第113話 クロードの謎

『まあ……まさかそんなことが……!?』


 定時連絡でクロードのことを知らされたジルは、目をまんまるに開いて驚いていた。

 その映像を見上げながらお風呂上がりでパジャマ姿のアルテマは話を続ける。


「はい。それで奴は私を狙い、集落に襲撃をかけてまいりました。偽島組とも結託して何かを企んでいるようです」

『……こちらでも聖騎士クロードの行方不明は噂になっています。……そうですか彼はそちらの世界に渡っていましたか。しかしいったいどうやって……』

「私を追って谷に飛び込んだと言っていましたから、あの吊り橋からかと……」

『わかりました。それで物資のほうはどうなっていますか?』

「襲撃で一部を失ってしまいましたが、とりあえず初回転送分は用意することが出来ました。明日の朝、あらためて開門揖盗デモン・ザ・ホールを繋ぎ、そちらに送ろうかと思っております」

『そうですね。こちらももう夜ですから。わかりました。では、明日の朝……私は穀物倉庫であなたの連絡を待つことにします。皆様方に感謝をお伝えしておいてくださいね』

「はい。それから……」


 アルテマはその先をどう聞いていいものか、迷うように目を泳がせた。


『どうしましたか?』

「いえ……その、クロードの件なんですが。奴が失踪したとの噂はいつ頃から流れていましたか……?」

『そうですね。密偵からの報告ですと、二週間前あたりから広がったようです』


 分厚い報告書の束をペラペラめくり、確認しつつジルは答えた。


「二週間……。やはり……異世界への転移は時間軸に大きな歪みを生じさせるようですね……」

『どういうことです?』

「私のときもそうでしたが、そちらの世界で消えた時間と、こちらの世界に現れた時間にはかなりのズレがあるようです」

『そうでしたね。アルテマの場合は半年ほど差があったようですが……聖騎士クロードにも同じような現象があったというのですか?』

「はい……それがどうも……奴がこの世界に現れたのはいまから15年ほど前だと言っているのです」

『……………………』


 聞いてジルは理解不能といった感じで斜めに視線をずらす。

 アルテマも自分で言っておいて頭がこんがらがってきた。


「い、いや、その……あのクロードが言っていることですから話半分に聞いておいた方がいいと思いますけど……しかし私も同じような経験をしております。あながち嘘ではないかなと……。で、あればそちらの世界へ帰るヒントもその現象に隠されているかもしれないなと師匠に伺いを立ててみたのであります」


『…………う~~~~~~ん……そ、そ、そうですね。確かにそれは貴重な情報かもしれませんね。そもそも世界を渡ること自体すでにおかしな話なのですから、あなたが幼児化したことも含め、何が起こっても不思議ではありません。……………わかりました、私の方でも深く調べてみることにしましょう』


「はい、よろしくお願いします師匠」

『はい。ではまた明日、おやすみなさいアルテマ』





 そして翌日。


「いやぁ~~ジルさん喜んでくれて良かったね!!」


 軽トラの助手席でぬか娘が嬉しそうに笑った。

 荷台には輸送用の種芋を満載している。

 昨日苦労して運んだ物資は今日朝一でアルテマが異世界に送り、受け取ったジルはその種たちの品質の素晴らしさに感動し、感謝してくれた。


 じゃがいも、さつまいも、蕎麦、アワ、ヒエ、それぞれの栽培方法と収穫時期などは農家である元一や六段が詳しく説明した。

 痩せた土地でも育ってくれる丈夫さや豊富な栄養価に、ジルは驚き半信半疑ですらあった。

 しかしそれは元一たちを信用していないわけではなく、単に驚きが過ぎただけで話を聞き終わるころには救われた感激でまたもや泣きじゃくっていた。


『ありがとうございます……。これが上手に育てば……わが帝国の食料事情は劇的に改善されます。……飢えに苦しみ亡くなる者も減りましょう。衰弱し、病に倒れる者も減りましょう。皇帝陛下に代わりあなたがたにこの上ない感謝を……あ、いえゴニョゴニョ』


「な~~んてジルさん、ゲンさんからいちいち堅苦しい感謝など必要ないなんて言われてるから慌てて口ごもって真っ赤になってたね、かわいい~~」

「か、か、かわいいと言えばルナ殿が出てこなかったのがせぬでござるよ!!」


 ハンドルを握るアニオタが涙を流しながらフロントガラスに唾を飛ばす。

 今日もヨウツベは動画編集で忙しく、モジョは昨日の肉体労働がたたって動けないでいる。なので今日はぬか娘とアニオタが運送係として頑張っている。


「ルナさんは兵隊の仕事で残党狩りに行ってるんだってね。大変そうだなぁ~~」

『ざ、ざ、残党狩りなどと……そんな物騒な仕事は汗臭い男どもに任せておけばいいのでござる!! ぼ、ぼ、ぼ、僕のルナたんにもしものことがあったら、僕は……僕は生きてはいけないでござるよ~~~~!! でも勇ましく斧を振るうルナたんもまた魅力!! いや、それが良いのでござるぅぅぅぅぅぅ……』

「……けっきょくどっちなんだい」


 アホらしいのぉ~~。

 あきれつつ、流れるのどかな田園風景をなんとなく眺めるぬか娘。

 するとその視線の先になんだか見覚えのある光が見えた。

 

 はてアレはなんだろう? 


 と考えているうちに、その光はどんどんどんどん大きくなり『ああ、あれはクロードが使っていたラグエルとかいう魔法の光だ』と気づいたときにはすでに遅かった。

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