第80話 アニオタの乱⑫
「リアル猫耳(尻尾付き)美少女キターーーーーーーーーーーー!!」
歓喜と興奮の波動を放ち、アニオタの心は一気に天へと舞い上がる。
その勢いは
『ぐえっ!? な、な、なんじゃ!? いきなり此奴、心の隙を閉じよったぞ!??』
はじき出され、体を擦って痛い痛いと涙を滲ます
突然の事態に、何が何やら混乱している。
「ふ、当然だ」
狙い通りだ、と、アルテマは勝ち誇ったように
「悪魔が人に取り憑くとき、そこには必ず心のほころびがある。どんなに力が強くとも、そのほころびがなければ憑くことは出来ん。ゆえに悪魔はまず人に不運を与え、心を弱らせ隙きを作る。ならば――――」
アルテマは世界の向こうにかしこまっている猫耳(尻尾付き)美少女『ルナ』見る。
『あ、はい!! アルテマ様、お久しゅうございます!! ジル様の命により本作戦の主役を務めさせていただきますルナ・アーガレット小隊長であります!! あ……だにゃん!!』
「うむ、ご苦労だったな。……お前とは面識があったか?」
『はい!! 去年、ドクタの砦防衛作戦にてアルテマ様の中隊下にて指揮を賜りました……だにゃん!!』
「そうか、では今回もよろしく頼む」
『だ、にゃん!!』
そしてルナはコホンと一つ咳払いをすると、
『あ、え~~アニオタ様、じゃなかった……おにーちゃん。わ、わ、わたし猫耳族のルナだにゃん♡ おにーちゃんの元気がないとわたしも悲しくなっちゃうにゃん、だからこれで元気を注入するにゃん』
読みながらみるみる顔を赤らめるルナ小隊長。
しかし彼女はグッと歯を食いしばり我慢して、次の演出に進む。
脇を締め、両拳を頬付近で折り曲げ猫の手を、胸をできるだけ強調させつつお尻と尻尾をふりふりふりふり。
『にゃんにゃん萌え萌え♪ プリプリ萌え萌え♪ 魔法のことば、リリカル、ララリル、おいしくなぁ~~れ♪、ララリル、リリカル萌え萌えキュン☆』
そして決めポーズ。指でハートマークを形作る。
『はい、良く出来ました。アルテマの報告通りに台本を書いてみたのですが、こんな感じで大丈夫でしたか?』
ぱちぱちぱち、と手を叩きながらヒソヒソと確認してくるジル。
「はいバッチリです師匠。こちらで観た動画通りのセリフと踊りでした、完璧です」
『まあ、よかった』
頭から湯気を上げて固まっているルナを尻目に、ホッと胸を撫で下ろすジル。
アルテマは満足気にうなずくと、
「さあアニオタよ、私は学んでいたぞ。これがこの世界の『萌え』という美意識であろう? それを欠いてお前は心を失ってしまったのだろう? ならばホレ、これでその空虚を埋めるが良い」
じゃんっとアニオタに見せつけてやる。
それを冷ややかな目で見る元一と六段。ついでにぬか娘も目を覚まして、
「……いや、そのまぁ……合ってないこともないんだけど……舞台裏が丸見えというか……棒読みもはなはだしいというか、これじゃあヤラセ全開じゃない……」
「む、しかし……練習させている暇など到底なかったからな……」
むしろこの短時間で、要望通りの猫耳娘を連れてきて台本を書き、踊りまで一通り指導してくれたジルに感謝である。もちろん、あきらかに自尊心を傷つけながらも命を全うしてくれたルナにも感謝であるが。
が、確かに、以前動画で見た『めいど』とやらの娘たちと比べるとセリフも踊りもお粗末なのは認めるしかない。
現にアニオタも興醒めしたかのように大人しく固まって、ルナを見ていた。
やはり即興で準備した
『ふ、ふふふふ……なんじゃ驚かせおって、こやつ再び呆けておるではないか? なんぞ策を講じたようじゃが……無駄だったようじゃの?』
その冷めた様子を見て、ほっほっほと、お返しのように勝ち誇る
「く…」
まずいぞ……これでもアニオタの心を満たせないとなれば、もはや打つ手はない。
アルテマは作戦の失敗を予見して焦りの色を浮かべる。
『一瞬は怯んでもうたが……では、あらためて、その体もらうとするぞえ?』
いやらしく笑うと、再びアニオタの口へ吸い付こうとする
「
『んん?』
「
『ん、なんじゃこやつ? 妙に心力が上がって……』
「
『ゔぁっ!?』
渾身の叫びに、再び弾かれ吹き飛ばされてしまった!!
そしてアニオタは大興奮に体から湯気を噴出させる。
「ぎ、ぎ、ぎ、ぎこちなさと、は、は、は、恥じらいと、い、い、一生懸命さの向こう側に、せ、せ、せ、戦士の素顔が垣間見え、そ、そ、そのギャップと、いけないことをさせている背徳感が、ぼ、ぼ、ぼ、僕のハートにヒートでビートぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉぉぉぉっ!!!!」
そして拳を突き上げて、
「我が生涯に一片の悔いなし!!」
と感涙に
「……あ、逆に良かったのね……」
その表情からアニオタが完全復活したのを理解するぬか娘。
いまアニオタの心は萌えという名の鉄壁でガードされ、悪魔どころか、いかなる愚劣な誹謗中傷にもびくともしない強さに守られている。
それはつまり、この事件の落着を意味していた。
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