第101話 川沿いの攻防③
「ほお、一般人を盾にして窮を脱するとは、あいかわらず卑怯な女よアルテマ!! しかし俺の魔力はまだ充分残っている!!」
不敵に笑うとクロードは、さらに両手に一つずつラグエルの光を灯す。
「待て、聖騎士クロード。ここは帝国でもなければ聖王国でもない。ラゼルハイジャンの地よりはるか次元を超えた異世界だ!! こんなところでまで我々が争う理由は何もない、まずは落ち着きその手をおろせ!!」
ぎゃあぎゃあ騒ぎまくって草むらに飛び込むぬか娘を横目に、アルテマはクロードに訴えかける。
ヤツはたしかに敵だが、この世界では同郷の仲間と言えなくもない。この世界に出現した経緯など聞きたいことも山ほどある。まずは話をしたい。
だがクロードは興奮冷めやらぬようすで、
「ふん、よく言う。奈落に落ちてなお影で帝国に支援し、我が聖王国を苦しめていた貴様の所業はお見通しよ!! あれから15年……もはや両国の争いがどうなったのか、俺には知る由もないがアルテマ!! 貴様だけはケジメとして倒しておかねば気が収まらん!!」
ドシュ、ドシュッ!!
そして放たれる二発のラグエル!!
「ちっ!! みんな避けろ、植物を盾にしろ!!」
言ってアルテマは樹木の影に飛び込んだ。
元一も同じ場所に隠れ、六段やヨウツベ、アニオタも適当な木の陰へ、モジョは静かに川の中へと潜る。
――――ゴッ!!
放たれたラグネルの一発はアルテマが隠れた樹木に当たり消滅するが、もう一発は横をかすめて校舎へと飛んでいき、壁を貫通する。
「また!? ちょ、ちょっと!! 人の家を壊さないでください!!」
頭を抱え悲痛に叫ぶヨウツベだが、
「おのれアルテマ!! ちょこまかとっ!!」
――――ゴッゴッゴッゴッゴッ!!!!
ラグネルはまだまだ唱えられ、連発で放たれる。
それらは狙いも雑に、がむしゃらに向かってきた!!
「どうしたどうした暗黒騎士アルテマよ!! このままではお前の住む集落が穴だらけになってしまうぞ? そうなる前に観念して我が術に倒れた方がいいのではないか、うわははははははははははっ!!!!」
ばしゅどしゅ、がしゃんごしゃん!!
ラグエルは次々と校舎に命中し壁に穴を開けていく。
建物の中からは何かが破裂する音や、水の吹き出す音が聞こえてくる。
大惨事になっていそうだった。
「あああ、ぼ、僕のPCが!! カメラが!!」
「ぼ、ぼ、ぼ、ば、僕のDVDとフィギアも心配でござる!!」
「…………わたしの……ゲームにギズを付けたら殺す」
「ぎゃあぎゃあぎゃあ~~~~~~~~~~っ!! 私の首振りケロちゃんが、バブルスターが~~~~っ!!」
それぞれの宝物を心配してパニックになる若い衆。
と、プレハブの中からその光景をニヤニヤしながら眺めている男が一人。
ビシッと決めた七三分けに黒縁メガネ。
夏場にもかかわらず上着を着込んだスーツ姿。
目を凝らすまでもない、偽島組営業課長、偽島誠であった。
「おい、やっぱりあの眼鏡がかかわっているみたいじゃぞ!?」
「……あのションベンたれか」
元一とアルテマは木の影から顔だけを出してそのムカつく顔を確認した。
あからさまにイヤらしい笑いを上げているあの表情からして、この一件にかかわっているのは明白だが、
「いますぐとっ捕まえに行きたいところじゃが……ともかく、あの長耳を止めんことにはな。アルテマよどうにかできんか? このままでは若い連中の
「わかっている元一。しかし、あの魔法の前にはいかなる鎧も剣も通用しない。当てられたら最後、全てを剥ぎ取られ裸一貫の戦いを強いられる。さすがの私も丸腰では分が悪い」
「そうじゃな。そもそもあんな馬鹿どもにお前の肌を見せてやるつもりはない。わかった、ここはワシらに任せておけ」
大事な嫁入り前の娘を守る父親のごとく、元一はアルテマを影にかくまった。
そこに別の木の陰から六段が話しかけてくる。
「丸腰の戦いならワシが専門だか? 行ってやろうか?」
「おお、頼めるか? どうやらあの魔法自体に殺傷力は無いそうじゃからな。丸出しを恐れぬなら、恐れることはないぞ」
「まかせとけい」
いいぞ、やったれいと元一が号令を飛ばす。
見たいならいくらでも見せてやろうと飛び出す六段。
だがアルテマは慌ててその背に声を張り上げた。
「ま、まて六段!! やつの魔法はそれだけじゃない!!」
警告を伝えようとするが六段は勢いのまま突進してしまう。
桟橋(仮)を飛び越え傾いた橋へ乗り移った。
そこに、
――ゴッ――――ばしゅんっ!!
狙い撃たれたラグエルが直撃する。
六段の衣服は光に溶けるように消えて無くなった。
「だが、むおぉぉぉぉ!! 効かんわそんなもん!!」
真っ裸になってしまった六段。
しかし全く気にせず突撃の足を緩めない。
その年齢不相応に引き締まったプリケツを見てぬか娘は胸をときめかす。
迎え撃つクロードは、
「ふん……愚かな現地民よ、我が剣を抜くまでもないわ」
焦ることなく落ち着いて目を細めると、静かに、
「聖なる
と、新たな魔法を唱えた。
瞬間。
ぐにゃり。
「――――っ!??」
周囲の空気が歪んだかと思うと、
ごがががががががががぁああぁぁぁぁぁあああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあああぁぁぁぁぁぁっ!!!!
突如、巨大な竜巻が発生した!!
竜巻は六段を巻き込むと天高く舞い上げる!!
「ろ、ろくだーーーーーーーーーーんっ!!」
「な、なんだこの風は!? ぐ、ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
舞い上げられるだけにとどまらず、その風の刃で体中を切り刻まれた六段は、やがて宙に投げ出され、そのまま川へと落とされた。
ざっぱぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!
「い、いかんっ!!」
血まみれになり気を失って流される六段。
元一は彼を助けに川へと飛び込んだ。
「ふん。……ただ闇雲に突っ込んでくる阿呆など、戦場でいくら相手にしたと思っているのだ。そんな愚策、この俺に通用するとでも思ったか」
言うとクロードは余裕の笑みを見せつけた。
周囲の水を血に染めつつも救助される六段。
それを見て、アルテマは、
「クロードよ……貴様はいま……越えてはならん一線を越えたぞ……」
怒りに満ちた表情で、木の影より歩み出た。
それの顔を見たクロードは嬉しそうに髪をかきあげる。
「ふっふふふ……ようやくやる気になったなアルテマ。……いいぞ、それでいい。それでこそ我が15年の苦が癒やされる。さあ!! 今度こそ、この奈落の果てで決しようではないか雌雄を。そしてお前を倒し、俺は聖王国へと凱旋するのだ!!」
言い放ち、自信に満ちた目で指を突きつけてきた。
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