第120話 お土産にほしいな……。

「うぅぅ……恥ずかしいよう、恥ずかしいよう……」


 丸まり、できるだけ肌色を見せないように縮こまるぬか娘。

 見かねて占いさんが法衣をかけてやろうとするが、妙な反発力が働き、なぜか着せることができない。


「むむ? なんじゃ……これは??」

「ああ……それは無駄だ……わたしもさっき試した……」


 モジョがそう言ってジルに説明を求める。


『……その盾は神の威光に逆らう呪われしアイテム。なので一度装備したら最後、最高位の解呪魔法でもないかぎり外すことはできません。さらにその上から何かを羽織ることもできません』

「……百歩譲って外せんのはわかるが……羽織れんの意味がわからんのぅ……?」

『……恐らくですケド永らく封印されていた怨念で、なにかに包まれるのを嫌っているではと……知りませんケド』

「ジルさんさっきからそればっかりじゃない!! なんなのよ、急に頼りなくならないで~~~~!!」


 無責任発言を連発するジルに、涙目になるぬか娘。

 そんな彼女にあきれ顔の元一が聞いてくる。


「……そんな危険なもの、なんでお前は着てしまったんじゃ……?」

「う……だ、だって……ビキニアーマーってほら……可憐というか、愛らしいというか……めんこいというか……」

「つまり、可愛いものに見境なく飛びついてしまい考えもなしに着込んでしまったというわけだ」


 口ごもってしまったぬか娘の代わりにアルテマが先を続けて説明した。


「……ようは自業自得というわけだな。馬鹿が、だからあれほど普段から節操を身に着けろといっておったんだ」


 六段もあきれ顔でため息をつく。


『か、彼女を責めないであげてください。私もその……もっと早く呪いのことを説明していれば……』

「いや、こいつは自分の趣味にハマったものは物・人問わず人の忠告を無視してかっさらってくる悪癖持ちだからの、ジルさんの忠告などあってもどうせ聞かんかっただろうよ」

「うぅぅぅ……どうするの私……これから一生この姿なの? こんな女勇者みたいな格好しながら生活して買い物して働いてお嫁にいかなきゃいけないの、そんなのムリ~~~~~~~~っ!!」


「いや、お前はそうでなくとも無理だろうがよ……」

「ぐさーーーーっ!!」


 辛辣な言葉でとどめを刺してくる六段。

 昭和のリアクションでエビ反るぬか娘。

 だがそれに異を唱える者は誰もいなかった。


「まあ、呪いの解除は後で考えるとして……これでとりあえずあのラグエルとか言う魔法の対策はできました。ゲンさんの方はどうだったんです? クロードたち来てました?」


 黒髪メガネの恥じらうおさげ女勇者――うん、これは絵になるぞとカメラを回しつつ、ヨウツベは元一たちの成果を尋ねてきた。


「ああ……おう、そうじゃの。いなかったが仕掛けは置いてきた。……そろそろなんじゃないか?」


 年代物の腕時計を確認しながら答える。

 と、ちょうどタイミングよく遠くから――――、


《ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ゴホゴホッ!! な、なんだこれは!?? おのれ謀ったなアルテマ~~~~~~~~!! ごっほんごっほんっ!!》


 と、大勢の男達の叫び声が響いてきた。

 声は川の向うのプレハブから聞こえてきていて、皆がそっちを見ると、その空にモクモクと立ち昇る白い煙が。


『おや、なんですか? なにか火事のような大きな煙が上がっておりますが……大丈夫なのですか?』


 それを見て開門揖盗デモン・ザ・ホールの向こうから心配そうに尋ねてくるジル。


「ああいや……あれはあの馬鹿どもに仕掛けた罠じゃよ。火事なんかじゃないから心配は無用じゃ」

『まあそうなんですか。そう言われれば元一様の職業クラス狩人レンジャーなのですよね? 狩人と言えば、森や山での戦いにトラップも使いこなす万能職ですよね、頼もしいですわ』

「い……いやいや、そんな大層な代物ではないがな、わはははは」


 謙遜しながら、まんざらでもなさそうに笑う元一。

 その鼻の下は少しだけ伸びていた。


 ――――婬眼フェアリーズ

 アルテマはこちらの世界の罠とはどういうものか、あの煙はなんなのか気になり調べてみる――――と、


『バルザン。異世界の噴煙式虫退治薬。吹き出した煙が部屋の隅々まで浸透し嫌~~な虫をやっつける。嫌いな人も中に入れてGO☆ 嫌がらせ効果◎』


「……ふむ。まあ……虫けら扱いがやつにはお似合いといえばお似合いか……」


 そういえば帝国の住まいも虫がひどかった。

 退治しても退治しても隙間に逃げ込み、卵を産んだ。

 何度脱いだ靴の中に侵入されて驚いたことか。

 もしまた帝国に帰れることがあるならば、ぜひこれもお土産に持って帰ろう。


「カカシを改造した人形にたっぷり仕込んでおいたわ。触れた瞬間、大熊用の箱罠も落ちてくるようにしといてやったから、しばらくはもがき苦しむじゃろうよ」

「それは良いですね。ではさっそくそのようすを撮りに行きましょう。これはいい絵になりますよ。むふふふふ♪」


 ほくほく顔でヨウツベが校舎裏へと小走りに去っていく。


「では師匠、私も戦果を確認してまいります」

『はい。気をつけて行くのですよアルテマ。元一様そして蹄沢の皆様方……聖騎士クロードはやや抜けたところはありますが、それでも栄えある聖王国の選ばれし聖騎士。くれぐれも油断なさらぬよう、とくに打たれ強さだけは一流です。お気をつけください。では私はこのへんで……』


 言って深くお辞儀をすると開門揖盗デモン・ザ・ホールは静かに閉じられた。

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