第141話 光の龍

 ごごごごごごごごごごごごごごごごごご。

 クロードの魔素が形となって集まり、龍の姿を作り出した。


「ア、アルテマよ……これはいったい何なんじゃ」


 煌々と光る龍。

 それが放つ異様な気配。

 気圧されながらも元一が聞いてくる。

 アルテマは冷や汗を流しながら、


「こ……こいつは上級悪魔……? いや、この気配はもっと……上の存在……」


 抜いた竹刀に魔呪浸刀レリクスの加護をかけた。

 クロードは、


「な、な、なんだこいつは……なぜこんなものが俺の背中から……はっ!? ま、まさか……知らぬうちに俺は召喚魔法の才に目覚めていたというのか!?」


 一人勘違いして、まいったなと髪を掻き上げている。

 そんなバカを無視してアルテマが龍に語りかけた。


「お前は……祠にすくう神体か……?」


 石に彫られた姿とそっくりなその龍は、上級悪魔と同等かそれ以上。

 ならば知能も人間をしのぐはず。

 アルテマの予想通り、龍は言葉に反応し首を向けてきた。


『私は難陀なんだ……人の姿を捨てしもの。永久に待つもの。喰らい続けるもの。……我の贄はこやつではない……』


 龍はそう言うと光る腕でクロードを鷲掴むと、


「お? な、なんだ!? な、なにをするこのドラゴンめが!?」


 もがくクロードを軽々と持ち上げる。

 そして憎々しげに睨みつけると、


「ん? な、なんだ……やるか貴様!?」


 ――――ごっ!! メキャッ!!!!


まるでゴミでも放るかのように茂みへと投げつけた。 


「ぎゃふっ!??」


 大木に叩きつけられたクロードは、潰れたカエルのような声を出して地面に落ちるが、そこにさらに、


『目障りだ、消えよ』


 龍の口が大きく開かれと、喉の奥から強力な魔力があふれ出し、


 ごーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!


 炎のように吐き出された!!


「ぐわあぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁあぁっぁっ!???」


 周囲の木々ごと地面がめくれ、浮き上がる。

 クロードはその謎のエネルギー波に直撃され、どこかへ吹き飛ばされてしまった。


「な、な、な、な、な!???」

「なんちゅうことを!? こ、こいつ」


 アルテマと元一はその攻撃の跡を見て顔面蒼白になる。

 土は、城の堀がごとく深くえぐられ、木はもちろん大きな岩まで粉々に粉砕されていた。

 そんな一撃をくらって飛んでいったクロードの安否は気になるが、しかしいまはそれよりも、


「どいいうつもりだ貴様、なぜ我々を攻撃する!?」


 すばやく距離を開けながらアルテマが龍に怒鳴った。

 しかし龍はそれには答えず、


『ヌシは……違ったな……』


 アルテマを見てそう言うと、再び口を開けてエネルギーを充填し始める。


「ちょ、ちょ、ちょっと待てっ!?」

「だめじゃアルテマ!! 逃げるぞ!!」


 話し合いが通じないと理解した元一が、早い判断でアルテマを抱えて逃げ出した。

 その直後――――、


 ごーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!


 またもや強烈な破壊波が辺りの木々を薙ぎ払った。

 間一髪それをかわした元一は、転がり落ちるように山道を下っていく。

 砕かれた岩や樹木の破片が降りかかり、泥だらけになりながら。


「無事か、アルテマよ!!」

「ああ、しかしなんだ!? 一体いきなりどういうことなんだ!? なぜあんな龍がこの山にいる!??」

「わからん!! ともかく占いさんに聞いてみよう!! なにか知っているかもしれん!!」


 元一の腕から離れたアルテマは、振り向きざまに全力の黒炎竜刃アモンをお見舞いする。

 祠の場所を狙って撃った黒炎は一瞬だけその周囲を炎で包むが、すぐに何かに吸い込まれるように消えていった。





「祠の龍じゃと?」

「ああ、とんでもない魔力を秘めた凶悪なやつだ。クロードのやつが神体を動かしたら出てきた。占いさん、以前あの祠は龍脈につながる龍穴だと言っていたな。ならば、あの龍についてもなにか知らないか?」


 なんとか逃げ帰ってきたアルテマと元一は、その足で占いさんの家を訪ねていた。

 ちょうど寄っていた六段にも事情を話し、彼には若者たちを率いてクロードの捜索に向かってもらった。

 一瞬、死んだんじゃないかと思ったが、飛ばされながら何か叫んでいたのできっと生きているだろう。

 やつの頑丈さだけは、アルテマは認めている。


「そいつは何か言っていたか?」

難陀なんだと名乗っていた。それから待つだの食らうだの……あとクロードと私に向かって違うとも言っていたな。そして攻撃してきた」

難陀なんだ……か」

「とにかくとてつもない魔素を感じた。あれは上級悪魔とかいうレベルじゃなく、もっと上の存在だ。……とても勝てそうな相手じゃなかった」


 なにか思い当たるところがあるのか、考え込む占いさん。

 元一の携帯に着信が入った。


「ああ……わかった」


 二、三話して電話を切ると元一は、


「クロードが見つかったそうじゃ。隣の集落の田んぼに突き刺さっていたらしい。一応、診療所に送るが元気らしい……しぶといやつだな」


 冷ややかな声で伝えてきた。

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