第117話 お宝とは?

「……さて、とは言うものの。開門揖盗デモン・ザ・ホールを通す以上、タダでとはいかない。逆神ぎゃくしんの鏡が貴重な品であればあるほど、こちらが出す対価も高くなる。みんな、それぞれ持ってきた物を並べようじゃないか」


 ヨウツベの指示のもと、校庭に敷いたレジャーシートの上にそれぞれの宝物を並べる若者たち。

 ジルが注目する中、披露されたのは――――、


 まず一番バッター、アニオタ。

 宝物 美少女アダルトフィギィア 1/6スケール。価格22000円。


「こ、こ、こ、これは成人向けフィギュアブランド「デザインロロ」の新作『美人双子転校生シャリン&シーリン』――――」

「却下だっ!!」


 むし、ぽーーーーーーーーいっ!!

 出すやいなやアルテマに放り投げられてしまう。


「あああっ!! ぼ、ぼ、僕のシャリンが!! シーリンが!!」

『え……と……いまのは何だったのですかアルテマ……。? その……なんだかとっても卑猥な格好をしたお人形のような物に見えましたが……』


 意味がわからずオロオロとうろたえるジル。

 当然だが異世界にはアニメ、フィギィアの文化なんてものはない。

 アルテマも実物を見せられたのは今が始めてだったのだが、予想をはるかに超える不埒ふらちっぷりで、内心かなり驚いた。


「こ、これは……その、こちらの世界の……呪術人形でございます師匠。あまり見ると呪われてしまいますので……忘れてください」


 話を誤魔化すアルテマの後ろでは、ぬか娘とモジョが号泣するアニオタをスマキにして縛り上げていた。


 二番バッター、モジョ。

 宝物 SG-1000。価格15000円


「これは我が国のTVゲーム史に燦然さんぜんたる英名を残す伝説の名機で、当時としては最新鋭とされるZ80CPUを搭載し、画面解像度 256 × 192ドット、同時表示色数 : 15色 + 1色、横8ドット中2色まで、スプライト : 8 × 8ドットもしくは 16 × 16ドット、32枚、横方向の同時表示可能数は4枚――――」

「言ってる意味がわからない。却下だ!!」


 むし、ぽーーーーーーーーいっ!!


「ぐぁぁぁぁぁ……なにをする~~罰当たりもの~~~~!!」


 ゲームは確かに面白いし魅力的だが、異世界には電気がない。モニターもない。

 いちおう欲魔の秤目ヘルスの魔法で釣り合いを確認したが、天秤の針はピクリとも動いていなかった。

 つまりこれはジルにとって無価値な物とみなされたのだ。


『も……申し訳ありません……。私も極力贅沢は言いたくないのですが……いまのはさすがに理解できませんでした。……なんの道具だったのでしょう??』

「おっほん……次行きましょう師匠」


 詳しく説明して、自分だけこっちの世界で遊んでいることがバレたら後々なにを言われるか……とにかく話を次に進める。


 三番バッター、ぬか娘。

 宝物 カー○ル・サンダース人形(等身大)価格 不明


「これはね太古の昔、大阪の球団が優勝した時にドブ川に放り投げられた、野球とはなんの関係もない肉屋のおじさん人形でね。当時うれしさで暴走したファンが付近のお店から盗んで胴上げされた10体の内の一体なんだよ。私の親戚のおじさんの仕事仲間の知り合いが――――」

「どうでもいいし、汚いし、なんか怖い。却下だ!!」


 むし、ぽーーーーーーーーいっ!!


「ああぁっ!! 私のカ○ネル~~~~!!」


『あの……いまの大きな人形は……さきほどの叡智なモノとはまた違う……不気味な怖さがありましたが……』

「あれは……この国の呪われし川の奥底で怨念を蓄積された死の等身大人形です。アレの前で鶏肉を食べるとピエロの死神が枕元に立ち呪い殺されると、こちらの文献に記してありました」


 アルテマが呼んだ文献とは、なんZヅィーと言われるネット掲示板である。


『まあ恐ろしい……でも、魔法具としては価値があるのかも……』


 少しだけ興味を示すジルだが、当然この人形にそんな力はない。

 ジルは騙せても開門揖盗デモン・ザ・ホールは騙せない。

 当然、針はピクリとも動かなかった。


 残るは……四番、ヨウツベだけである。

 ここは頼むぞポイントゲッター。

 みんなの熱い視線の中、彼が出したお宝はこちら。


「たらたたったた~~~~メグ○ンTシャツ~~~~」(価格4200円)


 国民的リズムで自信満々取り出したのは、なにやらファンキーな模様がプリントされた黒地のTシャツ。

 針はまったくピクリともうんともすんとも動かなかった。


「これは僕が敬愛する伝説の元祖お笑い動画配信者が作ったオリジナルグッズで、日本のバラエティー動画はこの人が初めに――――って、投げるな投げるな!! まだ説明してるのに~~~~」

「こんな怪しげで陳腐なモノが師匠の興味に触れるわけがないだろう!!」

 

 すかさず丸めて振りかぶるアルテマ。

 それを羽交い締めにして必死に止めようとするヨウツベ。

 やはりというか当然というか、こいつもろくな物を持っていなかった。


『あ……でもその模様デザインは良いですね。怖さと可愛さが共存しているといいますか……異世界にはない価値観です』


 しかしまさかの芸術点が入る。


「ほらほら~~やっぱりわかる人にはわかるんだよ~~」

「そ、それでも!! ただの服と希少な魔法具では釣り合いなど取れるわけがないだろう!! な、なにか他にないのか!? 針はまだ全然動いとらんぞ!!」

「う~~~~ん……とは言ってもねぇアルテマちゃん……貧乏な私たちが出せるものなんて、ほんとにこれぐらいなんだよね……。六段さんたちお年寄り組なら……」

「いやそれも以前、魔素吸収であらかた掘り出したから……そんな高級品なんて特になかったと思うなぁ……」


 難しい顔をして頭をひねるヨウツベ。

 集落の外に出られればいくらでも持ってこられるのだが、クロードの妨害のせいでそうもいかない。

 この集落内で、他に手に入れられる高級品なんて……はて、そんなものあっただろうか?


「「う~~~~~~~~む……」」


 若者たちはそろって頭を抱えた。

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