 それにはモジョとアニオタもうなずいた。


「となると……あとはやはり失踪事件のほうやな……ヒック」

「僕たちにとっちゃ事件じゃないでしょ? 犯人はもうわかってるんですから。問題は……」

「どう対応するかだな」


 腕を組んで唸る元一。

 しばらくは関わるなと言ったが、村人から犠牲者が出てしまっては話は別だ。

 まだ行方がわからないだけで、殺されてしまったとは限らないが、しかし、だからこそ急がねばならない。


「……やっぱり警察の人にホントのこと言ったほうが良かったのかな?」


 不安げに指をくわえるぬか娘。


「いや、そんなことしても犠牲者が増えるだけだよ。見たろ? 難陀なんだの攻撃力。魔法も使えないこっちの警察なんて向かって行っても返り討ちにされるだけだよ。言わなくて正解だった」

「でもヨウツベさん、それじゃ私たちだけで解決しなきゃいけないんでしょ? アルテマちゃんもクロードくんも手に負えない超級悪魔相手に、いったいどうやって……」

「だから、それをこれからみんなで考えるんだよ」

「「って言ってものぅ(なぁ)……」」


 あの怨霊季里姫さえも一撃で消滅させてしまった化け物に、どう策を練ればいいのか……。みなは言葉なく天井を見上げた。

 アルテマさえ、何も思いつかない。

 こんな時こそジルの助言を貰いたいが……あいにく開門揖盗デモン・ザ・ホール難陀なんだのせいで使えない。

 そんなジルもまたこっちの援助を待っているのかと思うと、ますますあの龍が憎たらしくなってくる。

 そんなとき、


「あの……ご、ごめんください……!!」


 玄関から男の声が響いた。来客のようである。


「……おかしいな、だれだろう?」


 ヨウツベが出迎えにいくと、そこにはこの木津村の村長、木戸誠司が大きな風呂敷を背負って立っていた。





「あの……このたびは本当にありがとうございました!!」


 みなが集まる職員室。

 そこに入るなり、深々と頭を下げる誠司。

 元一は「まぁ座れ」と席を開けさせる。


「もう体は大丈夫なのか?」


 いろいろわだかまりはあるが、ともかく身だけは案じてやる。

 エツ子や政志はいい子だったが、この男は集落を売った人間だ、みなも微妙な表情で迎えた。

 額に絆創膏を貼っているが、占いさんの結界のおかげで怪我はほとんどないようだった。


「う……いやその……そんな目で見ないでください……。今回はその……本当に皆様に感謝しているんです。……母の目を治していただき、ありがとうございました。息子の政志も泣いて喜んでおりました」


 あらためて頭を下げると、背負っていた大きな風呂敷をテーブルの上で紐解いた。

 すると中からは地域一帯を代表する銘菓を始め、地鶏や魚の真空パック、酒、お土産用カステラなど、おいしそうな食べ物が山ほどあらわれた。


「とにかくすぐにお礼をしたくて、道の駅で買えるだけ買ってきました。どうかお納めください」


 ――――どたんばたん『離せよこせこれは僕のだ私のだ!!』

 言われるまでもなく、若者たちの間ではすでに争奪戦が始まっていた。

 誠司の丁寧な対応に、やれやれと気を緩めた元一は、


「なに、困ったときにはお互い様じゃ。お前とはいろいろあるが、それとこれとは混同せんよ」


 言ってコップに麦茶を注いでやる。


「ははは……それは……ありがとうございます」


 額に汗を浮かべて笑う誠司。

 もともと元一には弱いところのある誠司だったが、先日の人外魔境な戦いを見せられて、なおさら恐怖が増してしまった。


 とくにアルテマと呼ばれる角を生やした娘と、クロードと呼ばれる耳長の男。

 偽島から、あるていど話は聞いていたが……まさか本当に異世界人なのか?

 実際に、魔法や悪魔召喚を見せつけられてもいまだに信じられなかった。

 そんな目でアルテマを見つめていると、


「……わかっとると思うが、先日見たことは全て忘れるんじゃ。……いいな?」


 元一が固まった笑顔のまま、脅してきた。

 その言葉の裏に、触れてはならないものを感じ、誠司はコクコクと小刻みにうなずいた。

 そもそも暴力団系である偽島組が手も足も出ていないのだ、一介の村長でしかない自分が逆らって勝てる相手じゃないし、その気もなくなっていた。

 母の恩人であるというのは確かだし、これからとある〝お願い〟をしなければいけない立場でもある。

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