第115話 クロード(バカ)への対策

拝啓 蹄沢集落の皆様方へ


盛夏の候 益々ご清祥のこととお慶び申し上げます

さて 先日は心のこもったご挨拶とお出迎えをいただき誠にありがとう御座いました

さっそくですがお返しとして物資の略奪と運搬機の破壊をご提案させて頂きました

そちら様が帝国への援助を続ける限り こちらも妨害・破壊工作および集落の封鎖を続けさせて頂こうと思っておりますので止めてほしかったらパネル設置工事の邪魔をしないで大人しくしていなさい

あとアルテマの首も頂戴したいので明日の正午 川岸のプレハブ小屋に一人でやってきてください 

もちろん武器の持ち込みと魔法の使用は禁止させて頂きますバーカバーカ



                      謎の集団『暁の愚連隊』総長より 



「……え~~~~っと……とりあえずバカはどっちなのかな……??」


 ツッコミどころ満載、妙な文体の矢文を読んであきれ顔で汗をぬぐうぬか娘。


「……ホントにこれで正体隠しているつもりなのか? なにが謎の集団だ、昨日のこと話題にしている時点でクロードじゃないかこれ」


 同じ顔でモジョもあきれる。


「……なんかすまんな……こういうやつとしか言えん。すまんな」


 なぜかみんなに謝りだすアルテマ。

 クロードは敵だが、同じ異世界人でもある。

 こいつのせいで自分たちのレベルまで低いと誤解されても困るので、そこはきっちりと線を引いておきたかったのだ。


「しかし……なんだこれは……集落の閉鎖やと……ヒック。やつらそれでボートまで壊したんかい……ヒック」

「いよいよ僕らを孤立させて干上がらせるんですかね? そうやって帝国への援助停止と工事の施工許可を同時に認めさすつもりでしょう。……浅はかなやつですね」


 いい素材だと、矢文をカメラに収めながらヨウツベがニヤける。


「……おまけにアルテマの首がほしいじゃと? あやつめ、あれだけ痛めつけてやったのに全然懲りとらんようじゃの。よし、今度こそこいつで蜂の巣にしてやるぞ」


 猟銃を担ぎ出し、目を座らせる元一。

 悪魔相手に効果は薄いが、クロードは人間。ならば弓より断然こっちがいいと本気の殺気をみなぎらせる。


「いやいや落ち着けよゲンさん、殺人犯になるだろうが。ここはワシの鉄拳制裁にまかせとけ、うまい具合に半殺しにしておいてやるから」

「六段さんも充分物騒じゃないですか。ある程度の暴力は編集で誤魔化しますが、できれば魔法で戦ってほしいですね。そのほうが加工しやいですから」

「どちらにせよ、こんなバカな要求のむ必要はないぞアルテマ。よいな!?」


 元一の言葉にうなずく一同、そしてアルテマ。


「ああ、ありがとう元一。……しかし物資の運搬はどうする? このままだと帝国民の多くは年を越せなくなってしまう……」

「ボートも壊されてしまっては、お祓いの患者もしばらくは来れなくなるのぅ。と、なれば……魔素の補充もしにくくなるぞ?」


 せっかく繁盛しかかってた商売も上がったりだと不機嫌に鼻を鳴らす占いさん。

 持っている退魔の杖から、怒りの感情が魔力に変換され小さな火花が散っている。


「クロードの魔法……ラグエルだっけ? あれに対抗する手段はないのかな? アルテマちゃん」

「……うむ、それなんだが。やはりエルフ族が使う精神魔法については師匠が詳しい。もしかしたらなにか良い助言をいただけるかも知れないので、一度聞いてみようと思うんだが……」

「ふむ……ならばそうしてみるがいいじゃろう。ワシらはワシらで、あのバカどもへの対抗策を練ることにしよう。のう六段よ」

「おう、ゲンさん。……しかし嬉しいな、こんな大っぴらに喧嘩の相談ができるなんざ何十年ぶりか。かっかかかか」

「ワシも出身は大阪やさかいに……ヒック。勉強以上に喧嘩もやったでぇ、もっとも負けっぱなしやったけどな。うっひゃひゃひゃ」

「どのみち酔っぱらいには期待しとらん。青二才どもはわたしらに任せとくがいいさ……」

「おいおい占いさんもやるきやなぁ? 大丈夫なんかその歳で??」

「おヌシも食らってみるか? 破邪退人はじゃたいじん

「い……いやいや、遠慮させてもらうで~~……」





 そんなこんなで夜。

 ジルとの定時連絡の時間。アルテマの部屋にて。


「……ということなのです師匠。なにかあのバカの魔法に対抗できる良い策はないでしょうか?」

『そうですね……ラグエルの魔法、たしかにあれは厄介な代物です』


 話を聞いたジルは難しい声色で返してきた。

 魔素をケチって簡易モードで通話しているのでいまはその表情を見ることはできない。


 ラグエルの魔法への対抗策。

 そんなものがあったらとっくに異世界での戦争で使っている。

 聞いてはみたものの、良い返事が返ってこないだろうことも予測していた。


 しかしジルは意外にも、


『では逆神ぎゃくしんの鏡を授けましょう』


 とあっさり、とあるアイテムを提示してきた。


「逆神の鏡? な、なんですかそれは??」

『我がエルフ族に伝わる。呪いの鏡です。この鏡は神の威光をも退ける魔のアイテムとして長らく封印されていたものです。これならばきっとラグエルの魔法も跳ね返してくれるでしょう』

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